【中日新聞杯回顧】ヤマニンサルバムが重賞初V 落ち着かない流れで見せた三浦皇成騎手の好プレーが光る

勝木淳

2023年中日新聞杯、レース結果,ⒸSPAIA

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先週から続く流れ

先週のチャレンジCに続く古馬の芝2000m重賞ながら、こちらはハンデ戦。なおさら来年に向けて重賞戦線に食い込みたい若い馬たちに注目が集まった。チャレンジCではベラジオオペラが同斤量のボッケリーニを封じた。本レースの最終的な1番人気はリューベックだったが、3歳ホウオウビスケッツに対する評価はベラジオオペラの結果によって高まっていた。直近の結果をトレンドととり、乗るか、ベラジオオペラとホウオウビスケッツは別だと割り切るか。週末にその日の馬場傾向をチェックし、予想に組み込むことが常識となった昨今、流れは意識せざるを得ない。

しかし、必ずしもそうはならないのも競馬だ。馬場傾向でいえば、開催2週目の中京芝は今年、9月の代替がなかったこともあり、ここ数年よりメンテナンスが行き届き、絶好の状態だった。この日も時計は速く、芝は前残り、先行優位の傾向にあった。トラックバイアスもホウオウビスケッツに追い風となっていた。しかし、結果は12着。最後は力尽きた。


突っ込んで入った序盤の攻防

これが最後の競馬になる歴戦の猛者ユニコーンライオンは逃げて実績を積み上げてきた。ここもスタート直後から出ムチを入れ、行く構えをみせた。対して、馬なりで並びかけたのがホウオウビスケッツだ。最初の正面直線では抑えて2番手に入る構えだったものの、3歳と7歳、斤量差など脚力の差は明白で、ハナを奪うことになった。ここまでの攻防が34.7。昨年は37.2だったので、全体的にはスローであっても、やや突っ込んで入った。

その後は12.8-12.7と向正面ではきっちりペースダウンし、1000m通過は1:00.2。馬場を考えれば速くはない。ここで息を入れ、残れる計算は立つも、馬はリラックスできたとはいえなかった。さらに2番手になったユニコーンライオンが自身のレースをすべく、早めに先頭を奪いにきたため、後半は12.0-11.8-11.3-11.5-12.0と下りに転じる残り1000mからペースアップし、4コーナーから坂の手前で11.3を踏んだ。

中京芝に限らず、残り400mより600m地点が速いと、先行勢がなかなか最後までもたない。ラスト200mは踏ん張れても、400mはそうはいかない。結果的に差し馬の台頭を呼び込んだ。だが、勝ったヤマニンサルバムだけは好位から残った。ポイントはユニコーンライオンが流れを動かしに行き、ホウオウビスケッツが応戦した中盤の攻防を追いかけなかったことだ。離される形になっても、まだ早いと判断し、ひと呼吸おいた三浦皇成騎手の判断がすべてだった。中京4勝のコース巧者であり、馬も攻略法をよく知っている。

ヤマニンサルバムも前走でオープン初勝利をあげた、いわば4歳の上がり馬。格より勢いという筋は正しかった。57キロという斤量も絶妙だろう。この一族は報知杯4歳牝馬特別(現フィリーズレビュー)3着ヤマニンザナドゥを出発点にJRAのオープン勝ちがあるヤマニンエマイユを介し、枝葉を広げている。錦岡牧場が大切に守ってきたワンオブアクライン牝系でもある。母ヤマニンエマイユも左回り巧者で、ヤマニンサルバムは母に似ており、父イスラボニータから距離適性を受け継いだ。父は皐月賞など高速決着の芝1600~2000mを得意とする典型的なフジキセキ産駒だった。

2、3着は適性の差

上記の通り、先行争いが結果的に厳しい流れを呼び込んだため、2着以下は差し馬が台頭した。

2着ハヤヤッコは4コーナー12番手から大外をジリジリと伸びた。昨年は見せ場たっぷりの5着、その後も中京はGⅡで勝ち馬と0.5差、夏の函館記念が0.4差、オールカマーも0.9差と7歳でも崩れず走ってきた。ハンデ戦の斤量がずっと58.5kgで据え置きにされていたのも、この辺をハンデキャッパーが評価していたからだろう。昨年のような瞬発力勝負では見劣るが、最後に時計を要する流れになれば、最後までしっかり伸びる。キングカメハメハ産駒らしく、1度使って状態も上向いた。こちらも戦歴をみると中京巧者といえる。

3着ピンハイは中団から先に動いて勝ちに行った分、最後に少し甘くなった。結果的にはハヤヤッコにマークされ、仕掛けのタイミングを計られた印象もある。ベストは瞬発力勝負になりやすい、外回り1800mだろう。体も小さく、軽い競馬が合うので中京は最適とはいえず、それでも3着確保は力の証だろう。


2023年中日新聞杯、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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