【ステイヤーズS回顧】3度目の正直で重賞初制覇 アイアンバローズを勝利に導いた石橋脩騎手の好判断
勝木淳
ⒸSPAIA
アイアンバローズだけが理想的な流れ
ジャスティンパレスが菊花賞へ挑戦する際、兄はステイヤーズS2着アイアンバローズなので、血統的に距離は問題ないと紹介された。事実、菊花賞3着、阪神大賞典、天皇賞(春)連勝と、弟は今年、一気に飛躍し天皇賞(秋)では世界ナンバー1イクイノックスの2着に入った。
すっかり弟に先を越されてしまったアイアンバローズだが、今年、ついに自分の庭で重賞タイトルをつかみとった。ステイヤーズSは過去2、4着。このレースの走り方をもっとも知る馬が勝ったといえる。昨年は京都大賞典6着、今年は同レース11着と少しパフォーマンスを落としたかと思われたが、関係なかった。自分の得意ゾーンに来れば、巻き返す。競走馬の能力は一定ではなく、様々な条件で大きく変化する。いかに力を出せる得意ゾーンに出走させるか。まさにそれを教えられる競馬だった。
今年は馬体重10キロ減の504キロ。これは昨年と同じで2年前とも4キロしか変わらない。陣営の揺るぎない仕上げがこの数字に見える。8番人気は人気がなさすぎた。あらゆるファクターから陣営の意図をくみとることは大切だ。2年前のステイヤーズSと今年を1200mごとのラップで比べると、
21年1:18.1-1:18.4-1:11.1 3:47.6
23年1:15.5-1:17.5-1:12.4 3:45.4
序盤はアフリカンゴールドにハナを譲り、2番手に控えるも、少し行きたがる素振りを見せたため、石橋脩騎手がアフリカンゴールドをとらえ、ハナに立つ形に切りかえた。ここが勝因だろう。あまり引っ張りすぎて、スローから終いだけの競馬にしてしまうと、瞬発力で見劣るのは2年前に自身が経験していた。経験と思い切りのよさが、理想的なペースに結びついた。
先頭に立ってからは後ろを引き離しつつ、十分に息を整えた。スパート前の1800~2400mの区間は13.1-13.1-13.1。後ろも動きにくい区間を利用したペース配分は見事だった。前半はある程度隊列を離すために13秒を切るラップを刻み、中盤で一気にペースを落とし、最後はじわじわと加速する。アイアンバローズだけが理想的な流れに乗れたといっていい。
まるでビートブラックの天皇賞(春)
最後の1200m1:12.4は、12.3-12.3-12.2-11.9-11.7-12.0。2年前が12.2-11.9-11.7-11.6-11.3-12.4なので、今年は仕掛けを待ち、余裕をもって最後の直線を迎えられた。後ろが追いかけてこなかったのも大きい。8番人気で各騎手の視線から外れていたか。追撃したかった好位勢セファーラジエルに長距離適性がなく、その後ろにいた2、3着馬も仕掛けが遅れてしまったようだ。もっとも体力がある一頭に展開利があっては、ほかはなす術なし。アイアンバローズと石橋脩騎手に一本とられた形になった。
途中から動き、ハナに行き、大きなリードを作って逃げ込む。石橋脩騎手といえば、2012年天皇賞(春)のビートブラックを思い出す。14番人気での大駆けだったが、このとき1番人気だったのはアイアンバローズの父オルフェーヴル。なにかドラマを感じざるを得ない。ビートブラックは先日、京都競馬場の誘導馬を引退したばかり。因果は色々巡る。
2着テーオーロイヤルは上がり最速33.9の末脚を繰り出すも及ばなかった。アイアンバローズの幻惑戦法にやられた印象だ。それでも前走を約1年の骨折休養明けで使い、得意の長距離で変わり身をみせた。復調が感じられる内容で、今後も長距離戦ではアテになる。一方で、ゆったり運べる条件がベストで、2000m前後や時計が出る馬場だと差し損ねる可能性は高く、条件は見極めて勝負をかけよう。
3着にはマイネルウィルトスが入った。3000m超は初出走だったことを考えれば、今後の選択肢は広がった。7歳で重賞2、3着と充実期にある。加えて操縦性や折り合い面の不安のなさで距離はこなせるが、最後の最後はちょっとしんどい。本音は2500m前後がよさそうだ。それでも長距離で連下級にはおさえよう。舞台を選ばないタイプで大崩れが少ない。
1番人気キングズレインは5着。2、3着馬と比べると、勝負所で動けなかった。距離の課題もあったかもしれないが、コーナーで加速しないといけない中山は本質的に合わないのではないか。さすがに小回りの重賞だと機動力で差がついてしまう。距離的にも前半から強気に行けなかった。不安のない条件で見直そう。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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