2024年新種牡馬リーディング サートゥルナーリア、ナダルら10頭の覚えておきたい「狙い時」
鈴木ユウヤ

ⒸSPAIA
2024年新種牡馬リーディング10傑
2024年JRAリーディングサイアーはキズナが獲得した。長きに渡ったディープインパクトの“絶対王政”が終焉を迎え、その連覇を止めたドゥラメンテも既に他界。「年初の時点でリーディングが読めない」という、サンデーサイレンスの全盛期以降はほとんどなかった混戦の年を制したのはキズナだった。
そんな種牡馬戦国時代の真っただ中、昨年新たに父としてスタートを切った「新種牡馬」たちがいる。彼らの能力や適性を整理しておくことは、将来の競馬界を占う上でも、より身近な馬券検討の上でも大いに役立つことだろう。
今回は2024年のJRA新種牡馬リーディングを10位まで紹介し、各産駒の成績と傾向について分析する。
<2024年のJRA新種牡馬リーディング>
1位 サートゥルナーリア
2位 ナダル
3位 アドマイヤマーズ
4位 モズアスコット
5位 タワーオブロンドン
6位 ルヴァンスレーヴ
7位 ミスターメロディ
8位 フィエールマン
9位 フォーウィールドライブ
10位 ウインブライト
新種牡馬リーディングに輝いたのはサートゥルナーリア。現役時代はGⅠ・2勝にとどまったが、母シーザリオ、半兄にエピファネイアとリオンディーズがいる超良血もあって初年度の種付け料は600万円と強気の設定。それでも205頭が種付けされた。
最終的に2位ナダルとの獲得賞金の差は約650万円。勝負は最終日までもつれたが、ホープフルSで産駒のクラウディアイが5着、700万円を獲得したのが"決勝点"となった。
ただ、出走1頭当たりの賞金は363.9万円で、これはナダル(501.8万円)、アドマイヤマーズ(482.8万円)、モズアスコット(390.9万円)より低い数字。重賞タイトルはなく、2勝馬も1頭(キャッスルレイク)だけ。事前の期待に比して大満足と言える内容ではなかった。2年目はさらなる飛躍が求められる。
2位は社台スタリオンステーションが導入したナダル。新馬戦開幕から最初の3週で【3-2-0-1】の好スタートを切ると、その後も次々と産駒が勝ち上がり。ダートに限れば10月終了時点では複勝率7割超という衝撃的な数字をマークしていた。自らの評価を急激に高める鮮烈なルーキーイヤーだった。
3位アドマイヤマーズは朝日杯FS、NHKマイルC、香港マイルを制して種牡馬入り。重賞で勝ち負けする大物はまだ出ていないが、短距離~マイルを中心に下級条件でコンスタントに走った。この堅実さは父ダイワメジャーとイメージが重なる。2勝馬エンブロイダリー、先日紅梅Sを勝ったナムラクララが春の重賞でどこまでやれるかお手並み拝見だ。
4位モズアスコットは欧州の大種牡馬Frankelのサイアーラインを日本で繋ぐ存在。ホープフルS3着馬ファウストラーゼンや、もみじS勝ち馬リリーフィールドを出したほか、地方所属馬では川崎で4戦4勝、着差合計7.2秒の大器・ベアバッキューンがいる。
ランクインした面々を見ると、ナダルは父がロベルト系Blame、モズアスコットは前記の通りFrankel、タワーオブロンドンはRaven’s Pass、ミスターメロディはScat Daddy、フォーウィールドライブはAmerican Pharoahという血統。この5頭はサンデーサイレンスの血を持たない。サンデーの血統が飽和した環境において「日本の競馬に対応できる異系種牡馬」の需要が高まっていると感じられる。
ここからは1位サートゥルナーリア、2位ナダルの2頭を中心に、各種牡馬の特徴と馬券的な狙い時を掘り下げる。
良くも悪くも「人気なり」の本命党向き種牡馬 1位サートゥルナーリア
サートゥルナーリア産駒の成績は【30-12-12-129】複勝率29.5%(※データは2025年1月19日まで、JRAのみ。以下同じ)。単回収率60%、複回収率56%は平均的な水準を下回っており、リーディングを獲得したものの苦戦の跡が見受けられる。
回収率が低調に終わった一因として、良くも悪くも「人気なり」だったことが挙げられる。単勝オッズ10倍未満の人気馬は勝率33.0%、単回収率114%とキッチリ走ったのだが、同10倍以上だと【1-3-5-86】で勝率わずか1.1%、単回収率11%にとどまる。伏兵の活躍がほぼなく、それが全体の回収率を押し下げてしまった。
したがって馬券的な付き合い方は「戦績がいい馬を素直に買う」に尽きる。「前走2-3着馬」が【11-0-0-5】勝率68.8%、特に新馬で2-3着に入った馬は次走【9-0-0-2】勝率81.8%とほとんどが2戦目で勝ち上がりを決めた。
距離的なベストは1400mで【5-3-2-16】複勝率38.5%、単回収率95%、複回収率108%となっている。現役時代は2000mで活躍したが、産駒は少し短めに適性が出ている模様だ。これは父ロードカナロアの影響か。なお芝ダートの比較ではやや芝優勢だが、決定的な差はない。
コース別では東京芝が【7-1-3-9】複勝率55.0%、単回収率104%、複回収率92%と好相性。特に3番人気以内では【7-1-2-1】複勝率90.9%までアップする。
戦績がいい馬、人気のある馬が、紛れのない東京芝でよく走る。なんとも「本命党向け」の種牡馬である。
ダート専門、社台ノーザン系産駒なら◎ 2位ナダル
ナダル産駒の成績は【32-18-12-100】複勝率38.3%で、サートゥルナーリアに比べて好走率が高い。しかし、こちらも単回収率68%、複回収率70%は平均よりやや下くらいの数字だ。
足を引っ張っているのが芝での成績。芝は【3-4-0-35】複勝率16.7%、単回収率15%、複回収率21%という有様で、1500m以上だと【0-0-0-23】。完全にダート一本の種牡馬だと考えよう。
ダートは【29-14-12-65】複勝率45.8%、単回収率87%、複回収率87%と上々で、今のところ距離は不問だ。中でも社台ノーザン系(※ノーザンファーム、社台コーポレーション白老ファーム、社台ファーム、追分ファームを指す)の生産馬は【18-9-8-27】複勝率56.5%、単回収率117%、複回収率117%と、ベタ買いで黒字だった。
また全体的に左回りの方が回収率は高く、上記の「ダート」「社台ノーザン系生産馬」「左回り」が重なると【10-2-5-11】複勝率60.7%、単回収率190%、複回収率149%と優秀。東京や中京のダート戦に出てきたナダル産駒はマーク必須だ。
3位~10位の種牡馬はこう狙え
3位~10位の種牡馬については特徴と狙い時を端的にまとめた。
3位アドマイヤマーズは条件を絞らずとも複回収率が100%を超えている。馬券的にありがたい存在だ。「1400m以下」で単回収率136%、複回収率134%、さらに「7-8枠」だと複勝率66.7%、単回収率300%、複回収率404%で、「短距離の外枠」が絶好の買い時だ。
4位モズアスコットはさらに強烈で、これも条件を絞らず複回収率132%をマーク。芝もダートもOKなのは自身の現役時代通りだが、1800m以上で【3-2-6-17】複勝率39.3%、複回収率277%と距離もこなすのは意外だった。
また、母父がサンデーサイレンス系だと複勝率38.8%、複回収率209%、それ以外が複勝率26.6%、複回収率66%と明暗くっきり。サンデー系の肌馬と相性がよい。血統背景からも今後どんどん需要を伸ばしていきそうだ。
5位タワーオブロンドンは京王杯2歳S勝ち馬パンジャタワーを輩出した。ここまでは芝の短距離専門であり、ダートは49戦して2勝止まり、1600m以上は【0-3-2-32】と勝ち星がない。
6位ルヴァンスレーヴは全13勝をダートで挙げている。推したい条件は二つで、まずはダート新馬戦【6-9-6-46】複回収率193%。もうひとつは中山ダ1800m【6-4-5-16】複勝率48.4%、単回収率217%、複回収率156%。これだけでも覚えておこう。
7位ミスターメロディはききょうS勝ち馬スリールミニョンを出したが、35頭出走して勝ち上がり4頭(5勝)、単回収率27%と苦戦を強いられている。しかしファルコンSと高松宮記念を勝った父をなぞるように、中京芝では【1-2-2-4】複勝率55.6%、単回収率166%、複回収率216%をマーク。サンプルが少ないながらも抜群の好成績だ。中京適性を仔に伝えている。
8位フィエールマンは菊花賞勝ち、天皇賞(春)連覇のステイヤー。産駒もここまで全7勝が1800m以上に集中している。ただ、マイル以下も未勝利ながら複勝率20.8%、複回収率172%と悪くない。これから中長距離の番組が増えてくれば、より活躍の場が広がるだろう。
9位フォーウィールドライブはBCジュベナイルターフスプリント(芝5F)勝ち馬。デビューから3連勝ののち、3歳シーズンに一戦して7着に敗れると、引退して種牡馬入りとなった。成績の傾向は芝ダート兼用のスプリント種牡馬。「馬体重480kg以上」の産駒が「1400m以下」に出走すると複勝率30.4%、複回収率171%だ。
10位ウインブライトは自身が苦手とした東京で、産駒も【0-1-3-30】と苦戦中。しかし中山でも複勝率14.9%、複回収率27%となかなか厳しいスタートになった。一方で函館&札幌の芝では【2-0-6-6】複勝率57.1%、複回収率135%とよく走った。現状の成績からは「洋芝巧者」という評価になる。
<ライタープロフィール>
鈴木ユウヤ
東京大学卒業後、編集者を経てライターとして独立。中央競馬と南関東競馬をとことん楽しむために日夜研究し、Xやブログ『競馬ナイト』で発信している。好きな馬はショウナンマイティとヒガシウィルウィン。
《関連記事》
・2023年新種牡馬リーディングをチェック スワーヴリチャードら10頭の覚えておきたい「買い条件」
・【競馬】2024年に産駒がデビューする種牡馬まとめ ダート馬ルヴァンスレーヴが種付け数トップ
・WIN5キャリーオーバー発生時は積極的に買った方がいいのか?