【富士S】価値あるソングラインの勝利と実績馬の今後について

勝木淳

2021年富士Sのレース結果,ⒸSPAIA

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最後に甘くなったロータスランド

GⅡ格になって2年目。マイルCSのステップレースとしての価値はどれほど上昇するだろうか。それは1~3着ソングライン、サトノウィザード、タイムトゥヘヴンの今後にかかっている。格は賞金プラス価値によって証明される。未来に答えがある価値もあれば、振り返ることで見える価値もある。しっかり振り返っておきたい。

勝ち時計1.33.2はここ2年と同レベル。富士Sはステップレースらしく有力馬の始動戦でもあり、安田記念のように序盤から飛ばす競馬にはまずならない。全体時計の物足りなさは前半の緩さによってもたらされる。

今年もサマーマイルシリーズチャンピオンのロータスランドが先手を奪い、前半800mは12.0-11.2-12.1-11.7で47.0と緩かった。瞬発力勝負は避けたいと考えながら、好位で脚をためられる馬だけに田辺裕信騎手も無理はしない。安田記念でロゴタイプに乗り、モーリスを破った田辺騎手、得意の幻惑戦法で後続を緩い流れに陥れたかった。2番手はベテランのボンセルヴィーソ、ソーグリッタリングら人気薄勢。ロータスランドの流れを潰しに来ることもない。

手応え十分だったソングライン

結果的にこの緩い流れと好位勢の甘さによって差し、追い込み勢が台頭した。後半800mは11.7-11.3-11.5-11.7で46.2。ロータスランドが関屋記念と同じ脚を使えれば、2、3着の追い込みはなかったかもしれない。ロータスランドは逃げたことで戸惑ったのか、それとも夏のデキになかったのか、最後の400mで苦しくなった。序盤のスローから後半、極端な高速ラップにならなかった点は留意したいところだ。

勝利したソングラインはスタートで後手を踏んだことで、最内枠から枠なりに馬群に突っ込むことなく、外を意識してスペースをとりながら、仕掛けて位置をとった。これであっさり折り合うあたり、騎手と馬の呼吸は抜群だった。序盤で位置をとったことが最大の勝因。緩い流れを後方一気では間に合わなかった。結果的に先行勢が伸びず、流れは中団にいたソングラインに向いたが、そうならなかった危険性もあった。ある程度位置をとりつつ、残り400m付近まで仕掛けを待ち、最後までしっかり脚を使える自在性は武器になる。

NHKマイルCでは最後に苦しくなり、まっすぐ走れなかったが、当時より1.5以上遅い時計のため対応できた。それでもゴール前は外へ流れ気味。やはりまだ3歳。気性が成長すれば問題ないだろう。3歳牝馬の富士S優勝は99年レッドチリペッパー以来。同馬の時代は11月後半の東京芝1400m。GⅡ格、東京芝1600mで古馬を破った価値は非常に高い。今年の3歳勢、古馬重賞はこれで7勝目。さらに5勝は牝馬によるもの。この勢いはどこまで続くだろうか。

4着以下の実績馬の評価

2、3着は後方にいた2頭。ことさら2着サトノウィザードは4コーナーどん尻、大外一気と派手だった。最後の600mはメンバー中最速の33.3。見た目も記録も強調したい材料たっぷりではあるが、好位勢や中団にいたダノンザキッド、ラウダシオンらが脚を使えなったことで届いたという側面は否定できないだろう。前が緩かったので、置かれながらも脚をためられた。現状では緩い流れのなか、脚をため、最後に瞬発力でどこまでというタイプ。マイル戦でも序盤が早ければ、脚をためきれない可能性はある。

3着タイムトゥヘヴンも4コーナー15番手から追い込んだ。こちらも周りが伸びなかったことによる好走だが、春は日本ダービー出走、秋も始動は菊花賞トライアルのセントライト記念と長い距離を意識させ続けたことで、マイル戦に戸惑った。それ以前はNZT2着、NHKマイルCではソングラインと0.7差、今回でマイル適性を改めて示した。次走以降はもっと流れに乗って競馬できるだろう。

レースの流れ、2、3着に追い込み勢が入った結果を踏まえると、ある程度の位置にいた4着ダノンザキッド、6着ワグネリアン、8着ラウダシオン、12着バスラットレオンなど近況下降気味の実績馬たちは、今後に向けてさらに難しくなった。マイル適性の有無はあるだろうが、緩い流れで伸びきれなかったのは、以前の能力を出せていない証でもある。立て直しに期待しつつも、しばし静観でもいいのではないだろうか。


2021年富士のレース結果,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。共著『競馬 伝説の名勝負 1995-1999 90年代後半戦』(星海社新書)。


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