【ラジオNIKKEI賞】タフな展開で適性くっきり 菊花賞でも通用するフェーングロッテンの長所

勝木淳

2022年ラジオNIKKEI賞回顧,ⒸSPAIA

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3歳限定戦唯一のハンデ戦を制したフェーングロッテン

3歳限定戦唯一のハンデ戦は毎年、ハンデ差が小さい。今年のトップハンデは毎日杯2着ベジャールの56キロ。最軽量は1勝クラスを勝ったばかりの牝馬タガノフィナーレの51キロ。上下差5キロだが、牝馬のアドバンテージ2キロを含めると、実質最軽量は前走1勝クラス敗退のミッキーブンブンの52キロであり、その差は4キロ。1キロ1馬身とすると、全馬4馬身以内にひしめく混戦。逆転の秋を目論む馬たちの戦いが早くもはじまった。

勝ったのは55キロ、フェーングロッテン。毎年クラシックに多くの出走馬を送るサンデーレーシングはハンデ戦になった06年以降、ラジオNIKKEI賞【0-1-2-7】。18年フィエールマン2着が最高で、意外にも同レース初勝利だった。

フェーングロッテンは2歳11月に未勝利脱出後、1勝クラス10、10、3着。好走は重馬場の大寒桜賞と前走格上挑戦のオープン白百合S。いずれも同じ中京の芝中距離だが、力のいる馬場と高速馬場と状況はまったく違い、ちょっと適性がわかりにくい馬ではあった。

白百合Sは少頭数7頭立ての逃げ切り勝ちも、スローで恵まれたものではなく、前後半1000mが1.00.6-59.2と均整のとれた流れ。後半600mは11.3-11.5-11.9と持続力を感じさせるラップだった。

ポイントは遅くもなく速くもない一定のペース

今レースは逃げて勝ちあがってきた馬が多く、それも短い距離中心に使われてきた馬もいて、ペースが乱れる可能性があった。実際、スタート直後からショウナンマグマの菅原明良騎手が激しめのアクションで先手を主張。行きたい馬が多いと予想されたからこそ、きっちり主張する必要があった。その甲斐あって、ショウナンマグマの主張に異議を唱える馬はおらず、すんなり逃げることができた。

フェーングロッテンも気合こそつけられたが、オウケンボルトが目の前に入ってきたことで、控える作戦に切りかえた。ゲートで遅れた馬や作戦を変更した馬が多かったことも、ショウナンマグマのマイペースに影響した。ペースは前半1000m通過58.8。前日3勝クラス芝1200mTUF杯1.08.0と福島は開幕週でも小倉のような高速馬場ではなかった。

それだけに若干速いような気もするが、決してハイペースではない。好位、中団勢もそう判断したからこそ、ショウナンマグマの背後は縦長にならず、一団の状態。各騎手がついていかなければと考えたのは、ショウナンマグマのマイペースを察知したからであり、開幕週の福島で後方から末脚にかけるのはリスキーだったからだ。

こうなれば、いかにロスを最小限にできるかが勝負をわける。前に置かれず、外を回らず、これが必須条件。フェーングロッテンはそれをすべて実行した。外への意識もあったという松若風馬騎手だが、4コーナーで他馬が外から進出、外に出せないとなると、ラチ沿いに切りかえた。ショウナンマグマと内ラチの間、一度は狭くなりかけながらも、巧みに手綱でコントロール、フェーングロッテンを立て直し、怯ませなかった。円熟味ある騎乗だった。

レースラップは12.3-11.0-11.6-11.9-12.0-12.0-12.0-11.7-12.2。落ち込むところもなければ、極端にペースアップする場面もなく、ほぼ一定の流れ。フェーングロッテンの強みはこういった流れで正攻法の競馬ができるところ。持続力の鬼キタサンブラックを送った父ブラックタイドと母の父キングヘイローのダンシングブレーヴ系の血の影響が強い。

母はピクシーホロウであり、スプリントチャンピオンになったピクシーナイトの半弟。ピクシーナイトもスピードの持続力と操縦性に優れた馬で、フェーングロッテンも似たところがある。ただし父がブラックタイドに替わったことで、適性距離はもっと延びる可能性は高い。今年も菊花賞は持続力を問う阪神。フェーングロッテンにとって真価を発揮できる舞台だ。

一定のラップを刻んだレースで2着に残ったショウナンマグマもまた同じ持続力タイプ。きさらぎ賞で外に逸走、プリンシパルSでは控えて折り合いを欠くなど春は順調さを欠いた。単騎で逃げることによって活路を見出したように難しいタイプ。この好走で信頼できるとまでは言えないが、そこは母の父ステイゴールド。続けて力を出せなくても割り切りたい。ステイゴールドの影響があるならば、古馬になっての成長力も魅力。これからさらに強くなる可能性を秘めている。今回の逃げはその片鱗、開花を待ちたい。

3着サトノヘリオスはフェーングロッテンと同じく内枠からインを立ち回り、勝負所で上手く進路を確保し、伸びてきた。未勝利、1勝クラスをレコードで勝ちあがった素質馬。2勝目のエリカ賞はフェーングロッテンが10着に敗れたレース。スプリングS3着と急坂のあるコースに強く、平坦のここでは若干、差し遅れた印象。荒削りなところがあり、モロさを露呈することもあるが、今回は比較的器用さを見せた。中山、阪神の内回りなら再度好走できそうだ。


2022年ラジオNIKKEI賞回顧展開,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。

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