【札幌2歳S回顧】セットアップが逃げ切りV 父デクラレーションオブウォーの特徴を豊富に受け継ぐ

勝木淳

2023年札幌2歳ステークス、レース結果,ⒸSPAIA

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明暗わけた馬場状態

ガイアメンテ、パワーホール、ウールデュボヌールといった札幌新馬組や阪神で新馬を勝ったギャンブルルームなど素質馬がそろった一戦は、2戦目で同舞台の未勝利戦を勝ったセットアップが逃げ切った。終わってみれば未勝利戦で記録した1:48.5はメンバー中最速であり、新馬を勝った馬と比べると、やや地味な印象も通用の根拠をしっかり持っていた。

ただ、札幌の芝はこの日、終日稍重。先週の荒天や前日の雨によって、開催最終週らしい力のいる馬場状態だった。キャリアの浅い2歳馬にとって、体力を削がれるような馬場は酷というもので、末脚を使いたくても使えない状況だったことが、セットアップの逃げ切りに影響したことは確かだ。

反対にセットアップにとっては、力のいる馬場が追い風になった。父デクラレーションオブウォーは2週間前の札幌記念で2着だったトップナイフと同じ。同産駒がもっとも得意とするのが勝率13.9%の中山で、次位が札幌13.6%。急坂の中山やコーナー半径が大きい札幌と速い時計が計時されにくい舞台に強い。とはいえ、同じ洋芝でも函館は未勝利なので、一概に洋芝巧者とも言いにくい。


特性にマッチした好騎乗

セットアップは日本に輸入されて2世代目にあたるが、新馬の勝率4.3%に対し、未勝利は9.5%、29勝中7勝が中1週以内で、もっと勝率がいいのはセットアップの札幌2歳Sと同じ休み明け3戦目(14.3%)と、明らかに叩き良化型でもある。ヨーロッパの初年度産駒からフランス2000ギニーを勝ったオルメドが出ており、トップナイフも含め早期から活躍できる点も産駒の特徴だ。

そんな特徴が素直に出ているセットアップは、この先、どんな馬になっていくだろうか。ここまで3戦はすべて逃げたが、ひとつ年上のトップナイフのような粘りある。器用な立ち回りを身に着ければ、クラシック戦線の穴馬になりそうだ。そんなイメージでこれから先、付き合っていきたい。

レース自体は前半1000m通過1:02.1とスローに近く、残り800mは11.9-11.6-12.0-12.9。3コーナーから早めにスパートをかけ、差しにくい馬場を味方に後ろを離せるだけ離してしまおうという横山武史騎手の強気な意図を感じる騎乗もセットアップの特性とマッチしたといえる。

好調スワーヴリチャード産駒

2着パワーホールはセットアップについて行く形で粘った。新馬を逃げ切っている馬だけにすんなり先行態勢をつくり、こちらも差しにくい馬場を味方につけた。セットアップに早めに動かれ、そこに反応しきれなかったものの、3着ギャンブルルームには3馬身半も差をつけており、こちらもスタミナを示した。

初年度から絶好調の父スワーヴリチャードはハーツクライ産駒のなかでも、東京スポーツ杯2歳S2着、共同通信杯1着からクラシック戦線に乗り、早めに走れるタイプだった。まだまだ活躍馬を送ってくる予感がする。

現役時代のタイトルは大阪杯とジャパンCのふたつ。大阪杯は3コーナーで大まくりを打ち、そこから先頭で押し切った。ジャパンCは近年では珍しい重馬場で行われ、1000m通過1:00.3とハイペースで流れ、最後600m37.2、決着時計は2:25.9もかかった。レースぶりからは明らかにスタミナ型だ。早期から走り、古馬になって大仕事をやってのけるのは、まさにハーツクライの戦歴をなぞるかのようだ。産駒がこの時期から走っていることも合わせ、スワーヴリチャードはハーツクライ後継の最有力といっていい。革命戦士の花道で流れる入場曲を連想するパワーホールも、必ず幸せな日が一度ならずとも二度、三度と訪れるだろう。それだけのスタミナは証明できた。

叩き2戦目の難しさ

好位で流れに乗ったギャンブルルームが3着。差して5馬身差という新馬戦のスケール感ある走りに対し、今回は馬場を読み、好位につけた。パワーホールに離されたものの、この形で競馬ができたことは収穫だろう。1、2着とは適性の差が出た印象で、舞台が変わればその差は詰められそうだ。

1番人気ガイアメンテはスタートで遅れて後ろからの競馬を余儀なくされた。差せない馬場を踏まえ、早めにスパートをかける勝負に出たが、そこでスタミナを使い切ったか。2022年までの過去10年、前走8月の新馬だと[1-1-1-20]。好走は17年ロックディスタウン、15年プロフェット、14年レッツゴードンキの3頭しかない。ガイアメンテもウールデュボヌールもこのデータ通りの結果になってしまった。詰めて使えるタイプか、そうでないか。キャリア2戦目では見極めきれないのも仕方ない。ここが2戦目の難しさでもある。おそらく、今後は間隔をとって立て直してくるだろう。その変わり身に期待しよう。


2023年札幌2歳S、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。

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