【富士S】前半800m45秒4の厳しいラップ GⅠに向けて評価できる馬は

勝木淳

2020年富士Sレース展開インフォグラフィックⒸSPAIA

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混戦を断ったヴァンドギャルド

GⅡ昇格元年の富士Sは出走馬12頭中、重賞勝ち馬7頭。数字面ではマイルCSの前哨戦にふさわしい顔ぶれではあったが、各馬の成績を注視するとヴァンドギャルド、レイエンダ、ワーケアは前走ふた桁着順、3頭いたGⅠタイトルホルダーのうちケイアイノーテックとペルシアンナイトは3歳GⅠ勝ち後に勝ち鞍がなく、尻すぼみ感は否定できない。GⅢ時代と同様に1人気サトノアーサーの単勝オッズは5倍、同オッズひと桁台が5頭もいる混戦だった。

1着は5人気重賞未勝利馬のヴァンドギャルド。東京新聞杯0秒2差6着、マイラーズC0秒5差3着と、これまでマイル重賞で善戦続き。そのうっ憤を一気に晴らした。2着は前走NHKマイルCを勝ったラウダシオン、3着はケイアイノーテックが3歳GⅠ以来久々に好走した。最後に同馬が競り落としたのはペルシアンナイト(4着)だった。

ハイペースと荒れた馬場に引き出された上位好走馬

東京の馬場は例年とはいささか異なる。前半2週、雨のなかでレースを行った影響から内側が悪く、乾いて時計面は戻ったとはいえ最後の直線では伸び比べというより伸びる馬と伸びない馬がはっきりする、そんな適性の優劣が明確な馬場状態。大きな着差をつけて勝つ馬が多かったのはそういった事情も関係していたのではないか。

パトロールを見ると分かるが、向正面は想像以上に内側の馬場状態が悪い。そんな状態ながらスマイルカナが作ったペースは前半600m33秒8、半マイル45秒4と厳しかった。

特に200m通過後から10.6-10.8とふた区間連続で10秒台は速く、外から同世代のシーズンズギフトが先頭に立とうと顔を覗かせ、それがプレッシャーとなったのか馬がエキサイトした様子でうまくペースを抑え込めなかったといったところか。横山典弘騎手は今開催の重賞で自由奔放な“らしい”騎乗が目立つ。

前が引っ張る流れのなか離れた3番手にいたラウダシオンには難しい展開になった。4角手前から坂下までで記録されたラップは11秒5。ラウダシオンは前を追い、後ろを警戒しながらもここで一気に飛ばした2頭を捕らえて先頭に立った。NHKマイルC勝ちの力は十分示した。

春以来の競馬で馬体重プラス16キロ、使った上積みも期待できる。ただし戦績から東京巧者であることは間違いなく、今後は右回りに適応できるか否かがカギとなろう。内容面から中身が濃い競馬ではあったものの、適性については冷静に判断したい。

福永祐一騎手はさすがのペース判断だった。ハイペースを読み切っていたようで道中はヴァンドギャルドを中団後ろ、内を避けて外に出てきたモズダディーの背後につけ、折り合いに専念。ラウダシオンやモズダディー、タイセイビジョンらの動きにもひと呼吸置いて対応、大外に持ち出して末脚を引き出した。

好位から伸びきれず、ためても一歩足りなかったヴァンドギャルドに対して負荷をかけない競馬を組み立て、馬を伸ばすように走らせた点が印象的だった。どのぐらいのリズムを刻めば馬が最後までしっかり走るのか、福永騎手のそんなストロングポイントにさらなる磨きがかかった印象だ。

3着ケイアイノーテックとペルシアンナイトの差は馬場だろう。内側を通り、内から抜けてきたペルシアンナイトとヴァンドギャルドについていき、さらに外へ行ったケイアイノーテック。その差はないに等しい。

昨年の前後半800mは47秒0-46秒0で1分33秒0。今年は前後半800m45秒4-48秒0の1分33秒4。馬場状態の差やペースなどを考慮すると今年の内容は濃く、例年の富士Sとは異なり、GⅡ昇格にふさわしい評価をしておくべきではなかろうか。

富士S展開図インフォグラフィック



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。


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