【天皇賞(春)】円熟味あふれるジャスティンパレス! 競馬のあらゆる面が凝縮された淀の2マイル
勝木淳
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競馬の流儀とは
思考停止がいかに恐ろしいことなのか。単勝1.7倍タイトルホルダーの競走中止に心ない言葉が飛び交う結末にそれを思い知る。競技であり、ギャンブルでもある二面性をもつ競馬の主役は馬だ。命がけの生き物はときに人知を超えてくる。その瞬間に生まれる得も言われぬ感動もあれば、信じがたい落胆もある。そのすべてが競馬のなかにある。お金を賭ける側である我々はこのことを内包した上で、参加する。それが競馬の流儀というもの。でなければ、競馬とは長く付き合うことができない。
そして競馬はたまに思考停止の恐ろしさを伝えてくれる。「これで決まりだ」「間違いない」「鉄板だ」という言葉ほど競馬では信用できないように、何事も思考停止は危険だ。直近10年、4歳で天皇賞(春)を勝った馬はフェノーメノ、キタサンブラック、フィエールマンとすべて5歳でも勝ち、連覇を達成した。だからタイトルホルダーで決まりと安易に判断した自分の甘さを恥じる。これまで強烈な流れをつくり、耐え抜いてきたタイトルホルダーではあるが、外枠に入ったアフリカンゴールドとの位置関係とペースは留意すべき要素だった。
内枠から先行するタイトルホルダーに対し、外からアフリカンゴールドが覚悟を持って譲らない構えを見せる。レースの入り序盤600mは12.3-10.8-11.9で35.0。これはデータがある86年以降、芝3200mでは1990年中山ブラッドストーンS(当時は芝3200m)で叩き出した34.8に次ぐ速いラップだった。2200mの宝塚記念で33.9、菊花賞で35.1を経験してはいるが、これだけ突っ込んで淀の坂に入った経験は当然ない。2マイルを乗り切るには想像以上に厳しすぎる序盤だったといえる。実際、タイトルホルダーとアフリカンゴールドはともにゴールできずに競走中止した。とにかく2頭の無事を願うよりない。
ジャスティンパレスの勝利は経験と技術の結晶
タイトルホルダーとアフリカンゴールドが作る苛烈な序盤に対し、一歩引いた位置にいたのが勝ったジャスティンパレス。2、3番手につけられる器用さはあるが、タイトルホルダーの気迫を感じ、あえて引いたルメール騎手のペース判断は実に的確だった。あくまで馬が気分よく走れるリズムをつくることを心掛けての位置だったのは間違いなく、勝負所では早々にディープボンドの背後につけ、抜群の手ごたえで仕掛けのタイミングを待った。
ジャスティンパレスの完璧なレース運びは昨秋から長距離戦で位置をとり、そこで折り合って我慢しつつ、最後はタイトな馬群を抜けてくるという形を磨いてきた、いわば経験と技術の結晶だ。教え込んできた陣営とそれを身につけていったジャスティンパレス、そして引き出したルメール騎手。立場が違う三者がひとつになった姿もまた競馬の醍醐味だ。この勝利がセンセーショナルな結末に隠れてほしくない。
父ディープインパクトはこれでその父サンデーサイレンスに並ぶ史上最多タイのJRA・GⅠ71勝目をあげた。産駒の数はもう増えることはないが、ジャスティンパレスやクイーンエリザベス2世C2着プログノーシスなどまだまだ新記録を樹立する可能性を残す。日本競馬に革命を起こした父を超える瞬間を楽しみに待とう。
3年連続2着のディープボンド
2着ディープボンドはこのレース、3年連続2着。阪神だった過去2回とは違う京都でどうなのかと思ったが、レース全体がタフな流れになったことで、自慢のスタミナを発揮できた。普段は勝負所でズブさを見せるが、今回は外目を手ごたえ十分。京都の下り坂によって、スムーズな加速に成功した。ジャスティンパレスとは決め手の差が出てしまったが、同一GⅠ3年連続2着は悔しさもあるが、立派な記録だ。
3着シルヴァーソニックは昨年の競走中止から1年。ステイヤーズS、レッドシーターフハンデキャップと連勝。着実に力をつけ、この舞台で出し尽くした。中盤から終盤でペースが落ち、最後の600mは11.9-11.5-11.9、35.3。極端に時計を要さず、好位勢が踏ん張るなか、終始外を通って、最後にひと伸びしたのは底力の証明だ。
最高の競馬を見せたジャスティンパレス、またも2着に終わったディープボンド、復活したシルヴァーソニック、アクシデントに見舞われたタイトルホルダーやアフリカンゴールド。競馬が見せるあらゆる面を凝縮した3:16.1だった。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。
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