【セントライト記念回顧】90年代を想起させるレーベンスティールの血統 菊花賞に向け歴史はソールオリエンスに味方する
勝木淳
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同日デビューのソールオリエンスとレーベンスティール
2022年11月13日、東京5R・2歳新馬(芝1800m)は1番人気ソールオリエンスが3番手から抜け出し、初陣を飾った。2着は上がり3Fで勝ち馬を0.1上回ったレーベンスティール。わずかクビ差でタイム差はなかった。クラシック開幕まで残り5カ月のこの時期、着順が持つ意味はパフォーマンス以上に大きい。ソールオリエンスは2カ月間休養し、京成杯で重賞初V、一気に皐月賞馬まで駆けあがり、日本ダービーでは1人気に支持された。
未勝利戦に回ったレーベンスティールはゆったりとはしていられない。中3週で中山の未勝利戦に出走し、2着に0.6差をつけて1勝目をあげた。さあここからという3歳年明けに筋肉を痛めてしまい、戦線を離脱。3月終わりの復帰戦は、ダービーを目指すにはギリギリというタイミングだったが、1勝クラスで2着に敗れてしまった。
この2着でダービーへの道がなくなり、結果的にレーベンスティールは消耗が少なく、秋を迎えることができた。重賞初出走のラジオNIKKEI賞は若干スムーズさを欠き、3着。ソールオリエンスの休養中に着実に力をつけてきた。セントライト記念の逆転によって、新馬戦クビ差敗退という小さくも、大きな差を一気に詰めたことになる。
90年代を想起する母系と21世紀を代表する父系
菊花賞に行くのであれば、レーベンスティールの血統には様々な因縁めいたものがある。父リアルスティールは2戦目共同通信杯でドゥラメンテを破るも、クラシックは皐月賞2着、ダービー4着、そして菊花賞も2着と無冠に終わった。菊花賞はソールオリエンスの父キタサンブラックとタイム差なし。内外の差が明暗をわけた。4歳時のドバイターフ(芝1800m)1着など1800mに強かったことを考えると、適性外の菊花賞でキタサンブラックとタイム差なしの大接戦を演じたのはもっと評価していい。
そして母父トウカイテイオーはオールドファンをざわつかせる。1991年春二冠も菊花賞は骨折で断念せざるを得なかった。シンボリルドルフとの父子三冠、それも無敗での達成をダービー直後にみんな夢見たはずだ。
父と母父からは菊花賞に近くて遠そうな気がするものの、母の母ファヴォリは2200m以上2勝と中長距離が得意だった。その源ともいえるファヴォリの父リアルシャダイといえば、トウカイテイオーが断念した翌年、菊花賞を勝ち、天皇賞(春)を2度も制したライスシャワーが産駒にいる。
シンボリルドルフ、トウカイテイオー、リアルシャダイという90年代に呼び戻すかのような母系と、21世紀を象徴する無敗の三冠馬ディープインパクトの血が血統表の奥にあるレーベンスティールには、つい大きな期待をかけてしまう。と言いつつ、まだまだ古馬になって強くなる可能性を秘めており、その花が開くまで大切に見守りたいという想いも混在する。
歴史はソールオリエンスの二冠をあと押し
2着ソールオリエンスは0.3差と逆転を許してしまったが、なにがなんでもここを勝たなければいけない立場ではなく、まずは無難に休み明けをクリアできたと考えていい。春の実績を踏まえれば、まだまだ差はある。前半1000m通過1:00.1に対し、後半1000mは58.8で最後600m11.7-11.7-11.0と典型的なスローの上がり勝負の展開で、後方追走はそもそも位置取りが厳しかった。勝ちにいかない試走だったのは明白で、直線の反応もいかにも休み明けを感じる鈍さにもみえた。次は変わってくるだろう。
皐月賞、菊花賞の二冠といえば、セイウンスカイ、エアシャカール、ゴールドシップなど近年も多い。だが、ダービーと菊花賞の二冠は1943年クリフジ、73年タケホープまで遡らないといない。クリフジは牝馬で、タケホープは皐月賞不出走。三冠皆勤で変則二冠制覇は未到達だ。セントライト記念2着から菊花賞制覇は1歳上のアスクビクターモアがいる。歴史はソールオリエンス優位をほのめかす。
3着はダービー9着シャザーンだった。6月以降に力をつけ、条件戦からここに挑む上がり馬は重賞を経験したレーベンスティールを除き、退けられてしまった。神戸新聞杯まで終わらないと結論は出せないが、シャザーンの3着によって、ここまでは春の勢力図に大きな変化はないと考えていい。春後半はゲートで遅れ、競馬に参加できなかった印象で、スタートを決め、流れに乗れたのは収穫だった。父ロードカナロアで3000mはわからないが、母クイーンズリングは古馬になって結果を出した晩成型、これから力をつけていく時期だ。将来に向けて楽しみを残した。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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