【プロキオンS回顧】“絶対王者”へ大きく前進したヤマニンウルス タイトな流れで見せた対応力

勝木淳

2024年プロキオンステークス、レース結果,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

見た目以上のハイペース

ヤマニンウルスの重賞挑戦に際し、思い描いたことがある。それがダートにおける王者の競馬とはなにかということ。どんなコース形態であっても、好位で流れに乗り、ペースに関係なく、自分のリズムで仕掛けて抜け出す。ある意味でライバルたちに付き合わず、ひたすら自分の競馬でひねりつぶす。動じない力強さこそ、王者の証といえよう。強じんな肉体と図太い精神の歯車は簡単には狂わない。出走すれば、我々馬券を買う側も抗いようのなさに絶望すら感じる。そんな絶対王者に果たしてヤマニンウルスはなれるのか。プロキオンSは結果以上に内容を問う競馬だった。

とはいえ、ヤマニンウルスはオープン初出走、6カ月の休み明け。ハードルは決して低くなかったはず。だが、結果は3番手で流れに乗り、4コーナー先頭から押し切った。あまりにあっさり勝つので、呆気にとられた。これで5戦5勝。どうしたって王者のはじまりの予感を抱かせる。あまりに楽々と重賞タイトルを手にしたのでわかりにくいが、このレース、なかなかタイトに流れていた。

プロキオンSは21、22年と小倉ダート1700mで行われた。どちらも重、稍重と今年より速い時計が出る状況で、21年(重)前半500m28.9、700m41.4、22年(稍重)同29.3-41.4。対して今年は良馬場で同28.5-40.4。3歳ブルーサンがかなり突っ込んで入り、ハイペースを演出した。外枠から悠々外3番手を確保したヤマニンウルスは色々なペースへの対応力をみせた。また一段、競馬のレベルがあがったようだ。

かなり速いペースで進んだので、残り800mは12.5-12.6-12.6-12.6と我慢のステージへ。ついて行くのが精一杯なレースだったはずだが、あまりに楽に抜け出すので、そうは見えなかった。ラップタイムの厳しさと見た目の走りが一致しないのも超A級にはよくあること。決して先行型の競馬ではなかった。むしろ、このペースで失速したブルーサン、バスラットレオン、レガーメペスカは次走、落ち着いたペースであっさり巻き返す可能性すらある。


理想的な大型馬の育て方

ヤマニンウルスは久々に錦岡牧場から登場した大物。母ヤマニンパピオネの仔はデビューした6頭すべて斉藤崇史調教師が管理してきた。未勝利に終わったのはヤマニンプルニエのみで、3勝ヤマニンサンパなど複数勝利をあげた馬ばかり。現3歳ヤマニンアルリフラも3月から2、3、3着と未勝利脱出のメドは立った。優秀な繁殖牝馬であると同時に、斉藤崇史調教師はこの血統をよく把握している。

ヤマニンウルスは584キロの超大型馬だが、デビュー時は536キロ。間隔をゆったりとり、48キロも増えた。脚元にダメージを残さず、成長を促しつつ、負けさせない。理想的な大型馬の育て方にみえる。まだ5戦なので、砂を被ったときの対処、GⅠ級との対戦などクリアすべき課題はあるだろうが、そこも跳ね返すようなら、もう絶対王者。プロキオンSは大きく前進したレースといっていい。


小倉ダート1700mの穴は内からやってくる

2着スレイマンは完全にヤマニンウルスをマークする競馬。挑みに行く競馬で最後は離されてしまったが、極端にバテずに2着は守った。平安Sは10着と大きな着順になったが、その前はオープン、重賞で4戦して2、3、1、2着と充実していた。今回好走したことを踏まえると、平安Sの敗因は距離もあったか。オープン勝ちがある適性の高い小倉できっちり巻き返したあたり、まだまだ状態は維持されている。今のうちに賞金加算しておきたいところだ。

3着マリオロードは1番枠を最大限味方につけた競馬だった。今夏の小倉ダート1700mは前週薩摩Sを勝ったレリジールダモーレのようにインを突く差し馬の一発が目立つ。勝負所で外からまくりに動くダート戦では、4コーナーで内から一気に距離を詰められ、先行勢さえ交わせば、ビクトリーロードが生まれる。レリジールダモーレも9番人気、今回3着マリオロードも12番人気。小倉ダート1700mの穴は内からあく。もう少し開催が残っているので、内枠の差し馬には注目したい。

4着ハピは中団後ろで構えて、差す形をとった。伸びきれなかったのはハイペースと1700m戦特有の忙しさもあったか。以前ほど先行しなくなったが、後ろから進めれば、コースや流れによって不発も出てくる。そこまで鋭い脚が使える印象もないので先行した方がよさそうだが、その辺がチグハグなのは気になる。いずれにせよ、1800mならもう少し流れに乗れるだろう。

5着ゲンパチルシファーは2年前、小倉のプロキオンS覇者。この2年、馬券圏内に入っておらず、14番人気は納得も5着と着順をあげてきた。馬券にこそならなかったが、夏のローカルは凡走続きのコース巧者を穴で狙うという作戦の有効性は示してくれた。特定のコースだけ走る馬、それも夏だけ走るという夏馬は今後も注意深く探したいところだ。

2024年プロキオンS、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

《関連記事》
【函館記念】開催最終週は時計よりスタミナ重視 好走馬多数の「前走・天皇賞(春)組」、4歳馬サヴォーナに熱視線
【函館2歳S】同舞台の新馬戦組が優勢でエメラヴィを高評価 コース、位置取り、経験がものを言う一戦
【函館記念】過去10年のレース結果一覧

おすすめ記事