【ジャパンC】ヴェラアズールは偉大な先輩に続くか 「ダートから芝に転向した馬」のGⅠ成績を調査

東大ホースメンクラブ

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異色のローテーションで挑むヴェラアズール

今週日曜日、東京競馬場でGⅠ・ジャパンCが行われる。海外から精鋭4頭が参戦し、久しぶりに国際色豊かなメンバーが出揃う一戦。日本勢は天皇賞(秋)からの臨戦となるダノンベルーガ、シャフリヤールの2頭がエース格を担うが、京都大賞典を快勝してここに駒を進めてきたヴェラアズールも不気味な存在だ。

ヴェラアズールはデビュー以降16戦でダート中距離を走り、5歳シーズンとなる今年の春から芝に転向。そのわずか6戦目で大舞台に臨む異色のローテーションを踏んできた。遅れてきた大物が一気に頂点へと上り詰めるか注目が集まる。今週は「ダートから芝に転向した馬のGⅠ挑戦」をテーマに、過去の事例を紐解いていく。

顕彰馬になったタイキシャトル、エルコンドルパサー

ダートから芝に転向してGⅠを制した主な馬,ⒸSPAIA



まずは「ダート→芝」の路線変更でGⅠを制した主な馬を概観していこう。

異例中の異例といえるプロフィールで1989年日本ダービーを制したのがウィナーズサークル。馬産地としては超がつくほどマイナーな茨城県で生をうけた同馬は、天皇賞馬モンテプリンスを出したシーホーク産駒とあってデビューから3戦を芝で走るも勝ち切れず、体質の問題からダートに転向。3歳(現在の表記)3月の400万下(中山ダ1800m)で2勝目を挙げ、抽選をくぐり抜け出走した不良馬場の皐月賞で2着、次走の日本ダービーを王道の先行押し切りで制して世代の頂点に立った。このレースが芝レース初勝利であり、芦毛のダービー馬として今もなお日本競馬史上唯一の存在だ。

芝GⅠ・4勝馬として知られるマヤノトップガンも、3歳1月の新馬戦から6戦連続でダート1200m戦を走っていた。7戦目の500万下(中京ダ1700m)で2着に1秒2差をつけて大楽勝、次走から芝路線に転向し、神戸新聞杯、京都新聞杯連続2着から菊花賞馬に。さらにこの年の最終戦、実に年13戦目となる暮れの中山で見事グランプリ王者に輝き、年度代表馬に選出されている。

芝転向で大活躍、顕彰馬にまで上り詰めたのがタイキシャトルとエルコンドルパサー。タイキシャトルは脚元に不安があってのダートデビュー、体質強化から満を持して芝路線に転向すると重賞7連勝。史上最強クラスのマイラーとして歴史に名を刻んだ。エルコンドルパサーは、スペシャルウィーク、グラスワンダーなどそうそうたるメンバーが揃った1998年クラシック世代を代表する一頭で、3戦目の共同通信杯4歳Sが降雪によりダート変更となるアクシデントなどを経ながら、春はNHKマイルC、秋はジャパンCを制覇。翌年はヨーロッパ長期遠征を敢行し、日本馬初となる凱旋門賞2着の実績を引っ提げてキャリアを終えた。

前述した馬たちとは異なり「芝転向」という概念自体を逸脱する走りを見せたのがアグネスデジタル。川崎の全日本3歳優駿を勝ち、翌春は芝のマイル路線を歩んだものの本番のNHKマイルCでは7着。ダートに戻って名古屋優駿を勝つも、1番人気に推されたジャパンダートダービーでも14着とGⅠでは結果が出なかった。秋になってダートのユニコーンS1着、武蔵野S2着から臨んだマイルCSではダイタクリーヴァ以下人気馬が止まって見える豪脚で差し切り勝ち。以後2001年秋のGⅠ・4連勝、2003年安田記念の復活劇など、芝・ダートの領域を自由に往来し、他に類を見ない戦歴を築き上げた。

近年では2014年スプリンターズSを制したスノードラゴンが該当例。6歳春までダート短距離路線を進み、芝に転じると高松宮記念2着と併せて春秋スプリントGⅠで連対。同年の最優秀短距離馬に輝くと、以後2019年春、11歳まで現役を続けた。積み重ねたキャリアは62戦を数え、トレードマークの黄色いシャドーロールと芦毛の馬体でファンを惹きつけた馬だった。

2400m戦の好走は非常に難しい

JRAダート戦勝ち馬の芝GⅠ成績,ⒸSPAIA



<JRAダート戦勝ち馬の芝GⅠ成績>
全体成績【28-17-33-641】勝率3.9%/連対率6.3%/複勝率10.8%
5歳馬【9-9-10-120】勝率6.1%/連対率12.2%/複勝率18.9%
2400m戦【1-0-1-52】勝率1.9%/連対率1.9%/複勝率3.7%
ジャパンC【1-0-0-14】勝率6.7%/連対率6.7%/複勝率6.7%
※2003年以降

話をジャパンCに戻し、同様の「JRAのダート戦を勝ったことがある馬」が芝GⅠに出走した際の成績について、今回ヴェラアズールが該当する条件での数字を確認する。

全体成績は複勝率10.8%だが、5歳馬は倍近い18.9%と強調できる数字。全体の数字は2歳馬と高齢馬が下げている面がある。5歳は全年齢の中で好走率が最も高く、近年では2016年スプリンターズSを制したレッドファルクスが該当する。

距離については、2400m戦だと複勝率が5%を切り、延べ54頭の挑戦で馬券圏内に入ったのはわずか2頭。GⅠの中でも格段にメンバーレベルが高いことが影響しているか。ただし、唯一の勝利が2009年ジャパンC・スクリーンヒーローという点は救いと言えるかもしれない(もう1例の馬券絡みは2013年日本ダービー3着アポロソニック)。

ジャパンカップでの好走例を20年の期間を超えて遡ると、タマモクロス、ヒシアマゾン、エルコンドルパサー、テイエムオペラオー、メイショウドトウなど歴史的名馬がずらり。ヴェラアズールには非常に高いハードルが待ち受けるが、偉大な先輩たちに肩を並べられるか注目したい。

《ライタープロフィール》
東大ホースメンクラブ
約30年にわたる伝統をもつ東京大学の競馬サークル。現役東大生が日夜さまざまな角度から競馬を研究している。現在「東大ホースメンクラブの愉快な仲間たちのブログ」で予想を公開中。



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