【天皇賞(春)】あまたの1番人気が沈んだ波乱の一戦 193万馬券の立役者・2005年スズカマンボ
緒方きしん
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春GⅠ戦線、1番人気の連敗とまるか
GⅠが一週おやすみとなった先週は、マイラーズCで6番人気ソウルラッシュが勝利するなど、3つの重賞で1番人気が敗北。さらにフェブラリーSレッドルゼル(6着)、高松宮記念レシステンシア(6着)、大阪杯エフフォーリア(9着)、桜花賞ナミュール(10着)、皐月賞ドウデュース(3着)と、GⅠの1番人気連敗が続いている。
しかし今週は近年1番人気が好調な天皇賞(春)。ここ5年はフィエールマンやキタサンブラック、古くはディープインパクトやスペシャルウィーク、テイエムオペラオーらが1番人気で勝利している。
今年は、昨年の2着馬ディープボンドと菊花賞馬タイトルホルダーが激突。さらには4連勝中のテーオーロイヤル、5歳にしてGⅠ初挑戦となるアイアンバローズなど興味深いメンバーが揃った。1番人気の連敗がここで止まるか、それとも──。今回は、天皇賞(春)の歴史を振り返る。
近年は1番人気が安定感抜群
ここ5年間、1番人気は3勝。敗れた2回の2021年ディープボンド、2018年シュヴァルグランはともに2着を確保している。さらに1番人気が敗れた年の勝ち馬はそれぞれ2番人気、3番人気と、非常に堅実な決着となった。唯一、二桁人気が馬券に絡んだのは2020年の2着スティッフェリオ(11番人気)であり、それ以外は人気上位での決着が目立つ。
しかし元々は1番人気にとって鬼門ともいえるGⅠで、2006年にディープインパクトが勝利した翌年以降、2017年にキタサンブラックが勝利するまで1番人気は10連敗を喫していた。敗れた馬には様々な要因はあれど、オルフェーヴルやキズナ、ゴールドシップといった名馬も含まれている。
この5年で馬連配当が20倍を超えたのは2020年の57.7倍のみだが、元々は2016年キタサンブラック、カレンミロティックの201.6倍をはじめ、2012年615.7倍、2007年207.5倍、2004年366.8倍など、20倍どころか200倍を超える配当になることも少なくなかった。
こうした過去がありながら近年堅実な結果となっているのは、レースとしての傾向そのものが変化したか、フィエールマンやワールドプレミアといった強く安定したステイヤーがいたことによる一時的な事象なのかは、レースまでよく考えたいところ。
波乱を巻き起こしたスズカマンボとビッグゴールド
天皇賞(春)の歴史の中でもひときわ目を引く配当をたたき出したのが、13番人気スズカマンボと14番人気ビッグゴールドで決着した2005年の天皇賞(春)。馬連配当は850.2倍にもなった。
スズカマンボは2004年クラシック世代の血統馬。母母キーフライヤーは名牝ダンシングキイの全妹で、スズカマンボはダンシングキイが送り出した菊花賞馬ダンスインザダークや桜花賞馬ダンスインザムード、オークス馬ダンスパートナーやステイヤーズS勝ち馬エアダブリンらとの近親にあたる。
同期にはキングカメハメハやハーツクライ、ダイワメジャーなど今でも強い影響力を持つ名馬たちがひしめく世代のなか、朝日杯FS13着、皐月賞17着などGⅠでは今一歩な戦績を残していた。しかし距離を伸ばしたダービーでは15番人気ながら5着に好走。9月に朝日チャレンジンカップで重賞制覇すると、菊花賞でも6着となりステイヤーの片りんを見せた。
4歳になったスズカマンボは天皇賞(春)の前哨戦として大阪―ハンブルクCに出走すると、7番人気の7歳馬ビッグゴールドに逃げ切り勝ちを許してしまい3着に敗れる。ダンスインザダーク産駒の菊花賞馬ザッツザプレンティには先着したものの、天皇賞(春)ではビッグゴールドとともに伏兵扱いとなった。
人気を集めたのは、2003年に7番人気ながら勝利し万馬券を演出したヒシミラクル。オーストラリアで圧倒的な実力を誇っていた牝馬マカイビーディーヴァ、GⅠ未勝利ながら現役屈指の実力を持っていたリンカーンたち。すでに長距離でタイトルを持っていた馬たちだけに、人気を集めるのも頷ける。
しかし、ビッグゴールドも約半年間の休養を経てからオープン競走を逃げ切りで2連勝し、ベテランの域に達しながらも勢いは他馬に劣らなかったところは、今だからこそ思うことだろうか。
レースでは、先行勢を形成したシルクフェイマスやヒシミラクル、チャクラたちがそれぞれ18着、16着、15着と沈むなか、2番手から早めに抜け出したビッグゴールドが粘る展開。そのビッグゴールドを強襲し上り最速で差し切ったのが、スズカマンボだった。まさかの大阪―ハンブルクC組によるワンツーとなり、三連単は19394.2倍の百万馬券となった。
2021年大阪―ハンブルクC組が天皇賞(春)に参戦
ビッグゴールドはその後アルゼンチン共和国杯5着など中長距離路線で活躍したのち、金沢に移籍して12歳まで現役を続けた。引退後はファンによってビッグゴールドサポーターズクラブという団体が設立され、24歳になった今も穏やかな余生を過ごしている。
スズカマンボは引退後、多いとは言えない産駒の中から牝馬二冠&エリザベス女王杯勝ち馬のメイショウマンボ、牝馬として初めてJRAダートGⅠを制したサンビスタ、2020年度のJRA賞最優秀障害馬メイショウダッサイなど、芝、ダート、障害を問わず様々なタイプの名馬を送り出した。
そんな2頭を輩出したともいえる大阪―ハンブルクCだったが、当時の芝2500m戦から芝2400m戦、芝1400m戦と距離が短縮。さらに2018年にはオープン競走から3勝クラスに格下げされた。しかし2021年に芝2600m戦のオープン競走として復活を遂げている。当時を知るファンにとっては、イメージに近い大阪―ハンブルクCが戻ってきたと言えるのではないか。
2021年大阪―ハンブルクC2着のヒートオンビートや10着メロディーレーンは今年の天皇賞(春)に出走を予定しているように、また少しずつ天皇賞(春)へのアプローチが変わっていくかもしれない。そうした天皇賞(春)までの道のりの変化を感じつつ、3200m戦を堪能したい。
ライタープロフィール
緒方きしん
競馬ライター。1990年生まれ、札幌育ち。家族の影響で、物心つく前から毎週末の競馬を楽しみに過ごす日々を送る。2016年に新しい競馬のWEBメディア「ウマフリ」を設立し、馬券だけではない競馬の楽しみ方をサイトで提案している。好きな馬はレオダーバン、スペシャルウィーク、エアグルーヴ、ダイワスカーレット。
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