【福島牝馬S】ディアンドル、大人びたレースで再浮上! ヴィクトリアマイルで期待できる馬は?

勝木淳

2021年福島牝馬Sのレース結果インフォグラフィックⒸSPAIA

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回復傾向だった新潟芝

福島競馬場は2月13日に発生した地震によって被害を受け、春開催は新潟に振り替えられた。新潟の芝はJRAで唯一、1年通して野芝で行われる。開催が5、7、8、10月と管理しやすい時期にあるからだ。急遽振り替えられた4月開催は通常なら休眠中の芝を起こすシート養生のタイミングで、生育途中にあたる。芝丈が短く、茶色がかった昭和の競馬場のような風景に戸惑ったファンは多いだろう。心配はいらない。水はけがいい越後平野であれば、夏には変わらない鮮やかな緑の絨毯が広がるだろう。

前週の悪天候があったにもかかわらず、中間の好天もあり、当日のクッション値は朝の時点で10.1。メインと同条件で行われた未勝利戦は1000m通過1分0秒8、勝ち時計は1分48秒0。1週目の未勝利戦は1000m通過1分0秒3、勝ち時計1分47秒3。前半1000mのペース差を考えれば、そこまで差はない。事実、1週目未勝利戦の最後の600mは11.5-11.0-12.0、この日の未勝利戦は11.5-11.0-12.1だった。

大人になったディアンドル

福島牝馬Sは7番人気ディアンドルが1分46秒9で逃げ切った。1000m通過は未勝利戦と変わらない1分0秒6のスローペース。中山牝馬Sで逃げたロザムールが発馬直後から抑えて、行く気を見せないとみるや、ディアンドルは先手を奪った。小倉大賞典で番手から競馬、3着に好走しただけに控えるかと思いきや、ロザムールの挙動を確認、ハナに行った団野大成騎手の好判断だった。

長い直線が控える新潟外回りは、向正面から3、4コーナーにかけて動きづらい。中団以降は大集団、馬群のなかで手綱の引っ張り合い、我慢比べを強いられた。差し馬勢のストレスは大きく、最後の直線で目立つ末脚を繰り出せた馬はいなかった。

ディアンドルの後半800mは12.1-11.2-10.9-12.1。残り600mまでロザムールやフィリアプーラに4コーナーで迫られても動じず、ギリギリまで引きつけてから仕掛けた。このタイミングも見事だったが、それ以上にディアンドルの成長を評価したい。かつてはスプリント戦を中心に使われ、1400m以上では折り合いに苦労する馬だった。愛知杯では1000m通過57.9の猛ペースを演出、前半の制御が難しかった。前走小倉大賞典で番手に控え、我慢を覚えたことが今回の結果がつながった。

優先出走権を与えられたヴィクトリアマイルは距離短縮になるので、せっかく我慢を覚えた段階での出走はどうだろうか。中距離路線で今回のような競馬をしてもらいたいところだ。

ヴィクトリアマイルで狙いたいドナアトラエンテ

2着は1番人気ドナアトラエンテ。中団の外目で折り合い、比較的スムーズに回ってきた。直線で追い出したときに反応が鈍く、エンジンがかかったのは残り200m標識の手前。不良馬場だった中山牝馬Sははじめての重賞挑戦だったこともあり、力を出せなかったが、本質は2走前の初富士Sのような道悪、ハイペースといった厳しい条件向き。新潟の良馬場、スローペースでは使える脚に限界がありそうだ。

母はドナブリーニ。全姉はご存じドナウブルーやジェンティルドンナ。この一族は高速馬場に強く、どちらかといえば瞬発力よりスピードの持続力に長けたタイプが多い。ドナアトラエンテもそういったタイプで、GⅠのしまった流れで持続力勝負になれば、その血が騒いでもおかしくない。その一方で、スローになると踏んだ場合は切れ負けする心配もしておきたい。

3着サンクテュエールは3歳シンザン記念以来の好走、10番人気だった。乱れたリズムを4ヵ月の休養でリセットできたのか。馬群に入れず、ストレスがかからないスムーズな競馬ができた。杉原誠人騎手の好騎乗といっていい。母ヒルダズパッションといえば、POGや一口馬主で必ず話題になる血統。その割に前評判通り走らない難しい血統でもある。サンクテュエールが4歳春でスランプから脱出できたとすれば、その意義は大きい。今年の2歳も全弟がスタンバイ、1歳は父ハーツクライ、セレクトセールで税込み4億1800万円だった。

例年、福島牝馬Sは中山牝馬Sとつながりが強く、前走中山牝馬S組が活躍する。今年もドナアトラエンテがこのローテで2着に来たが、9着から2着と巻き返した形。中山芝1800mから新潟芝1800mと正反対の舞台になったことは今後のポイントになる。というのも福島芝1800mの福島牝馬Sは中山牝馬Sと親和性がある一方、ヴィクトリアマイルにはつながらない。当然、出走メンバーのレベルが足りない可能性はあるものの、新潟で行われた福島牝馬Sはいつもよりヴィクトリアマイルにつながるかもしれないと頭の片隅に入れておきたい。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。

2021年福島牝馬Sのレース展開インフォグラフィックⒸSPAIA