【マイルCS回顧】悲願のGⅠ奪取 ナミュールが「壁」を打ち破った決め手とは
勝木淳
ⒸSPAIA
京都競馬場を味方につけたナミュール
「能力は間違いなく世代上位」ナミュールの評価は2歳からずっと高かった。阪神JFから秋華賞までGⅠで4、10、3、2着と、徐々に着順をあげていった。3歳夏に高野友和調教師に取材した際も、「春は牝馬らしい面がモロに出てしまい、カイバを思うように食べなかった」と語り、オークス前になってようやく軌道に乗ってきたという感触だった。
年齢とともに強くなったナミュールだったが、今春のGⅠは7、16着。どちらも大きな不利があり、その潜在能力を出せなかった。GⅡ、GⅢでは強い競馬を見せるも、肝心のGⅠでは出遅れや不利など消化不良が続いた。「能力は間違いなく」という言葉は、無冠だからこそ使われる。
ようやくこの壁をぶち破ることができた。外枠から馬群に入らず、不利も受けなかった。なにより京都競馬場が大きかったのではないか。21年デビュー世代はこの春まで京都で走れなかった。2着に敗れた秋華賞も京都ならと思ってしまう。体が小さく、切れる反面、パワーが足りないナミュールにとって、GⅠでの急坂はキツかったのではないか。平坦で、下り坂を利用して楽に加速できる京都はぴったり。富士Sの回顧やマイルCSの展望記事でも、京都は合うと書いた自分は間違っていなかった。人知れずほっとした。
最後まで加速し続ける美しいラップタイム
京都の外回りマイル戦はちょうど中間地点の800mを頂上とする丘が特徴。今回もこの丘が展開と結果に大きく影響したとみる。序盤600m34.3、800m通過46.5で、上りにあたるスタートから600~800mの区間では12.2としっかりペースダウンした。超A級マイラーがそろうレースで46.5は速くはなく、追走にも余裕がある。馬群が一団で進んだため、ナミュールも後方とはいえ、そこまで厳しい位置ではなかった。
なかには上り区間でスピードを抑えきれない馬たちもいた。スピードがあるということは、その分コントロールも難しい。この上りで行きたがってしまうと、下りの4コーナーを勢いよく回ってしまい、外を回り末脚を失くしてしまう。
後半の下りの入りからゴールまでは11.7-11.6-11.5-11.2と最後まで加速していく非常にハイレベルなラップ構成になった。最後に11.2を叩き出したレースを後方一気で差し切ったナミュールは正真正銘のマイル女王といっていい。馬群を縫うような追い上げなど、代打藤岡康太騎手の手腕はお見事。急遽の騎乗のため、細かいことを考えず、シンプルにナミュールのリズムを重視したのもよかった。普段から馬との呼吸を大切に騎乗していた証だろう。
3コーナーに丘がある京都外回りマイルらしく、前後半800m46.5-46.0とバランスがとれたスキのない流れで、安田記念の前後半800m46.0-45.4と比べると、インパクトがないように見えるが、これは東京と京都の違いによるもの。後半600m11.6-11.5-11.2の並びは美しく、これぞ京都のマイルチャンピオンシップだ。最後まで加速し続けなければ勝てない。上がり33.0を記録したナミュールはゴール前200m、どれほどのラップを刻んだのか。これを分析すれば、ナミュールの価値はさらに高まるだろう。
ソウルラッシュもまた京都を味方に
2着は3番人気ソウルラッシュ。序盤から馬群に入り、最後の直線のさばきまで、かなりタイトな競馬になった。これをやり抜き、あわや先頭の場面も作ったのは、さすがJ.モレイラ騎手だ。土曜日の東京スポーツ杯2歳Sでのシュトラウスもだが、馬のリズムの作り方が素晴らしい。過去10年で前走京成杯AHは【0-0-0-9】と相性がいいとは言えないが、前走で積極的な競馬をしたことで、中団後ろから上手に流れに乗れたのではないか。安田記念はここ2年で13、9着、阪神のマイルCS4着であり、こちらも京都競馬場を味方につけた。
3着ジャスティンカフェも直線半ばでは勢いがあり、あわやの場面をつくった。こちらは馬場のいい外目へ上手く持ち出すも、中盤に緩んだところで、馬群の中で少しリズムを崩したか。やはり上りで行きたがると、最後に影響する。なかなか仕掛けるだけのスペースもなく、我慢を強いられる競馬になったが、最後は上手く抜けてきた。GⅠではワンパンチ足りないが、広いコースなら重賞は十分とれる。
シュネルマイスターは国内GⅠで1番人気3連敗となった。どうにもGⅠになると、色々と上手く運べない。今回もゲートでチャカつき、出遅れてしまった。ナミュールと同じ後方でも、後手を踏んでのものだとニュアンスが違う。終始、リズムが悪かった。
2番人気セリフォスは積極的な競馬に出たが、坂の上りでリズムが乱れた。上りで勢いがついてしまうと、下りもしんどくなる。直線で反応できなかったのはこれが原因だろう。昨年は阪神で仕掛けを待つ形で勝利。今回は展開に左右されにくい先行策で安定して力を出す形を目指したが、その形が作れなかった。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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