【皐月賞回顧】ミュージアムマイルが一冠目奪取 炸裂した一族の底力、2着クロワデュノールはセンスの良さがアダに

勝木淳

2025年皐月賞、レース結果,ⒸSPAIA

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ポイントは高速馬場とファウストラーゼン

牡馬クラシック第一冠・皐月賞は断然人気のクロワデュノールをミュージアムマイルが破り、一冠目を奪取した。3着はマスカレードボール。勝ち時計1:57.0は昨年ジャスティンミラノが叩き出した1:57.1を上回る皐月賞レコードだった。

8週間に及ぶ連続開催の最終週。土曜日の芝クッション値に驚いた。「10.3」。これは開幕週日曜日の「10.1」を更新する、この春の連続開催における最高値。芝1200mの袖ケ浦特別(2勝クラス)では1:07.2と驚異的な時計を叩き出した。中山芝が速い。これこそ予想を根底から覆すだけの材料となった。

日曜朝のクッション値は「10.6」。前日よりさらに上昇した。芝2000mの野島崎特別(2勝クラス)は1:58.2。とりわけレースの上がり600mが34.2と速く、非常に走りやすい馬場だった。加えて、皐月賞史上初のCコース設定。内側の悪い部分が柵でカバーされ、内柵が外に出る分、コーナーも緩やかになった。

この状況下で行われるレースは、飛ばす馬が見当たらないとはいえ、高速決着になることは明白。この世代のトライアルは弥生賞ディープインパクト記念(以下、弥生賞)やスプリングSがともに重馬場で行われており、高速決着への対応力は読みづらい。

高速決着ともうひとつ、レースのポイントになったのはファウストラーゼンだ。

ホープフルS、弥生賞とこの舞台でマクリを打ち続けて3着、1着。極端な競馬はしたくないはずもゲートが悪く、瞬発力勝負で分が悪いとなると、マクリ以外に打開策はない。

引いた枠は8枠17番。お膳立ては整っており、問題はどこでマクるのか。それをマークする馬はあらわれるのか。ファウストラーゼンが動いたのは残り1000m標識手前。前半1000m59.3のあとは11.4-11.5-11.8-11.4-11.6と5ハロンのロングスパート戦になった。

やはりカギはファウストラーゼンだった。だが、今回はアロヒアリイについて来られ、中盤11.4-11.5と厳しくなった。さすがに前哨戦をマクって勝つとマークされる。


センスが仇となったクロワデュノール

これら攻防の影響を受けた馬こそ、2着のクロワデュノールだ。

休み明けでもパドックのデキは申し分なし。相手はほぼキャリアのなかで下した馬たち。無敗の皐月賞馬へ。大きな期待を背負っての出走だった。

スタートから無難に好位置を確保し、さしも速くならない流れに対し、動けるポジションをとる。だが、中盤のマクリによって外から寄られ、わずかにリズムを乱す。

位置を下げるわけにはいかない。外をじわりと進出し、4コーナー出口で前は射程圏。正攻法も正攻法。文句なしの内容だった。

だが、その背後を狙っていたミュージアムマイルの強襲に屈し、2着。敗因はマクリの際にごちゃついて乱れた場面ぐらい。これも好位をすっと確保できたゆえのできごと。類まれないセンスがかえって仇となった。

クロワデュノールの競走センスをもってしても勝てない。競馬の難しさを痛感した。


高速決着と結びついたマイル経験

勝ったミュージアムマイルは終始クロワデュノールの1列後ろを進み、3コーナー手前でクロワデュノールが動いてもあえて動かず、それでいて自身の進路は頑として譲らない。常に動けるポジションを主張するJ.モレイラ騎手の執念が光った。外に出したのは残り400m。マクリ気味に外を進むクロワデュノールに対し、距離ロスを抑え、溜めるだけ脚を温存して直線を迎えた。

名前にマイルとつき、マイル戦の朝日杯FSで2着。もっといえば弥生賞で先行して伸びを欠き4着と、戦歴はマイラーっぽさを感じさせた。だが、この血統は母系をみると、4代母にハッピートレイルズの名がある。名マイラーだったシンコウラブリイの母だ。

この一族にはトレジャー、ムイトオブリガード、ハッピールックといった中長距離型の名があり、勢いに乗るチェッキーノ牝系も含まれる。マイルから中長距離と、距離適性に幅がある。これがハッピートレイルズ一族の底力であり、ミュージアムマイルは“マイルにも対応できる中距離型”に属する。

1:57.0という高速決着は、マイルGⅠ経験があるミュージアムマイルの背中を押した。令和の代名詞であるGⅠからGⅠへというローテーションに対し、朝日杯FSから弥生賞を叩いて本番という昭和・平成スタイルが待ったをかける。そんな皐月賞だった。

クロワデュノールの戦歴があまりに鮮やかであり、負かした馬たちの活躍も評価を押し上げ、我々もやや決めつけすぎた感もあった。ダービーに向けて、ゼロベースで改めて考えていきたい。


2025年皐月賞、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『オルフェーヴル伝説 世界を驚かせた金色の暴君』(星海社新書)に寄稿。

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