【ターコイズS回顧】珍しい遅咲きのディープインパクト牝馬 着実に成長したフィアスプライド
勝木淳
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国枝栄調教師の手腕
イクイノックス引退式にヤングジョッキーズシリーズと話題盛りだくさんだった土曜日。5回中山5日目はかつてアーモンドアイの引退式もあった。年内にやっておきたいイベントはこの日でないと難しいという事情もあり、ターコイズSは重賞になってからも、ちょっと影の薄いレースになった。ともあれ、もとからテーマの設定が難しく、来年に向けての賞金加算か、年内、もしくは現役生活の総決算か。基本はこの線に集約し、勝負は前者に凱歌があがる。
今年勝ったフィアスプライドはどうだろうか。昨年は昇級初戦で3着惜敗と忘れ物をとりに戻ってきた感はある。ハイペースになりやすい中山芝1600mを得意とする差し馬で、以前は追い込み一辺倒。それでもハマるから、舞台適性はかなり高い。今年は上半期を休養し、エプソムCで戦列復帰。そこまで得意とはいえない左回りで高速上がりを必要とする舞台ばかりに出走し、0.6、0.3、0.1差と、着実に重賞に慣れていった。と同時に、シンプルなレイアウトのコースで好位での立ち回りや、ちょっとでも前につける意識を植え付けていった。ターコイズSはインの4番手から抜け出し、これまでの過程を一つの結果に結びつけた。
こうして一連の出走歴を改めて見返すと、国枝栄調教師のしたたかな計算を感じる。ターコイズSを勝たせるためのローテーションだったのではとさえ思う。もちろん、その手前のレースを勝てるに越したことはないが、そうなんでも勝てるほど競馬は甘くない。癖のないコースで折り合いを教え、不得手な高速馬場で末脚強化を計る。確実に弱点を克服し、長所を伸ばそうという目論見は見事としかいえない。
遅咲きのディープインパクト産駒
ディープインパクト産駒は12/10までJRA重賞288勝(平地・障害)をあげたが、年齢の内訳は2歳27勝、3歳116勝、4歳56勝、5歳59勝、6歳以上30勝。クラシックにピークがくるから、ディープインパクトの血を世界が欲しがった。反面、古馬になって強くなる産駒は少なかった。
5歳牝馬で秋(10月以降)に重賞を勝ったのは、ジェンティルドンナ、サラキア、ダノンファンタジー、グランアレグリアの4頭しかいない。サラキア以外は3歳までにGⅠを勝っていて、サラキアはエリザベス女王杯と有馬記念で2着になった。この4頭のうち、12月に勝ったのは有馬記念のジェンティルドンナ1頭。フィアスプライドは実に珍しいケースになった。また、上記4頭はすべてノーザンF生産馬で、フィアスプライドはダーレー・ジャパンFの生産。異なる点といえばここだろう。
生産は違うが、ゴドルフィンの所有馬といえばレモンポップがいる。必ずしもクラシックターゲットではなく、馬の成長曲線が緩やかであっても、いずれ大成させるノウハウがこのチームの強みでもある。フィアスプライドは来年、ヴィクトリアマイルを目標に定めるようだが、サラキアの例をみてもGⅠだって面白い。今年、左回りを中心に使ったことがプラスになるだろう。
この日、大活躍の横山琉人騎手
2着フィールシンパシーはこの日、ヤングジョッキーズシリーズを制した横山琉人騎手の手綱が冴えた。デビューからほぼ手綱をとり続けており、馬のことを知り尽くしていた。キャリアを重ね、好位で自在に立ち回れるようになったのは同騎手が教え込んだ成果だ。前後半800m46.8-45.9は中山芝1600mという特殊コースを考えると、完全にスローペースといっていい。後ろは見事に横山琉騎手のペースにしてやられた。実際、1~3着は前からきれいにラチ沿いの隊列にいた馬たちで、外を回ってはどうにもならない。脚質に幅が出てきたので、舞台の幅も広がりそうで、今後もマイペースなら好走する機会は増えそうだ。ただし、斤量の恩恵もあったので、別定戦では慎重に取り扱いたい。
3着ミスニューヨークは引退レースで3連覇をかけた。この馬もフィアスプライドのように若い頃は差して届かずを繰り返し、年齢とともに競馬を覚え、安定感を増した。この日もインの3列目という流れを考えれば、ギリギリ対応できる位置取りでレースを進められたが、最後は伸び伸び走らせるスペースがなかった。どこかで外に出せればという気もしたものの、流れを考えると外を回っては届かなかったので、結果的に悪いレースではなかった。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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