【府中牝馬S】アンドラステの果敢な挑戦が誘発したレース展開に注目!  次走、狙いたい馬、嫌いたい馬とは

勝木淳

2021年府中牝馬Sのレース結果,ⒸSPAIA

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マジックキャッスル、まさかの大敗

牝馬が充実した時代を迎えたことで、上位馬が積極的に海外へ出かけるようになり、今秋の国内牝馬路線は混戦模様。エリザベス女王杯にはオールカマーで上位争いをした馬たちが参戦を表明しており、クロノジェネシスやラヴズオンリーユーが不在でも決してレベルが落ちることはない。もはや牡馬、牝馬という区別は必要ないという声も聞こえてくる。優秀な牝馬が多く生まれることは、競馬の未来にとっては希望だ。牡馬が情けないという近視眼的な考えは捨てよう。

牝馬限定重賞の中心にいるマジックキャッスルは、今年ここまで牝馬限定重賞1、2、3、2着。すべて異なる競馬場でこの成績、頼りになる軸馬だ。ハイペースの愛知杯、スローペースの阪神牝馬S、Vマイル、小回り函館のクイーンS、自在性が出てきて、どんな流れになっても最後に必ず脚を使う。素質だけで走っていた昨年と比べ、いよいよというムードが漂う。

ところが府中牝馬Sではドナアトラエンテに外からマークされたとはいえ、最後の直線では反応がなかった。展開が向かなかったわけでもない。1月から8月までコンスタントにレースに出走してきた疲労が秋に出たのではないか。凡走要因はこれぐらいしかなく、なにかアクシデントがないことを願う。

アンドラステの個性をつかんだ騎乗

開幕2週目の東京芝はこの日も絶好の状態。基本的には先行馬に利があるが、展開によっては追い込みも届くという偏りのないフェアな馬場。勝ったのは大外を一気に伸びたシャドウディーヴァ。昨夏クイーンSからずっと重賞で負けても1秒以内。惜敗続きのうっ憤を一気に晴らした。差して届かず、先行して足りず、インを突いてもあと一歩足りない。ハーツクライ産駒らしい善戦ホース。5歳18度目の重賞挑戦でのタイトル奪取は、ハーツクライ産駒だけに飛躍のきっかけになる可能性がある。私たちはハーツクライの覚醒をこれまで何度も目撃してきた。

展開に目を転じると、2着アンドラステは悔しい敗戦だった。逃げるローザノワールの番手に控え、3コーナーからローザノワールを動かす積極策。後半800mは11.8-11.0-11.4-12.0。3、4コーナー中間でペースをジワリとあげ、4コーナー出口から残り400m標識で最速11.0。この地点でアンドラステは敢然と先頭に立った。その手応えは気合をつける程度。決して早仕掛けではなく、最後に捕まったのは結果論。岩田望来騎手、むしろ慎重に仕掛けたぐらいだ。東京の直線では瞬発力に長けた馬が強い。瞬発力勝負を避けたいアンドラステの作戦は理にかなっており、東京でこの馬を勝たせるのは難しかった。価値ある2着だが、やはり本人はあそこまで上手くいったのであれば、勝ちたかっただろう。

重賞通用の力を示したサトノダムゼル

アンドラステの超強気な競馬によって先行勢はみんな苦しくなった。最後の400~200mが早いなら残れるが、それよりも200m手前でスパートされては脚が続かない。福永祐一騎手が3度目の騎乗で考え、思い切って控えたシャドウディーヴァには流れも向いた。力のない先行馬が脱落、3着マルタ―ズディオサは中団待機策がはまり、昨年12月阪神C以来の馬券圏内だった。以前はどちらかというと小回りコースでの先行が得意パターンだっただけに、東京で好走した点も含め新味を見せた。外枠からいい位置に収まれず、田辺裕信騎手が控える判断をし、そこに流れが向いたことによる結果でもあり、次走以降、作戦も不透明で狙いにくいところ。上位人気に支持されるようなら舞台設定を含め慎重に判断したいところだ。

4着ドナアトラエンテも流れが向いた。最後は苦しくなったとルメール騎手がコメントしているように東京の1800mはやや厳しいようだ。小回りもしくは平坦の1800mがベストではないか。

アンドラステが先行勢を掃除する形になったのであれば、5着サトノダムゼルの内容は濃い。マジックキャッスルが勝った1月愛知杯で、ハイペースを先行、0.9差に踏ん張ったように粘っこい。残り400m、早めに抜け出したアンドラステに食らいついた点は評価したい。最後は差し馬勢に屈したものの、流れさえ向けば、重賞でも十分戦えることを示した。1800m4勝、東京コース【1-1-0-1】、重馬場【3-0-0-1】、休み明け【2-2-0-0】、成績がはっきりしており、比較的狙い時を絞りやすい。


2021年府中牝馬Sのレース結果,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。共著『競馬 伝説の名勝負 1995-1999 90年代後半戦』(星海社新書)。


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