【菊花賞】メジロマックイーン、マチカネフクキタル、キタサンブラック… 「GⅠ馬不在」の菊花賞を振り返る
東大ホースメンクラブ
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GⅠ馬がいない菊
今週は阪神芝3000mを舞台に、牡馬クラシック最終戦・GⅠ菊花賞が行われる。皐月賞・ダービーをともに3着に好走、神戸新聞杯を勝ったステラヴェローチェを筆頭に、ホープフルS2着馬オーソクレース、京都新聞杯覇者レッドジェネシス、セントライト記念大敗からの巻き返しを期す実績馬タイトルホルダーなどが最後の一冠を争う。
皐月賞を勝ったエフフォーリアは天皇賞(秋)→有馬記念のローテを予定、ダービー馬シャフリヤールはジャパンCを次走に選択し、さらには2歳GⅠを制した馬たちも別路線に進んだことで、今年の菊花賞はGⅠ馬が出走しない特殊なレースとなった。
断然の実績馬がいない混戦模様の菊はどのような結末を迎えるのか、過去の同様ケースを分析。1986年以降のデータを参考に傾向を確認していく。
「メジロでもマックイーンの方だ!」
1986年以降の菊花賞で、GⅠ馬が不在だったのは7回。それぞれのレースを振り返っていこう。
まずは1990年。皐月賞馬ハクタイセイはダービー後に屈腱炎で、あの「ナカノコール」を生んだダービーを逃げ切ったアイネスフウジンはそれを最後に休養、のちに現役引退を余儀なくされた。1番人気に支持されたのはメジロライアン。若き日の横山典弘騎手とクラシックを戦い、名手の礎を築いた馬である。
京都芝3000mの勝ち方を体現するがごとく坂の下りで仕掛けたライアンに、メジロ軍団のもう一頭の有力馬が襲い掛かる。同じコースの嵐山S2着から参戦したメジロマックイーンだ。番手から末脚を伸ばして後続を完封、半兄のメジロデュレンに続く菊花賞兄弟制覇を達成。「メジロでもマックイーンの方だ!」の名実況とともに、GⅠ・4勝・史上初の獲得賞金10億円ホースという名馬への第一歩を踏み出した。
サニーブライアンが二冠、クラシックの歴史で独特な輝きを放つ1997年も忘れがたい。大西直宏騎手ととも逃げる同馬の姿を淀の3000mで見ることはかなわなかったものの、1番人気・未完の大器シルクジャスティス、父ライアンを思い起こすような善戦ホースだったメジロブライトなどが最後の一冠に挑んだ。
レースは両トライアルを勝ったマチカネフクキタルの差し切り勝ち。神戸新聞杯で見せた、他馬がスローに見えるほどの鬼脚で菊を制した。シルクジャスティスは後方から猛然と追い込むも5着。悲願のGⅠ獲りは暮れの中山を待つことになる。
その他2000年代以前では、のちにメルボルンCを勝つ2004年のデルタブルースや、ダービー時にはまだ勝ち上がってすらいなかった遅咲き、2008年のオウケンブルースリがいる。
GⅠ・7勝のスターホースへ
時代は2010年代へと進み、新たにGⅠ馬不在の菊花賞が3レース加わる。
2013年のクラシックは3強の争いだった。皐月賞馬ロゴタイプは札幌記念の敗戦後休養、ダービー馬キズナは遠くフランスで激闘を演じる中、両馬と並ぶ実力馬ながら春のクラシックはともに2着、3頭で唯一GⅠのタイトルを勝ち得ていなかった超良血・エピファネイアが断然の一番人気に推された。
レースは同馬の独壇場。逃げ粘る個性派バンデをサトノノブレスが懸命に捕まえようとする2着争いを尻目に、5馬身前でただ一頭力の違いを見せつけ、ついに悲願を成就させた。ジャパンCなどその後の活躍は周知の通り。父としても初年度産駒から牝馬三冠馬デアリングタクトを送り出し、次世代のトップサイアーとしての地歩を固めつつある。
2年後の2015年はドゥラメンテが二冠達成後に骨折で戦線を離脱したことで一転混戦模様に。この年の菊を制したのは平成最後のスターホース・キタサンブラック。ダービーで14着に大敗したこともあり、トライアル覇者にしては低評価といえる5番人気に甘んじたものの、レースでは1頭分だけ空いた最内を突き前を捉えきった。その後2017年の引退までケガなく中長距離の王道路線を走り続け、GⅠ・7勝の実績を積み上げた。
直近の例は2019年。皐月賞馬サートゥルナーリア、ダービー馬ロジャーバローズが不在の中、神戸新聞杯3着から駒を進めたワールドプレミアが制した。同年の有馬記念では超豪華メンバーの中で3着と健闘、今年の天皇賞(春)では現役屈指のスタミナ自慢たちを相手に快勝、No.1ステイヤーの座についている。
馬券は神戸新聞杯の連対馬から
<GⅠ馬不在の菊花賞 条件別成績>
前走3着以内【7-6-5-47】勝率10.8%/連対率20.0%/複勝率27.7%
うち、前走2200m以上【7-6-5-25】勝率16.3%/連対率30.2%/複勝率41.9%
うち、菊花賞8番人気以内【7-6-5-15】勝率21.2%/連対率39.4%/複勝率54.5%
最後に、これまで紹介した7レースの傾向を確認して今年の菊花賞を占う。
混戦で信頼できるのは近走の好調さ。馬券になった21頭のうち、1着馬全頭を含む18頭が前走3着以内だった。このうち前走2000m以下【0-0-0-22】を除くと複勝率が4割を超え、単複回収率も100%以上まで向上する。
さらに菊花賞8番人気以内という条件を加えると【7-6-5-15】とより見栄えのよい数字になり、該当馬にはかなりの追い風となる。このうち前走神戸新聞杯で3番人気以内に支持されていた馬は【3-2-2-0】のパーフェクト。前走「3着以内」「2001m以上」「神戸新聞杯3番人気以内」を満たし、今回1番人気が濃厚なステラヴェローチェを素直に軸に据えたい。
また表の3条件を満たす馬のうち、ディープインパクト産駒は【1-3-0-0】と全頭が連対しており、レッドジェネシスも順当に好走してきそう。基本的には神戸新聞杯ワンツーの2頭を軸に、当日の人気と馬場次第で相手を拾っていくという馬券戦略を取りたい。
一方、前走着外に終わった馬は【0-1-2-57】と大苦戦で、特に消したいのはタイトルホルダー。セントライト記念では直線でほとんど追えないままレースが終わってしまい、春の走りから巻き返しを期待しての人気もありうるが、美浦所属の馬は【0-0-0-15】と全滅。軸が人気馬2頭ということもあり、オッズとの兼ね合いで評価を下げるべきだろう。
《ライタープロフィール》
東大ホースメンクラブ
約30年にわたる伝統をもつ東京大学の競馬サークル。現役東大生が日夜さまざまな角度から競馬を研究している。現在「東大ホースメンクラブの愉快な仲間たちのブログ」で予想を公開。秋GⅠシーズンに合わせ、新入部員募集中。
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