【新潟記念回顧】理想のコース取りでノッキングポイントが重賞初制覇 レース特有の適性が結果を分ける
勝木淳
ⒸSPAIA
理想の競馬で輝いた人馬
今夏の新潟は渇水がニュースになるほど、雨が少なかった。開催6週間は全て良馬場で行われ、クッション値も時計もほぼ変わらないまま幕を閉じた。この開催は全てAコースで行われるため、例年ならいくら水はけがいい競馬場とはいえ、開催最終週は内を開けるコース取りが目立つようになる。過去の新潟記念でもブラストワンピースやマイネルファンロンが外ラチ沿いを強襲し、追い込みを決めた。だが、異例の雨がない夏になった今年の新潟は最終週もインが有効で、結果的にこのコース取りが明暗を分けることになった。
ノッキングポイントは枠なりに終始、内を追走し、直線は進路を探して抜け出してきた。コーナー2回のシンプルなコースで行われる新潟記念はスローが多く、馬群が一団となって進む。当然、内を走るということは内に押し込められ、揉まれてしまう。好位の内でしっかり我慢できたことは先々を考えれば収穫だろう。ダービーでは決め脚比べで及ばなかったが、今回のように馬群に入って冷静に走りさえすれば、距離ロスは減り、脚はもっと溜まる。
瞬発力勝負になると、ライバルに少し見劣る馬が多いモーリス産駒だが、位置をとることでそれを補えば、能力値の高い産駒は多い。母の母ハッピーパスの系統はパストフォリアからはハッピーパスに似たマイルから短距離寄りに強い産駒を多く出し、チェッキーノの仔は中距離タイプに出る。母の特性を上手に伝えるのはハッピーパスの牝系が持つ強みだ。チェッキーノは父キングカメハメハの影響もあり、フローラS1着、オークス2着ともっぱら中距離で活躍した。瞬発力というより持続力に長けており、母系を考えても位置取りを優位に進め、最後は持続力勝負に持ち込む競馬が合いそうだ。
2週連続新潟外回りの重賞を勝った北村宏司騎手は、コースの特性を活かした競馬が目立ってきており、再び波に乗っていけそうな予感がする。新潟外回りの理想形は瞬発力を活かすための位置取りにある。上がり600mタイムが究極まで速くなる舞台だが、そうは言いつつも使える脚には限界がある。後方一気を決めるには、とんでもない末脚を繰り出すのではなく、先行集団の脚が上がるといった助けが必要だ。だからこそ、理想はある程度の位置で流れに乗り、末脚を溜め、それなりの上がりでまとめる競馬になる。北村宏司騎手は、藤沢和雄厩舎所属時代から、そんな理想の競馬を磨いてきた。ケガから復帰後は位置が後ろになる競馬が目立ったが、ここにきてスマートで味のある競馬が増えてきた。
レース特性を示した2、3着馬
新潟記念の好走パターンはもう一つある。長い直線を目一杯に使って、他場だと少しエンジンのかかりが悪い馬に最後まで末脚を使わせる作戦だ。直線が長く平坦だからこそ、ゴールまで末脚を使わせることができる。成績的に長距離が得意な馬や、長い直線の競馬場で着順はそこそこでも、持続力を生かして最後まで止まらずに走り切れる渋いタイプも長所を生かせる。しかし、この手のタイプは好走ゾーンが狭い。
その典型が新潟記念1、2、2着のユーキャンスマイルだ。重賞タイトル3つのうち、3000m超2勝とステイヤーながら、スローになり、追走にストレスを感じない新潟記念では自慢のスタミナを生かして最後までしぶとく伸びる。今回もそんな特性を目一杯生かし、馬場の外目に持ち出してひたすら末脚を信じた。新潟記念勝利は4年前の4歳時のこと。8歳でも新潟記念はきっちり走る。そんなひた向きさを見習いたいものだ。
3着インプレスも同じようなタイプだった。そこそこには差してくるも、なかなか先頭でゴール板を駆け抜けられない。そんな馬に新潟記念は合う。出遅れて後方追走は絶望的な形ではあったが、前の馬たちが避けてできた最内を突くという度胸あるコース取りが好走につながった。ダート巧者も送るキズナにロベルト系クリスエスの血という組み合わせからも、最後まで末脚を維持できるスタミナを感じる。反面、スピード重視だと鈍さも目立ってしまう。新潟記念好走馬は好走ゾーンの狭いタイプが多いとなると、インプレスもまた取捨選択しやすく、続けて走るわけではなさそうだ。
最後まで末脚を残せなかったプラダリア
4着プラダリアは新潟記念特有のツボに合わなかった。勝ったノッキングポイントと似た位置からレースを運んだが、外枠ゆえに同馬ほど脚を溜められなかった。勢いよく伸びながらも、ゴール前で伸びがひと息になったのは、新潟記念だからこそかもしれない。鈍いタイプなら最後まで末脚を残せるが、反応がいいと途中で瞬発力を使ってしまい、最後の最後で厳しくなる。言いかえれば、プラダリアはもっとほかの中距離戦でもハマるので、ここでの4着ならチャンスはまだある。
1番人気サリエラは7着。ノーザンファーム天栄からトレセンを経由せず、新潟競馬場に直接入厩するという酷暑対策は今後に向けて興味深い。馬房にクーラーがある新潟で過ごせば、体調管理はしやすい。そんな馬ファーストはいかにも国枝栄調教師らしい考えだ。結果は出なかったが、その配慮は未来に向けて意義が大きい。瞬発力に長けたサリエラの敗退もまた、新潟記念が単純な瞬発力勝負の舞台でないことを示した。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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