【神戸新聞杯】ジャスティンパレス、再浮上のきっかけをつかむV!  権利獲得の2頭も菊花賞で勝機あり

勝木淳

2022年神戸新聞杯回顧,ⒸSPAIA

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本番につながる権利獲得

神戸新聞杯で前走日本ダービー組の最高着順が5着という年は00年以降、1度ある。それはディープブリランテが日本ダービーを勝った2012年だ。同馬は夏にキングジョージ挑戦、帰国後は菊花賞に向けて調整されたが、のちに屈腱炎を発症し引退した。2着フェノーメノはセントライト記念を勝ち、天皇賞(秋)2着、3着トーセンホマレボシは屈腱炎で引退、4着ワールドエースもケガで長期休養に入った。この年、神戸新聞杯を勝ったのは日本ダービー5着のゴールドシップ。神戸新聞杯はなんやかんやと日本ダービー最先着馬が強い。

今年、前走日本ダービー組は4頭。最先着は5番人気で5着のプラダリア。今回、そのプラダリアが8着に敗れるも、勝ったのはその次に日本ダービーの着順がよかったジャスティンパレス(日本ダービー9着)。やっぱり今年も日本ダービー組だった。上がり馬にとって神戸新聞杯の勝利は近そうで遠い。00年以降、前走非重賞組の神戸新聞杯制覇は00年、ダービー馬アグネスフライトを封じたフサイチソニックと15年、日本ダービー4着リアルスティールを破ったリアファルの2例しかない。

上がり馬にとって神戸新聞杯はひとつの壁になっていると考えられる。しかし、その壁にはね返されながらもなんとか神戸新聞杯で3着以内に入った上がり馬は、次は菊花賞への道が開ける。該当馬のうち14年トーホウジャッカル、17年キセキが菊花賞馬の座を勝ちとり、春クラシック未出走のワールドプレミアも19年に菊花賞V。菊花賞で上がり馬を買うひとつの指標が神戸新聞杯3着以内といえる。2着ヤマニンゼスト、3着ボルドグフーシュは菊花賞でこそ買いたい。

明暗わけた早めのペースアップ

レースはリカンカブールが引っ張り、ミスターホワイト、メイショウラナキラ、ジュンブロッサム、サトノヘリオスら伏兵陣が先行集団を形成する形。実績馬、人気どころでもっとも前にいたのがジャスティンパレスだった。前半1000m通過1.00.0は馬場状態を考えれば平均ぐらい。先行有利の流れを見越したか、3コーナー手前でレヴァンジルが動き、後半1000mは12.3-11.6-11.4-11.2-12.1で58.6。最後の一冠への出走権をかけるレースらしく、後半は早めにラップが上昇。4コーナー付近、11.4から11.2とギアが上がったところで、先行していた伏兵陣が苦しくなり、下がる形。自然と後ろの追い上げも早くなり、ここでゴチャついてしまった。

これを好位にいてやり過ごしたのが勝ったジャスティンパレス。新馬、黄菊賞は先行して連勝、その後ホープフルSで中団からひと脚使って2着。相手が強くなるにつれ、位置取りが後ろになり、思うように力を出せず、春のクラシックはともに9着。休み明け出直しの一戦は本来の先行力が戻った。多頭数の重賞で先行する形がとれたことは大きく、これでスタミナと位置取りの優位さをいかせる。半兄アイアンバローズはオルフェーヴル産駒で4歳後半、ステイヤーズS2着、5歳春の阪神大賞典2着と3000m超の重賞で素質を開花させた。ディープインパクト産駒らしく2歳から結果を残したジャスティンパレスも距離が延びてさらに良さを出す可能性はある。着差の3馬身半差は決定的でもあった。

2着ヤマニンゼストは道中、後方のラチ沿いを追走、いわゆるインベタ。勝負所で外から動く各馬とコーナーで差を詰め、直線だけの競馬にかける権利をとるための作戦が見事にはまった。とはいえ、馬に力がなければラチ沿いを抜け、2着までは来られない。前週、JRAアニバーサリーでレース名になったシンボリクリスエス産駒。同世代の生産頭数はわずか14頭。そこから菊花賞出走権を獲得する馬を出したのはすばらしい。父は神戸新聞杯を勝った時点で、菊花賞ではなく距離適性を考えて天皇賞(秋)に向かい、勝利した。産駒には菊花賞を5馬身差圧勝のエピファネイアがいる。今回のように上手に立ち回り、決め脚にかける競馬ならば、ヤマニンゼストにも勝機はある。

3着ボルドグフーシュはスタートひと息で序盤は後方から。レヴァンジルらが動いたタイミングよりひと呼吸遅らせ気味に大外から仕掛けた。真ん中から外目でゴチャつく場面があっただけに、大外狙いは功を奏した。だが、その分ロスも大きく、急坂を上がったもっとも苦しい最後の200m12.1で脚色が同じになってしまった。ただスタミナは感じる。課題のスタートは本番に向けて改善したい。たとえ3000mとはいえ、早めに隊列が決まる長距離戦もスタートで遅れると痛い。春は同舞台京都新聞杯3着で日本ダービーに出走できず。逆転の秋にふさわしい一頭でもある。

人気のプラダリアは再三繰り返しているように、勝負所でゴチャついた際に不利を受けてしまい、スパートのタイミングを逸してしまった。位置を下げたうえに、最後の直線では伸び伸び走れるスペースもなかった。本番出走に足りる賞金は持っており、次は変わり身がありそうだ。

2022年神戸新聞杯回顧展開,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。

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