【有馬記念回顧】スタート前から見所あり タイトルホルダー、ドウデュースらが魅せた一戦

勝木淳

2023年有馬記念、レース結果,ⒸSPAIA

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スタート直後の動きに注目

競馬の奥深さが凝縮した有馬記念だった。年の最後にそれぞれのホースマンが魅せた最高のレースに対する幸福感。これこそが有馬記念だ。さて、どこから振り返ろうか。進め方を迷うほど、見所が無数にある。まずスタート前、有力馬の鞍上が色々と動いた。乗り替わりは11頭もいた。さらに枠順公開抽選会でスルーセブンシーズ、スターズオンアースの有力牝馬2頭が8枠を引き、ダービー馬タスティエーラが7枠を引いた。有馬記念の外枠が厳しいことは歴史が証明していた。

もっともいいスタートを切ったのは大外枠のスターズオンアース。C.ルメール騎手は外枠の不利を消すべく、積極的に突っ込んで入った。1周目の4コーナーで2番手の内ラチ沿いにいた。ルメール騎手の腕に心地よい酔いを覚えた。

対照的にドウデュースはいいスタートではなかった。レースの序盤、少し闘志を燃やすドウデュースに後ろから進めることを納得させ、武豊騎手は長手綱で遊びをつくり、制御していく。海外のジョッキーのように手綱を短く握る騎手が増えたなか、武豊騎手はこうして長手綱を巧みに操る。主導権を馬に握らせつつ、手中に収める姿にスペシャルウィークを思い起こさせた。


度胸と体力、これがタイトルホルダー

引退式を当日に控えたタイトルホルダーはどんな流れを演出するのか。状況的に厳しいペースをつくらないかもしれない。そんな可能性が頭をよぎった。前半1000m通過は1:00.4。前日のグレイトフルSが1:00.6なので、そう速くはない。だが、タイトルホルダーと横山和生騎手は2コーナーから向正面でペースを落とさず、スターズオンアースを引き離していく。この区間のラップは12.2。昨年は同じ区間13.1だから、今年は明らかに勝負に出た。中盤で勝負に出られる度胸と体力こそがタイトルホルダーの魅力だ。レース中盤の孤独なひとり旅、タイトルホルダーに人々は酔わされた。

レースラップ
7.0-11.3-11.9-12.0-12.0-12.2-12.5-11.9-12.2-12.0-12.0-11.7-12.2

こんな美しいラップを刻めるタイトルホルダーを忘れはしない。大逃げの形に持ち込み、動きにくい地点で12.5と息を入れる横山和生騎手のペース判断はタイトルホルダーから学んだものだろう。後半800mで勝負に出るも、大外を抜群の手ごたえでドウデュースがまくってきた。序盤ゆったり運んだドウデュースの体力の高さは京都記念で証明済み。あのとき、阪神の内回りで見せた破壊力に武豊騎手は確信をもっていたのだろう。4コーナーを回るドウデュースと武豊騎手のみなぎる活力に私たちは魅せられたといっていい。有馬記念の最年少勝利騎手にして、最年長勝利騎手。武豊騎手はいつも私たちに、競馬の魅力を再認識させてくれる。


松山弘平騎手の気概

2番手を確保し、完全に外枠の不利を払拭したスターズオンアースも最短距離を走れたことで、まだまだ力を残していた。惜しむらくは内ラチに接触するシーンだろうか。本質は小回り向きとはいえない。だが、それでも走らせるのがルメール騎手だ。結果は2着とはいえ、この有馬記念で株を上げたのはスターズオンアースではないか。ドウデュースと同世代の二冠牝馬はスタートを克服し、確実に進化の途上にある。

最後はドウデュース、スターズオンアースの4歳勢に差されたタイトルホルダーだが、道中で一定のペースを守り、残り400~200mで11.7を繰り出す体力と精神力は立派だ。GⅠ・3勝が示す通り、最後も己の強さを存分に見せた。引退レースでここまで仕上げた陣営の度胸と手腕に感動すら覚えた。

1番人気ジャスティンパレスは4着。中山に苦戦したようで、加速がスムーズではなかった。距離適性の幅は広そうだが、広いコース、コーナーの緩い競馬場がよさそうだ。ドウデュースに勝負所で置かれてしまったが、それでも最後は伸びた。この馬も来年、再び頂点を狙う資格がある。

イクイノックス引退の空白を埋めたのは同世代のドウデュースだった。3歳タスティエーラ、ソールオリエンスにも新時代の覇者としての期待はあったが、どちらもスムーズな競馬とはいかなかった。タイトルホルダーが作ったスキのない流れはこれまでの世代限定戦では体験できない厳しさもあり、経験値の差が出た印象だ。しかし、この差は経験によっていかようにも埋められる。来年、復権に向けてもう一段階、レベルアップしてほしい。

5着シャフリヤールも見事だ。臨戦過程はもっとも厳しかったが、陣営の仕上げ力に頭が下がる。テン乗り、それも有馬記念でダービー馬シャフリヤールを好位に導いた松山弘平騎手の度胸も見逃せない。様子を見ながらそっと乗るという選択肢もあったはず。あえて勝負をかけてきた気概に未来が見えた。

最後に、今年も最高の競馬を魅せてくれたすべてのホースマンたちに感謝したい。


2023年有馬記念、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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