【ローズS回顧】マスクトディーヴァが衝撃タイムで重賞V JRAレコードを一歩踏み込んで読み解く
勝木淳
ⒸSPAIA
10Rも高速決着だった阪神の芝
牝馬二冠リバティアイランドへの挑戦権をかけたトライアルは、2勝クラスのマスクトディーヴァが芝1800mのJRAレコード1:43.0を記録し、重賞勝利を決めた。また2着ブレイディヴェーグ、3着マラキナイアと2勝クラスの馬が上位を独占した。裏を返せば、オークス4着ラヴェルを含めオークス組が退けられてしまった。これにより新勢力の登場とそのスケールの大きさが評価されることになる。しかし、1:43.0というレコードタイムについては、ひとつ冷静に考えておく必要があるだろう。
ローズSの直前に行われた10R仲秋S(3勝クラス、芝1600m)はセッションが1:31.9の好時計で勝利している。前半800m45.9、1000m通過57.6と突っ込んで入っても、後半800m46.0、600m34.3と最後まで速いラップを刻んだ。これはペースが馬場によって狂わされたと考えられる。1000m通過57.6は字面をみればハイペースだが、阪神の馬場は無理なくこれぐらいのペースを作れる状態にあった。だがローズSの1:43.0は馬場がアシストしたものだと決めるのは早計だろう。ここが競馬の面白さだ。
ローズSのラップ構成をみてみよう。
12.4-10.8-11.2-11.3-11.6-11.7-11.2-11.0-11.8、1:43.0
200m通過後からゴールまで12秒台がない。これも馬場がいいからともいえるが、問題は緩急のなさにある。前半800m45.7に対し、後半800mも45.7とまったく同じ。逃げたユリーシャがスタートから中盤にかけて溜めをつくらず、息が入りにくい流れを演出した。わずか200mでも中距離に寄る1800mでマイル戦のようなペース配分で進めれば、馬場がよくても最後は苦しいはずだ。3コーナーから4コーナー手前の11.2で厳しくなったユリーシャを引き継ぐように権利獲得を目論む好位勢が残り400~200m11.0と加速し、急坂で脚が止まってしまった。GⅠ出走権がかかるトライアルではこういった次々と先んじて前を奪い合う競馬はよくある。
3着以内はすべて3カ月ぶりだった
結果的にユリーシャが緩めなかった流れを好位勢が受け継ぎ、同馬がバテる前に早めに交わしにかかったことで厳しいラップが形成された。そういった攻防を控えて狙っていたのがマスクトディーヴァら上位入線馬たちだ。もちろん、勝ち切った同馬は絶妙な押し引きによる好騎乗ではあったが、ではこの時計がマスクトディーヴァの評価につながるのか。そこは冷静に判断したい。とはいえ、中盤までペースの落ち込みがないにもかかわらず、後半に速いラップを刻むレースに強いのは事実であり、この点は秋華賞に結びつけられる。
芝1800mで1分43秒台が記録されたのは過去に3例ある。
14年都大路S・グランデッツァ(次走・安田記念11着、中2週)
21年毎日杯・シャフリヤール(次走・日本ダービー1着、中8週)
21年3歳未勝利・エスコーラ(次走・1勝クラス1着、中8週)
中8週で同距離ないし距離延長だった2頭は連勝し、なかでもシャフリヤールのダービーが光る。一方、中2週で距離を縮めてGⅠに挑んだグランデッツァは11着に敗れた。マイルに近い1800mで高速決着になる場合、ペースの緩みがないマイル戦に近い形になることが多く、一層疲れが残りやすい。1カ月ほど近郊の牧場で過ごし、急かさず1カ月かけて次のレースへ向けて調整できる、そんな中8週を理想とするなら、秋華賞まで中3週というローテーションは少々厳しい気もする。近年、ローテとしても結果を残せていないローズSだけに、ここは慎重にならざるを得ない。
上記3レースの2、3着も次走中3週以内【1-0-0-3】、中4週以上【1-0-0-1】。中4週以上の着外1はダービー4着グレートマジシャンであり、今回、権利をとった2頭も同じく回復具合が心配になる。中3週以内で勝った1頭ディサイファは都大路Sが中9週で、その前も中8週と間隔をとり、疲れを残さないローテーションがとられていた。
ローズS3着以内馬はどれも夏に競馬を使っていない3カ月ぶりの出走だったので、そこまで疲労を残さない可能性もある。もうひとつ、夏に競馬を使わなかったからこそ、ローズSでパフォーマンスを上げられたのではという視点は今後に向けてヒントになるかもしれない。上がり馬は秋にひとつ上の力を出さないと、基本的に春の勢力と渡り合えない。長すぎる酷暑の影響はどれほどあるのか。今秋はそこもポイントになる。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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