【天皇賞(春)】近10年で7勝を挙げる「菊花賞馬」 アスクビクターモアは逆転可能か

高橋楓

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菊花賞馬の天皇賞(春)成績

イングランディーレの大逃げを呆然と眺めていたのはウインズ新宿。12番人気マイネルキッツの大駆けを見ていたのはテレトラック横手だった。ビートブラックの奇襲ともいえるようなロングスパートは車のラジオで聞いていた。天皇賞(春)というレースは私にとって荒れるレースの印象が強い。

とはいえ今年はタイトルホルダーを筆頭に長距離実績馬が名を連ね、本命決着の匂いがする。近年の天皇賞(春)において、とにかく強さを見せているのがタイトルホルダーとアスクビクターモアが該当する「菊花賞馬」。今回は菊花賞馬がこのレースでどのような成績を残しているのか、直近10年で調べてみた。

菊花賞馬の天皇賞(春)成績,ⒸSPAIA


早速、2012年ゴールドシップから2021年タイトルホルダーまで10頭の菊花賞馬がその後天皇賞(春)でどのような成績を残しているのか振り返る。なお年は菊花賞を制覇した年で表記している。

2021 タイトルホルダー(4歳時1着)
2020 コントレイル(未出走)
2019 ワールドプレミア(5歳時1着)
2018 フィエールマン(4歳・5歳時1着)
2017 キセキ(6歳時6着)
2016 サトノダイヤモンド(4歳時3着)
2015 キタサンブラック(4歳・5歳時1着)
2014 トーホウジャッカル(5歳時5着)
2013 エピファネイア(未出走)
2012 ゴールドシップ(4歳時5着、5歳時7着、6歳時1着)

ご覧の通り5頭が天皇賞(春)を制して計7勝(【7-0-1-4】)。菊花賞を制した翌年、つまり4歳時には5頭が出走し【3-0-1-1】の成績。フィエールマンは1番人気に支持されていたが、意外にもタイトルホルダーとキタサンブラックは2番人気での勝利だった。ゴールドシップは1.3倍の1番人気に支持されたが、3コーナー付近で捲りにいくも伸びあぐね5着だった。

今年は5歳タイトルホルダーに加え、4歳の菊花賞馬アスクビクターモアが出走予定。前走の結果とタイトルホルダーの存在を考えると2~4番人気ぐらいだろうが、過去の例を見ると必ずしも1番人気でなくとも逆転の目はあるといったところか。


天皇賞(春)における菊花賞馬の成績,ⒸSPAIA

前走大敗も度外視でOK?

菊花賞馬 4歳天皇賞(春)の前走成績,ⒸSPAIA


アスクビクターモアにとって気になるのはやはり日経賞での大敗。先に紹介した5頭がどのようなステップレースを歩んできたか見てみよう。

アスクビクターモア 2023日経賞9着→天皇賞(春)?着
タイトルホルダー 2022日経賞1着→天皇賞(春)1着
フィエールマン 2019AJCC2着→天皇賞(春)1着
サトノダイヤモンド 2017阪神大賞典1着→天皇賞(春)3着
キタサンブラック 2016産経大阪杯2着→天皇賞(春)1着
ゴールドシップ 2013阪神大賞典1着→天皇賞(春)5着

他の5頭はいずれも前走で馬券に絡んでいた。アスクビクターモアは出遅れに初の不良馬場だったとはいえ、負け過ぎの感は否めない。

ところが、もっとさかのぼって「前年の菊花賞馬が天皇賞(春)の前走で掲示板外」という例を探すと、直近が2003年のヒシミラクルだった。そのヒシミラクルは有馬記念11着、阪神大賞典12着、産経大阪杯7着と連敗を喫し、天皇賞(春)では7番人気と人気を落としていたが、早め先頭から後続を抑えきる強い競馬を披露した。この年の春のGⅠ戦線は「ヒシミラクルおじさん」が有名で覚えているファンも多いだろう。

1986年以降で同様の例は、これとその前年マンハッタンカフェ(日経賞6着→本番1着)の2頭だけ。つまり2戦2勝である。キタサンブラック、フィエールマンが達成した「連覇」に挑むタイトルホルダーもいいが、アスクビクターモアも前走の負けには目を瞑っていいのではないだろうか。


[回顧]「サクラだ、サクラだ! サクラローレル先頭!」の1996年

1996年 第113回 天皇賞(春),ⒸSPAIA


菊花賞馬の対決で思い起こされるのが1996年の第113回天皇賞(春)。1番人気ナリタブライアン単勝1.7倍、2番人気マヤノトップガン同2.8倍で、この2頭の馬連オッズ2.0倍。3番人気サクラローレルが単勝14.5倍、4番人気ホッカイルソーが同20.2倍。この年の盛り上がり方は異常だった。これも全て前哨戦・阪神大賞典での「世紀のデッドヒート」が起因している。今でもこのレースが歴代ナンバー1だと語るファンも少なくない。それだけ衝撃的だった。

1994年に皐月賞3馬身半、日本ダービー5馬身、菊花賞7馬身と走るたびに圧倒的な力をみせたナリタブライアン。4歳(現表記)シーズンは怪我の影響もあり活躍できていなかったが、年が明けて復調してきていた。対するマヤノトップガンは前年の菊花賞をレースレコードで制し、有馬記念では終始逃げる競馬で後続を完封。本来は逃げ馬ではないはずのトップガンがナリタブライアン、ヒシアマゾンなど並みいる強豪を抑え込む姿には衝撃すら覚えた。

この、ナリタブライアンとマヤノトップガンが3コーナーから抜きつ抜かれつの叩き合いで後続に9馬身、実に1.5秒も突き放す競馬を繰り広げたのが1996年の阪神大賞典なのだ。誰しもがこのレースの再現が天皇賞(春)で行われると思っていたに違いない。一方、サクラローレルはその後、凱旋門賞挑戦のため海外遠征までする逸材だが、この時点では主な勝ち鞍が中山記念と金杯(中山)のみで、1年以上の長期休み明け2戦目。ホッカイルソーは前走の日経賞が重賞初勝利で、それまでは善戦マンのイメージだった。ブライアンとトップガンが実績面、パフォーマンスともにずば抜けていた。

私はまだ馬券を買える年齢ではなかったので観戦のみだったが、そこら中から「俺、馬連に10万」「俺は給料全部いったわ」といった声が聞こえてきた。結果はご存知の通り。4コーナーをまわった時には阪神大賞典の再現かとも思われたが、マヤノトップガンはパドックでややカリカリしていた影響か失速。ナリタブライアンも道中折り合いを欠いた影響があってか、クラシック時のような破壊力は見えない。そこを鮮烈な末脚で差し切ったのがサクラローレルだった。

「競馬に絶対はない」ことを学んだレースとして、今でも胸に刻まれている一戦だ。今年の2頭の菊花賞馬はどのようなレースを見せてくれるか楽しみで仕方ない。

《ライタープロフィール》
高橋楓
秋田県出身。競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にてライターデビュー。競馬、ボートレースの記事を中心に執筆している。

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