【ジャパンC回顧】ドウデュースが再び見せた“常識を超えた走り” 驚異の末脚でGⅠ連勝、いざ秋古馬三冠へ

勝木淳

2024年ジャパンカップ、レース結果,ⒸSPAIA

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先行2頭が支配した展開

11月24日に東京競馬場で開催されたジャパンCは、ドウデュースが秋のGⅠ連勝を決めた。差せるはずがない展開を差し切り、常識を超える存在になりつつある。

いつの時代も物事を真正面から受け止めきれない自分がいる。ドウデュースの末脚が素晴らしいのはもちろん、競馬を毎週観ていれば、理解できる。天皇賞(秋)は位置取りとしては完全に逆で、差せるはずがない流れを差し切った。この時点で、その実力は現役では抜けたものがある。

だが、しかし、それでも、今度は芝2400mのスロー。それも天皇賞(秋)よりも先導役がいない、超スローだ。ドウデュースは馬群でストライドを縮めるとリズムがとれないから、後方から外をぶん回す形がベスト。流れが遅くても、あえて戦法は変えない。

武豊騎手の思考はシンプルなもの。内枠に入った時点で、後方に下げるのは見えていた。だったら、今度こそは届かない。強力なメンバーが超スローで流れに乗るなら、簡単には止まらない。猛烈に追い込んで届かない。そんな場面はあるはず。こうした穴党の思考回路を断線させるかのような競馬だった。

だが、決して的外れな推理ではなかった。いつの間にかゲートが速くなったシンエンペラーがハナを奪い、2番手にソールオリエンスがつける。

春は遅れ差しの競馬ばかりだったシンエンペラーと、宝塚記念で4コーナー後方2番手だったソールオリエンスが速いラップを刻むはずがない。前半1000mは12.7-11.4-13.0-12.9-12.2。最初のコーナーで13秒台を踏み、62.2とやはり流れない。

スタートで遅れたドゥレッツァが菊花賞の再現を狙い、途中でハナに立つも、ペースを上げるまでには至らず。その後も12.3-12.5-12.6-12.5で1800m通過に1:52.1もかかった。

この流れでドウデュースは後方2番手。後ろにはゲートで大きく後手を踏んだシュトルーヴェしかいない。さすがに届かない。そんなシナリオが頭をよぎるまでは、ある種、正常な心理といえよう。

ラスト600mは11.5-10.8-11.1の33.4。最後の直線は本来、完全に同着2頭による争いだった。並びの読み間違えはあったかもしれないが、スローの前残りという推理は正しかった。


ドウデュースの瞬発力は常識を超えた

だが、これに外からドウデュースが並び、差し切ったのは信じられない。冷静に振り返れば、ドウデュースは3コーナー手前から外を動き、前との差を詰めた状態で直線を迎えていた。

いや、東京で三分三厘からまくる競馬なんて掟破りもいいところ。並の馬なら止まる。まして内にいる先行馬がラップを上昇させた地点ではかなり外を回っている。とてつもないラップを刻まないことには内との物理的な差は詰められない。

直線400~200mの瞬発力も恐ろしいが、400m地点手前で追い上げる脚はとんでもない。これはもう反則だ。秋古馬三冠をかけ有馬記念へ向かうそうだが、いったい、どう推理すればいいのか。頭が痛い。半ば、降参である。同期イクイノックスが世界一を獲った翌年、あとを追ったドウデュースは有馬記念連覇でライバルの向こうへいく。


進化を感じるシンエンペラー

2着同着はシンエンペラーとドゥレッツァ。シンエンペラーはスタートを決め、流れに乗れた点に大きな成長を感じる。

ダービーまでは血統的な価値に対して未完成な部分が目立ち、仕草も幼さを感じていた。遅れ差しとはいえ、ダービーは最後に目立つ脚をみせ3着。東京のような広いコースは力を出せる条件だろう。一度はドゥレッツァに前に出られたが、最後の最後は伸び脚で上回り、同着に持ち込んだ。距離はもっとあってもよさそうだ。

凱旋門賞挑戦は結果こそ実らなかったものの、その過程で経験したことは着実にこの馬の血肉となり、成長を押し上げている。来年に向けて、可能性を感じる。いよいよ価値ある血統が目覚めるときを迎えるだろう。

ドゥレッツァは菊花賞の再現のような競馬だった。スタートで遅れ、先手はとれなかったが、幸いにもペースが遅く、労せず先頭を取り返すことができた。といっても、ここでしっかり動いたのが好走を呼び込んだ。

外国人騎手はあまり序盤で動きたがらないものだが、ビュイック騎手は日本の競馬を熟知しており、ドゥレッツァのこともつかんでいた。研究心と決断力には光るものがある。

ドゥレッツァも夏に英国インターナショナルSに出走し、海外遠征を経験した。こちらも結果は出なかったが、逞しくなって帰ってきた。なにごとも経験。その先に実るものがある。

2番人気チェルヴィニアは4着。現状の力は出せた。少しスムーズに進められない面もあったが、流れを考えると、もう少し食い下がってもいい。このレベルと互角に争うには、もっと逞しさを身につける必要がありそうだ。

3番人気ジャスティンパレスは5着。さすがにレース全体の上がり33.4では厳しい。どちらかといえば持続力型なので、ここは適性がなかった。それでも掲示板は外さなかったのはさすがGⅠ馬だ。

海外勢はゴリアットの6着が最高。レース全体の流れが遅く、懸念だった序盤はクリアしたものの、その分33秒台のラスト600mが負担になってしまった。日本馬が海外で適性の差を感じるのと同じこと。競馬は各国独自の色があるから奥が深い。統一規格なき競技だからこその難しさもまた競馬の魅力だ。


2024年ジャパンC、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。

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