【セントウルS回顧】タフな血を受け継ぐテイエムスパーダ 一級スプリンターへ駆け上がる可能性は

勝木淳

2023年セントウルステークス、レース結果,ⒸSPAIA

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3歳馬の1番人気

今年はスプリントGⅠで実績を残したのはピクシーナイトぐらいしか見当たらず、前哨戦としてはやや小粒なメンバー構成となった。1番人気は古馬とはじめて対戦する3歳馬ビッグシーザーだった。2000年以降、3歳馬が1番人気に推されたのは01年カルストンライトオ3着1回しかなく、同馬は北九州短距離S1着、第1回アイビスSD1番人気3着で古馬との対戦経験を積み、セントウルSも3着と好走した。

今年は新潟記念をノッキングポイントが勝ち、流れとしてはこれからも3歳馬が重賞で1番人気に推される場面が増えてきそうだが、古馬との対戦経験や3歳限定の重賞成績など実績は確認しておくべきだろう。昨年、秋に重賞で1番人気に支持された3歳馬は[4-0-0-1]だが、勝った3頭セリフォス、イクイノックス、トウシンマカオはクラシック2着か古馬の重賞、オープンで結果を残していた。ターコイズSで5着に敗れたママコチャは3勝クラス勝ちから昇級初戦だった。3歳も4歳以上と同じく、オープンでの経験の有無は判断材料になる。

父母ともタフなテイエムスパーダの可能性

結果的には14番人気テイエムスパーダが勝ち、単勝万馬券決着となった。昨年のCBC賞で今村聖奈騎手を背に48キロで逃げ切りを決め、1:05.8という破格の時計を残したが、その後は斤量との戦いもあって、スプリンターズS15着を最後に、逃げから好位に控える形へシフトしていったが、思うような結果を残せず、4歳冬は小倉大賞典出走と、模索が続いていた。CBC賞は48キロの恩恵が大きく、そもそも早熟なのでは。そんな評価があるなか、再び逃げの手に出て重賞2勝目をつかんだのは、周囲の雑音を封じた意味でもテイエムスパーダの馬生にとって非常に大きい。

母トシザコジーンは短距離を中心に6歳春まで28戦して3勝をあげた。その父は快速血統コジーンの血を引くアドマイヤコジーン。2歳GⅠ(当時は3歳)を勝ちながら、度重なるケガを乗り越え、6歳で安田記念を勝ったタフな馬で、産駒はスノードラゴンが6歳でGⅠを勝ち、マジンプロスパーも6歳でCBC賞連覇を決めるなど、父と同じく息長く活躍する馬が多い。テイエムスパーダはタフな母系に7歳で関屋記念を勝ち、8歳で京王杯SCを制覇したレッドスパーダが入っている。まだまだ上を目指せるポテンシャルはあるとみるべきだ。

久々に逃げの手に出て快勝したように、勝つためには先手が絶対条件になる。この先はマークが以前に増して厳しくなるだろう。だが、それを突破できるスピードは十分ある。セントウルSの前半600m33.5は特筆するほど速くはないが、後半600mは10.9-11.1-11.7(33.7)とリズムさえ整えば、800m通過まで突っ込んで入れる。前半のダッシュ力を長く維持できるのが強みだ。レコード勝ちしたCBC賞は11.4-10.0-10.4-10.9と10秒台のラップを600mも刻んだ。これこそ一級スプリンターといったレースを演出できる点を今後も全面に押し出していってほしい。絡んで来れば潰されるぐらいの気迫さえあれば、単騎も叶う。

ボンボヤージ4着からみえるものは

2番人気2着のアグリはこれまでのような先行策から一転、控えて終いにかけてきた。作戦変更というより、休み明けで本番を睨み、リズムを乱さないことを第一に考えた競馬だったようにみえた。であれば、この2着という結果は何ら悲観することはない。順調にスプリンターズSで全開となってくれそうだ。

3着は夏を戦ってきたスマートクラージュが最後に突っ込み、滑り込んだ。とはいえ、サマーシリーズ出走はCBC賞1走のみで、消耗がなかったのも好走につながった。阪神4勝のコース巧者であり、暮れの阪神など今後もチャンスはくる。

さて、このレースでスプリンターズSの勢力図は固まってきた。サマーチャンピオンのジャスパークローネとテイエムスパーダの先陣争いに注目しつつ、北海道で重賞を勝ったキミワクイーンと高松宮記念2着のナムラクレア、休み明け2着と好発進のアグリ、そしてぶっつけで挑むメイケイエールあたりが上位候補だろうか。北九州記念5着ボンボヤージが今回4着に来ていることから、中京、小倉を転戦してきた馬のレベルがある程度、高い可能性は頭に入れておこう。

2023年セントウルステークス、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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