【秋華賞】競馬の醍醐味たっぷり!  超良血アカイトリノムスメの悲願と今後の可能性とは

勝木淳

2021年秋華賞のレース結果,ⒸSPAIA

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血統表を埋める黒、青袖、黄鋸歯形

シラユキヒメからはじまる白毛一族の物語は今年、ひとつの山場を迎えた。3歳になったソダシが桜花賞を無敗で制覇。オークスでリズムを崩し、札幌記念で立て直し、秋に大輪を描く白き女王、みんなソダシに夢中だった。時に思いもよらない、人が書いたとしたら、ちょっとやりすぎじゃないかという物語をこれまで競馬は見せてきた。だが、みんなが思い描く物語を紡ぐほど競馬は単純ではない。現実は必ずしも願いを叶えてくれない。だからこそ、人々は願い続ける。

ソダシが10着に敗れた秋華賞を勝ったのはアカイトリノムスメ。ソダシと同じく父、母、母の父、母の母が金子真人HDの勝負服。自身の所有馬ソルティビッドに、同じく自身が所有したダービー馬キングカメハメハをかけ、その仔アパパネで牝馬三冠を達成。そこに無敗の三冠馬ディープインパクトを配合、アカイトリノムスメは描こうにもそうは描けない血統だ。このレース、9着だったミスフィガロも同じく金子ブランドの結晶。ソダシの敗戦は非常に残念だが、さぞや金子氏にとって幸せな時間だったにちがいない。

春より成長したアカイトリノムスメ

レースは大方の予想通り、エイシンヒテンが先手を奪い、1、2コーナーでリードを広げ、ソダシは離れた2番手、後ろから厳しいプレッシャーもなかった。2頭が抜ける展開ながら、前半1000mは1.01.2とスローペース。ソダシにとっては願ってもない流れだった。

残り800m地点、3コーナーからエイシンヒテンがスパート、コーナー区間で11.5-11.3、早めに後続に脚を使わせる流れもソダシのものだった。だが、4コーナーでエイシンヒテンに並びかけられず、直線を向いても反応は鈍かった。レース展開にソダシの敗因は見当たらず、大きな故障を心配した。ゲートでぶつけて歯が折れていたという。自分に置きかえてみよう。歯が折れたままで走れるだろうか。勝負所でハミをとらなかったのも納得である。

さて、勝ったアカイトリノムスメは、春のクラシックではいずれも内目の枠を引き、揉まれてしまい、勝負所で位置を下げて、4、2着。結果的にオークスはそれで脚をためられたものの、単純に大事なところで位置を下げるのは痛い。そういった歯がゆさを今回は見事に払拭した。三冠目でようやく外目の枠を引き、オークスよりも積極的な競馬を試みた。

春に比べると、序盤に行き脚がつき、好位集団に収まり、勝負所は外をスムーズに進出、前を射程圏内に、進路をクリアにして直線を迎えられた。ようやく自身の力を全開にできた。そうなればGⅠに当然手が届く。なにせ父も母もクラシック三冠馬、血統のポテンシャルは出走馬中最上位だ。アパパネの血統はこれまで牡馬ばかりで、ちょっと難しい面が見られた。だが牝馬のアカイトリノムスメは、気性が能力を妨げることなく、ここまで来た。春のクラシックで窮屈な競馬を強いられても力を出し続けたのはその証だろう。古馬との戦いが楽しみだ。

惜しかったアンドヴァラナウト

2着ファインルージュは最初の正面直線部分の攻防で外から寄られ、位置を下げる形に。ここで無理しなかったため、後方で上手く脚がたまった。前走のスタイルを崩す待機策でも瞬発力を引き出したルメール騎手はさすが。しかし、内回りのスローペースを後方から攻めれば、これが精いっぱい。最後は苦しくなった。母パシオンルージュはその父ボストンハーバーらしい短距離のスピード型。父キズナによって距離に幅が出たものの、2000mは気持ち長い。今後は適性距離を探って出走してくるだろう。

3着アンドヴァラナウトは1、2着馬と比べると、勝負所も内にこだわった。ペースアップしたときに若干だが、進路がなく、待たされる場面があった。スローペースで逃げ馬がバテず、番手にいたソダシが伸びなかったのは痛かった。ローズSから瞬発力は世代屈指、ソダシが抜けていれば、あるいは逆転もあったのではと思わせる。福永祐一騎手の戦略は正しく、ソダシが伸びないという誤算が響いたか。スローペースの瞬発力勝負になれば、古馬とも戦えるだろう。

7着同着のアールドヴィーヴルもアカイトリノムスメと同じく今回はソダシをマークせんと積極策。ローズSを使われたことで反応もよくなった。だが、こちらは慣れない先行策の分、最後は失速した。厳しくないペースでの失速は不満だが、競馬のリズムがこれまでとは違ったことで馬も戸惑ったか。このあたりはキャリアの浅い3歳牝馬だけに仕方ないところ。前走と同じく勝負所の4コーナーで反応が悪く、現状は直線の長いゆったりした競馬場向きだろう。

オークス馬ユーバーレーベンは13着。スタミナ勝負のオークスをみても、小回り2000mのスローペースは難しい舞台だった。ましてアクシデントがあっての休み明け、もともと叩き良化型だけに見せ場がなかったのはノーカウントでいい。ただ、スタミナタイプの牝馬となるとレース選択に困るところ。牡馬相手の戦いでもやれるかどうか見極めたい。

これで秋華賞は4年連続で前走オークスからの直行馬が勝利。馬はレースを使うと疲れる、もう常識だが、牝馬はなおさらだろう。来年のクラシックもローテーションの概念を崩して挑みたい。


2021年秋華賞のレース結果,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。共著『競馬 伝説の名勝負 1995-1999 90年代後半戦』(星海社新書)。


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