【小倉2歳S回顧】アスクワンタイムが兄ファンタジストに続く勝利 きょうだいで小倉芝1200m重賞を3勝
勝木淳
ⒸSPAIA
兄ファンタジストという馬
アスクワンタイムが小倉2歳Sを勝ったことで、母ディープインアスクの仔のうち3頭が小倉芝1200mの重賞ウイナーとなった。滅多にあることではない。それもすべて父はロードカナロアで、全きょうだいによる偉業だ。このアスクワンタイムの勝利は自然と兄ファンタジストの回想を誘う。
2018年7月15日中京芝1200mでデビュー。前後半600m35.1-34.5、1:09.6は記録としては目立つものではなく、2着ディアンドルとの着差はクビとわずかだった。スタートからダッシュよく先頭に並び、内からきた逃げ馬の出方をけん制しつつ、その外につけ、直線では手応えよく逃げ馬をとらえ、内からきたディアンドルの脚色を計りながら仕掛け、封じてみせた。余裕と完成度の高さが目につき、内容ある競馬だった。
2戦目が小倉2歳S。記録は物足りないものの、新馬戦の中身を評価され、3番人気に支持された。阪神新馬、フェニックス賞と連勝したシングルアップなど快速自慢を相手に、ファンタジストは二の脚を効かせてハナに行くかのような勢いをみせ、3番手の絶好位から勝利。続く京王杯2歳Sでは距離が延びても、センスは変わらず3連勝。そして年明け初戦スプリングSでは初の1800m戦で、中団の後ろから競馬を進め、上がり最速の末脚を繰り出し2着と驚かせた。柔軟に距離に対応し、競馬の形を変えても力を出せるのは、センスとしか言いようがない。
しかし、ここからファンタジストは成績を落としていく。小倉での走りを取り戻そうと、北九州記念から再び1200m路線へ行き、その次走セントウルSで2歳時の巧みな立ち回りを思い出したか、2着と好走した。かつての走りを取り戻しつつあったファンタジストだったが、この年の秋、京阪杯で好位からレースを進めるも、急性心不全を発症し、命を散らした。
毎週多くのレースと馬に出会い、それを永遠に繰り返す競馬では、名馬と評される馬ならまだしも、出会った馬を思い出すきっかけなんてそう多くはない。そのためアスクワンタイムの活躍は多くのファンにファンタジストの雄姿に触れる機会を与えてくれた。
爆発力のアスクワンタイム
さて、アスクワンタイムはファンタジストのようなセンスや完成度はないものの、小倉芝1200m特有のハイペースへの対応力は確実にある。今回は前後半600m33.3-35.3と後半が2秒も遅いハイペースだった。
ただ、2コーナー付近が頂上になる小倉の芝1200mは一気に下っていくコースであり、少々のハイペースでも先行勢が踏ん張る場面は多い。案外、先行馬が粘れなかった側面も考えつつ、伸び伸びと外を走らせた際のアスクワンタイムの爆発力は覚えておきたい。イメージは姉ボンボヤージに近いかもしれない。兄は3歳で馬生を断たれてしまったが、ボンボヤージのように息長く活躍してほしいと願う。まだまだ荒削りなアスクワンタイムの成長を見守りたくなった。
モーリス産駒の将来性
2着ミルテンベルクはアスクワンタイムよりひとつ前につけ、馬場状態がいい外を選んで走るなど、きっちり手順を踏んだ競馬を見せた。直線では勢いよく一緒に伸びてきたものの、競り合いでわずかに敗れた。決め手はそん色なく完敗ではない。
新潟記念を勝ったノッキングポイントと同じモーリス産駒で、母父ディープインパクトは8/27までで産駒最多の57勝をあげている。この組み合わせの得意距離はマイルから1800m前後、さらに4歳の勝率が高く、この辺はジェラルディーナ、ディヴィーナ、アルナシームと重なってくる。むしろ2歳から走れるミルテンベルクは秘める能力の高さを感じる。新馬戦を振り返っても1200mのスピード勝負より距離を延ばした方がいいだろう。その意味でも将来性を感じる。
3着キャンシーエンゼルは上位2頭の決め手と展開に屈したものの、先行勢の争いは制した。父バゴは代表産駒クロノジェネシスのように直線の短いコースに強く、どちらかというと中長距離志向だが、最多勝利は1200mの45勝だ。なかでも小倉芝1200mは10勝をあげており、函館や福島の勝率が高く、平坦にも強い。バゴの母父ヌレイエフはヨーロッパでもアメリカでも芝のマイルで結果を残せるスピード&パワーを兼備している。日本ではヌレイエフの影響が平坦+短距離に出ているのではないか。こちらは秋の福島2歳Sに出てくれば狙ってもいい。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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