【七夕賞回顧】末脚勝負でひと皮むけたレッドラディエンス、夏の中距離王へ収穫多き快勝 2、3着も新潟記念でのさらなる前進に期待大

勝木淳

2024年七夕賞、レース結果,ⒸSPAIA

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それぞれが意図をもって演出したハイペース

2024年7月7日に福島競馬場で開催された七夕賞は、レッドラディエンスが後続に0秒3差をつける快勝で重賞初制覇。前半1000m通過57.3はレース史上最速タイ。ハイペースに乗じて差す形をとれた勝ち馬にとっては収穫の多いレースとなった。

前週のラジオNIKKEI賞も1000m通過58.4と速かったが、古馬の七夕賞は距離が延びることもあり、もう少し落ち着くのではないかと思われた。ところが、実際は1000m通過57.3と歴代1位タイの猛ペース。歴史的に七夕賞は速い流れになりやすいとはいえ、57.3は相当速かった。

バビットが先手を奪い、外からセイウンプラチナが2番手に収まる。隊列はすんなり決まり、速くなりそうもなかったが、実際は最初の600mが33.6。1000m通過歴代1位タイの2002年より0.1秒遅いだけ。前が速いとみるや、後ろは一旦引き、向正面ではどんどん縦長になっていった。

逃げたバビットの思惑通りの縦長だったが、セイウンプラチナにプレッシャーをかけられ、さらに縦長の隊列を利用して早めに勝負をかけたこと、また粘り込みたいボーンディスウェイの仕掛けもあって、結果的には先行勢に相当厳しい競馬になった。

先行勢が沈んだのは事実だが、それぞれの意図、戦略は理解できる。最後の速い脚に限界があるなら、その前に物理的に後ろを離すよりほかにない。動くべき馬が動いた。そんなハイペースはどこか清々しい。

もちろん、普段後ろから競馬をしていたダンディズムがスタートの遅れを挽回し、あえて先行するという手に出たことなど、予想外に先行勢が騒がしくなったのも事実。それもこれも先行有利の福島という前提があるから。

前残りへの比重が大きくなれば前へ行く意識が強くなり、自然とペースはあがる。小回りの中距離重賞は今週の函館記念など、この先も行われる。先行勢に味方する馬場で施行される重賞は、かえって差し馬に流れが向くことがある。逆張りも有効だ。


末脚勝負で良さが出たレッドラディエンス

勝ったレッドラディエンスは通算【5-5-1-1】。馬券圏内をはずしたのは新馬戦だけという堅実派だ。競馬は勝てばどんどん相手が強くなるわけで、オープンまで4勝をあげつつ、崩れなかったのは力のある証拠ではある。反面、勝ち味に遅いタイプで、歯がゆさも感じた。

これまでは先行する競馬が多く、前から粘り込む形をとっていたが、今回はハイペースと小回りを意識し、あえて控える形に。離れた後方馬群の先頭という比較的プレッシャーが少ない位置をとれたのは大きく、末脚比べにかけた作戦が当たった。総じて末脚勝負に強いディープインパクト産駒の強みを発揮できたからこそ、重賞初挑戦で初制覇を達成できた。

競馬では器用なことは加点材料だが、破壊力にひっくり返されがち。その代表がディープインパクト。レッドラディエンスはハイペースに乗じてひと皮むけたとみる。前半は中団あたりで脚を溜め、後半にかけるスタイルでワンランク上へ進んでほしい。

福島での重賞勝ちから小回り巧者とみられるが、先行勢に辛い流れに乗じた差し切りだったので、そうともいえない。小回り巧者にはコーナーで動ける機動力が不可欠。そこまで機動力は感じないので、ベストは広いコースで極端に速い上がりにならないレースだろう。新潟記念で期待できる。当然、サマー2000シリーズチャンピオンのチャンスだ。


新潟記念で逆転を狙える2、3着

2着キングズパレスはレッドラディエンスの後ろから競馬を進めた。

同じ上がり最速34.9では3、4コーナーでの物理的な差を縮められない。とはいえ、こちらも気性的に難しいところを抱えながら、大きく崩れない実力の持ち主。右回りはコーナリングや最後の直線に課題を残すが、今回はかなり解消されたようだ。

立ち回りが上手になったことで、重賞通用のメドを立てた。こちらも新潟大賞典2着の実績から、新潟記念での前進を見込める。今回も末脚比べでは互角だったので、位置取り不問の新潟なら逆転の目はある。

3着ノッキングポイントは中団で構え、ハイペースに巻き込まれないように立ち回ったが、ボーンディスウェイやダンディズムの仕掛けに呼応する形で、厳しい流れに身を投じた。さすがに最後は脚が鈍り、ダンディズムをとらえるので精一杯だった。

しかし、昨年の新潟記念の勝ち馬であり、福島より新潟に適性があるのは明らか。初体験の小回り(中山外回り1600mは小回りとはいえない)で粘れたのは、むしろ状態の良さを示した。

8着に終わった新潟大賞典は先行して形を崩したにすぎない。次走新潟記念なら、前進はある。57.5キロで結果を残したのもプラスだ。


2024年七夕賞、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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