【根岸S回顧】昇級初戦で完勝のエンペラーワケア 一気のGⅠ戴冠なるか、距離延長の不安と可能性とは

勝木淳

2024年根岸ステークス、レース結果,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

エンペラーワケア、昇級即重賞V

フェブラリーSに向けて今や最重要ステップとなった根岸Sはエンペラーワケアが3連勝で重賞タイトルを奪取した。デビュー戦は芝で5着に敗れ、そこからダート1400mに絞ると1着、1着、2着、1着、1着、1着と崩れ知らず。この戦歴が本番にどう影響するか、ファンは3週間考えることになる。

層の厚いダート戦線で昇級即通用は難しい。直近10年間、昇級戦でJRA重賞を制したのはわずか10頭。根岸Sでは2001年のノボトゥルーまでない。同馬は続くフェブラリーSも勝ち、一気にGⅠ馬に駆けあがっていった。根岸S直前のジャニュアリーSが1200mだったため、ノボトゥルーにも距離延長を不安視する声があがり、その勝利は5番人気と人気を落としてのものだった。とはいえ、当時はサンフォードシチー、ウイングアロー、ゴールドティアラと分厚い壁が立ちはだかっていた。サウジ遠征と日程が重なり、空洞化した現在とは違う。エンペラーワケアが出走すれば、人気落ちはないだろう。

エンペラーワケアのレースぶりは重賞初挑戦とは思えぬ立ち回りだった。凍結防止剤が入り、時計が若干かかった馬場、ヘリオスがすんなり先手を奪うほどの緩めの流れのなか、好位追走から直線であっさり抜け出した。昇級によって位置を下げ、これまでのスタイルを貫けない例は数多あれど、エンペラーワケアは例外。とにかく自分の競馬に徹した。上がり600mは12.3-11.4-12.1の35.8。残り400mから一気に速くなるラップ構成にも難なく対応してのものだから、確かに1400mはベストであり、東京特有のペースチェンジに手応えが悪くなる場面もなく、得意条件だ。


まだキャリア7戦、可能性は消せない

ただ、こうも鮮やかに1400mで上がり600m35.2の瞬発力を繰り出されると、200mの距離延長を心配したくなる。21年同じ川田将雅騎手で勝ったレッドルゼルは、本番で4着に敗れた。同じロードカナロア産駒だ。同じ競馬場でも1400mとマイルは違う。しかし、レッドルゼルの根岸Sはタイム差なし。1200mのカペラS2着もあった。だが、エンペラーワケアは0秒4差の完勝。距離延長をこなす可能性も高い。

エンペラーワケアの母父カーリンは、プリークネスS、ジョッキークラブゴールドC、BCクラシック、ドバイワールドCなどを制した米国チャンピオン。日本に輸入された産駒には中距離ダートを得意とする馬が多い。米国血統であっても、短距離型ではない系統だ。やや気ムラな面も持ち合わせる血だが、そこを勤勉なロードカナロアがカバーする。キャリアはわずか7戦。可能性を消すことこそ難しい。


流れに恵まれた馬、そうでなかった馬

前後半600mは35.8-35.8のイーブン。前半が遅く、基本は先行馬ペースだった。瞬発力を繰り出したエンペラーワケアは別格であり、2番手から2着に粘ったアームズレインは過信できない。1400mに距離が延び、すんなり外枠から流れに乗れた面は大きく、その分最後はエンペラーワケアに抵抗できなかった。1400mは少し長いようだ。流れや枠順に恵まれたもので、続けて1400mに出走するなら疑ってかかりたい。だが、的確なレース選択で好調な上村洋行厩舎だけに、次は適距離に戻してくるのではないか。重賞通用の力は示しており、1200mならオープンで勝利を重ねられるだろう。

3着サンライズフレイムは先行優位の舞台を意識して極力前につけられはしたものの、それでも先行勢には及ばなかった。もう少し流れが速くなれば、着順を上げられた可能性はある。兄ドライスタウトより良馬場のパワー勝負への強さを感じるだけに、今後も少し時計を要するダートで狙っていきたい。自在性も出てきており、まだ上を目指せる一頭だ。

4着のヘリオスはマイペースに持ち込んだ。現状の力は出せた印象で、JRAの重賞だとこのぐらいが精いっぱいではないか。恵まれた好走だったことは頭に入れておこう。

5着フルムは得意条件で自分の競馬をしただけに、今後の評価は分かれる。重賞だと周囲の手応えもよく、馬群をさばくのに手間取ってしまう。今回は抜け出す前に決着がついてしまった。オープン、重賞だとラスト400~200mで11.4に対応できるスピードが課題だろう。

3番人気タガノビューティーは13着。先行優位な馬場でスタート後手、後方からではどうにもできない。慢性的にゲート難を抱えており、人気を背負うと裏切るケースが目立ってくる。気楽な立場で一発を期待したいタイプで、買い時を待ちたい。


2024年根岸S、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

《関連記事》
【東京新聞杯】3~5番人気が近10年8勝と上位混戦 注目は好成績の「4歳牝馬」マスクトディーヴァなど
【きさらぎ賞】重賞好走馬ウォーターリヒト、ファーヴェント中心 紐候補はレガーロデルシエロなど多数
【東京新聞杯】過去10年のレース結果一覧

おすすめ記事