【紫苑S回顧】モリアーナが鮮やかな後方一気で重賞初V 同馬にも重なるエピファネイア産駒の特性
勝木淳
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エピファネイア産駒の特性
紫苑Sほどトライアルのオープン特別だった時代から、2016年の重賞昇格以降で様変わりしたレースはない。この間、秋華賞馬はヴィブロス、ディアドラ、スタニングローズの3頭。18年を除き、毎年連対馬を送った。昇格からわずか7年でGⅡへ昇格したのも納得できる。
GⅡ元年の今年、勝ったのは4番人気モリアーナだった。戦歴をたどれば、2歳時にコスモス賞でドゥアイズに勝ち、クイーンCではのちのオークス2着馬ハーパーにタイム差なし3着と、そん色ない結果を残していた。クイーンCで桜花賞からマイル路線に目標を切りかえ、ニュージーランドT4着、NHKマイルC6着で春を終えた。それだけに矛先を秋華賞に定め、2000m戦出走は距離が長いのではと目されていた。だが、マイル路線の結果を踏まえ、むしろ2000mがちょうどいいのではという陣営の判断は妥当だった。
エピファネイア産駒といえば、三冠牝馬デアリングタクト、皐月賞、天皇賞(秋)、有馬記念を勝ったエフフォーリアが代表的存在だ。2頭とも3歳クラシック第一戦を制しているように、早くから活躍できる完成度の高さが印象的だった。実際、産駒は2歳の勝率が12.3%と高い。一方、3歳のなかでも、7~9月9.4%、10~12月9.6%と下半期に再び上昇していく。現状、4歳以降は勝率は下がっていくが、エピファネイアの競走成績を考えると、そこも改善されそうな気もする。
エピファネイアは菊花賞を勝ち、4歳でジャパンCを制した。前者は5馬身、後者は4馬身と勝つときは強烈だった。秋に頂点が訪れるリズムと、3歳秋に一段あがる成長曲線はモリアーナにも重なってくる。この勝利はスイッチが入った証ではないか。
横山典弘騎手のアシスト
レースは逃げて連勝中のフィールザオーラが先手を奪い、後ろを離し気味に進めた。序盤600m35.0、前半1000m通過58.1で、200m通過後から残り400mまでずっと11秒台を刻むラップ構成は、開幕週の馬場とはいえ速かった。とにかく前へ行って後続の脚を削り、中山の短い直線を味方に逃げ切ろうという意図があったが、さすがにオーバーペースだった。息を入れるスキがない中山芝2000mは皐月賞のイメージに近い。
牝馬同士でこの展開になれば、最後の急坂は壁のようなもの。ラスト400mは12.4-12.0と時計がかかり、後方待機策のモリアーナが全てをさらっていった。
待機策がハマったといえばそれまで。しかし、4コーナーを回るまで外に出しすぎず、馬群を抜けてくる進路取りはさすが横山典弘騎手といえる。この形でなければヒップホップソウルをとらえられなかっただろう。
横山典弘騎手は勝つときは鮮やかに決めるので、しばしばマジシャンともいわれる。しかし、本人のインタビューなどを読む限り策士というより人馬の呼吸、リズムを第一に考える人というべきだろう。馬に気分よく走ってもらい、最後まで走り切らせる。それゆえに今回のような後方一気が目立ってくる。ただ、4コーナーまでのコース取りのように勝つためのアシストは入念であり、このスパイスが結果的にマジック的競馬にみせた。モリアーナが最高の走りをしてくれたからこそ、それを勝利に結びつけよう。そんなひた向きさには頭が下がる。
展開不向きだったヒップホップソウル
2着ヒップホップソウルはこの流れを好位から自力で勝ちにいったから、素直に評価したい。最後の200mでわずかにラップを押し上げたのはこの馬の力であり、今回は展開に恵まれなかった。父キタサンブラックも菊花賞馬で、3歳秋から4歳にかけてスケールアップした。ヒップホップソウルもこの秋、ひと皮むけるだろう。1、2着が菊花賞馬の産駒なのは、ハイペースでスタミナを問う流れになったからか、それとも3歳秋というタイミングや秋という季節が関係しているのか。これから始まる秋競馬で、菊花賞馬の産駒に注目してみたい。
3着はシランケド。ギリギリ優先出走権を手に入れた。こちらはモリアーナと比べると、かなり外を回って差してきた。展開利はこの馬にあったような気がする。札幌2歳Sを勝ったセットアップと同じデクラレーションオブウォー産駒。同産駒は使いながら良化していき、間隔が詰まっても走れる。中山は札幌、新潟に次いで勝率が高い。シランケドも休み明け3戦目、中2週の中山替わりと好走する条件がそろっていた。気がつくのが遅かった。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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