【有馬記念】過去のクリスマスイヴ決戦に勝ち馬のヒントあり 2006年ディープインパクトなど3レースを振り返る

高橋楓

有馬記念、1番人気の単勝オッズ別成績,ⒸSPAIA

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今年はクリスマスイヴ決戦

この時期になると至る所からクリスマスソングが聞こえてくる。筆者はすぐに函館2歳Sを制し、短距離路線で活躍したバゴ産駒の” クリスマス”を思い出してしまう。これは職業病だろうか。さて、今年の有馬記念は12月24日のクリスマスイヴ決戦。そこで今回は2000年以降のイヴに行われた有馬記念の勝ち馬を振り返っていく。

世紀末覇王降臨 2000年テイエムオペラオー

2000年の競馬界はテイエムオペラオーのためにあったと言っても過言ではないだろう。年明け初戦の京都記念からジャパンCまで全て1番人気に支持され7戦全勝。有馬記念でも単勝1.7倍の圧倒的1番人気に支持された。有馬記念を制すると、当時の古馬中距離GⅠを同一年に完全制覇することになる。ゲームでも漫画でもなく、現実でこんなことが起こるのかと、レース前は驚きと期待が入り交じっていた。

2000年 第45回 有馬記念,ⒸSPAIA


2000年12月24日、第45回有馬記念。20世紀最後のビッグレースが異様な雰囲気の中でスタート。逃げ馬ホットシークレットのスタートが良くなく、レースはスローに落ち着くが、1周目のスタンド前ゴール板を過ぎた頃に、いつもと違う展開になっていることに気がついた。テイエムオペラオーが後方3番手にいるではないか。

この年のレースぶりは逃げ馬を見る形で先頭集団にいることが多かったオペラオーが、いつものポジションを取れなかったのだ。何とか一矢報いたいメイショウドトウもいつもよりは後ろの位置につけ、人気の一角ナリタトップロードは先団を進んでいた。オペラオーは4コーナーの手前でも進路が見つからず、後方5番手。残りは直線310mしか残されていない。道中から何度も進路を探していた鞍上の和田竜二騎手は、覚悟を決め馬群に突っ込んだ。

ラスト200m、前を見ると13番人気の8歳(現行表記では7歳)馬ダイワテキサスが見事なレース運びで一歩抜け出していた。場内は歓声、悲鳴、怒号と様々な感情が飛び交い、これは大荒れだと思った瞬間、外からテイエムオペラオーとメイショウドトウが並んで飛んできた。絶対王者として負けられないオペラオーと、宝塚記念、天皇賞(秋)、ジャパンCでその2着だったメイショウドトウの追い比べ。大接戦をハナ差で制したのはテイエムオペラオーだった。2000年8戦全勝達成。紛れもない世紀末覇王誕生の瞬間だった。どんな展開になっても、最後はゴール前で計ったように全馬をねじ伏せる強さは、これからも語り継がれていくだろう。

今年はファン投票1、2位のイクイノックス、リバティアイランドが不在とはいえ、登録の段階ではGⅠ馬が9頭エントリー。上位人気は割れる可能性が高そうだ。ちなみに2000年以降の単勝オッズ3.0倍以上の1番人気の成績は【0-1-1-1】と勝利がない。1番人気の単勝オッズが3.0倍以上つくようだと、少しは高配当が期待できるかもしれない。

これが最後の飛翔 2006年ディープインパクト

2006年、秋の競馬界は日本馬による凱旋門賞初制覇の期待感にあふれていた。1969年にスピードシンボリが挑戦して以来、エルコンドルパサーの2着以外は世界の高すぎる壁に阻まれてきた。ディープインパクトならきっと先頭でゴールを駆け抜けてくれる。そんな思いでテレビの前で声援を送ったが3着惜敗(のちに失格)。ディープで勝てないならどうすればいいんだ。そういう気持ちになったのを今でも覚えている。

ディープインパクトは帰国後のジャパンCを快勝し、引退レースとして迎えたのが2006年の第51回有馬記念だった。

2006年 第51回 有馬記念,ⒸSPAIA


レースはゲートインの段階から大きなどよめきが起こった。スイープトウショウがゲートをとにかく嫌って入らない。後ろ向きでそろりそろりと近づけるが、ゲートを目の前にすると踏ん張って動かない。大人達が懸命に押してやっと収まった頃には、ファンのボルテージは最高潮に達していた。

そんな異様な雰囲気を全く気にすることなく、ディープインパクトは堂々たる立ち振る舞いを見せ、スタート後もいつもの様にスッと控えると後方3番手をキープ。大きく後ろを離して逃げるアドマイヤメインが刻むラップは1000m通過59秒5。先頭集団はむしろスローに近い状態で流れていた。

ディープインパクトは3コーナー手前で徐々に加速を始めると、4コーナーでは全く違う生き物のような加速を見せた。直線を向くとグングン差を広げ、最後は流しながら2着のポップロックに3馬身差をつけて快勝した。3着にダイワメジャー、以下ドリームパスポート、メイショウサムソンら3歳馬を寄せ付けない強さは、テイエムオペラオーとは全く違った意味での王者の貫禄を見た。

ディープインパクトは2006年の有馬記念は制したが、前年2005年は2着に敗れている。京都開催の天皇賞(春)で見せた強さなどと比較すると、決して得意舞台ではなかったように感じる。実は、ディープインパクト産駒も中山芝2500mと有馬記念を苦手にしている。同産駒の中山芝2500m成績は【10-9-17-113】勝率6.7%、連対率12.8%、複勝率24.2%。有馬記念の成績は【2-1-2-25】勝率6.7%、連対率10.0%、複勝率16.7%と苦戦傾向だ。

今年もそんなディープインパクト産駒がGⅠ馬ジャスティンパレス含め、複数頭登録している。この辺りは取捨選択に頭を悩ましそうだ。

三度目の正直なる 2017年キタサンブラック

当たり前の話だが、競馬は先頭でゴールを目指す競技である。そして何の問題もなければその馬が優勝する。それが100馬身差だろうがハナ差だろうが同じ1着に変わりない。その考えでいうとキタサンブラックは実に理にかなっていた。引退レースを迎えるまで重賞9勝中、最大着差は2016年ジャパンCでの2馬身半。基本は先行し直線でも脚を伸ばし、最後まで交わさせず、クビ差やハナ差で勝利する無駄の無い強さだ。しかし、派手な勝ち方が少ないぶん、これだけの実績馬でありながら、ラストランの有馬記念までにGⅠで単勝1倍台に支持されたのは、9着に敗れた2017年の宝塚記念だけだ。

キタサンブラックは不良馬場の天皇賞(秋)を、出負けしながら道中で位置を押し上げ、最後は馬場の悪い最内から一気に抜け出す驚異の勝ち方を見せた。しかし、その次走ジャパンCでは本来の逃げの競馬をしながらも、前走の疲れがあったのかシュヴァルグランに交わされると3着敗退した。

2017年 第62回 有馬記念,ⒸSPAIA


そんな状況で迎えた2017年12月24日の第62回有馬記念。ファンは有終の美を信じてキタサンブラックを単勝1.9倍の圧倒的人気に支持した。2番人気は3歳馬スワーヴリチャード、3番人気がジャパンCを制したシュヴァルグランだった。

キタサンブラックは2番ゲートから好スタートをきると、マイペースの逃げに持ち込み楽なラップを刻み、1000m通過61秒4というスローペースに落とした。この段階ですでに勝ちパターン。最後の直線を向くと一気にラストスパートし、影をも踏ませぬ快勝劇だった。3歳時に3着、4歳時は2着、そして引退レースの5歳で有馬記念制覇を果たした。

1986年以降、クリスマスイヴに行われた有馬記念は5回。マヤノトップガンが菊花賞から連勝した1995年を除く、4回の勝ち馬の共通点が「同年の天皇賞(春)勝ち」。今年は菊花賞を制した3歳馬ドゥレッツァがいない。そうなればディープインパクト産駒ではあるが、今年の天皇賞(春)勝ち馬ジャスティンパレスに期待したい。

《ライタープロフィール》
高橋楓。秋田県出身。
競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にてライターデビュー。競馬、ボートレースの記事を中心に執筆している。

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