【札幌2歳S】ジャングルポケットが後の二冠牝馬テイエムオーシャンを撃破 ソダシなど活躍馬を振り返る

高橋楓

札幌2歳ステークスを勝ちGⅠを制した主な馬,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

勝ち馬から7頭のGⅠ馬を輩出

何事も初めてというのは記憶に残っているものだ。私で言うと「セイリューオー」というサラブレッドが忘れられない。と言うのも1996年、私にPOGで初めて重賞制覇を経験させてくれたのが当馬だったからだ。朝日杯3歳S、皐月賞に日本ダービーと出走し、クラシック戦線を駆け抜けてくれた。

そんなセイリューオーが制した札幌2歳S(当時は3歳S)は近年、「登竜門」としての役割が強くなっている。そこで今回は、現行の距離に変更になった1997年以降にスポットをあて、出走馬がその後、どういった活躍をしたのかを見ていきたい。

札幌2歳S 主な勝ち馬,ⒸSPAIA


1997年に距離が1800mに変更されてからダービー馬2頭を含む7頭が後にGⅠレースを制している。近年は「登竜門」と言って過言ではない当レース。一昔前は秋以降にデビューする素質馬が多かった印象だが、近年は翌年のクラシックから逆算し、早めに賞金加算したうえで調整することが主流になっており、より札幌2歳Sの重要性が増している。

まずは距離変更後の勝ち馬で、後にGⅠを制した7頭を見ていく。年度と騎手はレース当日の記録になっている。

2000年 ジャングルポケット(千田輝彦) 日本ダービー・ジャパンカップ
2005年 アドマイヤムーン(本田優) ドバイDF・宝塚記念・ジャパンカップ
2008年 ロジユニヴァース(横山典弘) 日本ダービー
2013年 レッドリヴェール(岩田康誠)※函館開催 阪神JF
2018年 ニシノデイジー(勝浦正樹) 中山大障害
2020年 ソダシ(吉田隼人) 阪神JF・桜花賞・ヴィクトリアマイル
2021年 ジオグリフ(C.ルメール) 皐月賞

馬齢変更が決定していたため、ジャングルポケットが制した2000年は「札幌3歳S」として施行された最後の年だったが、20年以上前のことなのに鮮明に記憶に残っている。1番人気は前走で後続を1.0秒離す快速ぶりを見せた2戦2勝のテイエムオーシャン。2番人気はダリア賞の勝ち馬マイネルカーネギー、3番人気がデビュー戦でテイエムオーシャンに突き放されながらも、次走の未勝利戦で後続に1.2秒差をつけ勝ち上がったセンターベンセール。そんななか勝ったのは翌年に日本ダービーを制する5番人気のジャングルポケットだった。

2着が次走で東京スポーツ杯3歳Sを制し、GⅠ朝日杯3歳Sで2着となる4番人気のタガノテイオー。3着が暮れにGⅠ阪神3歳牝馬S、翌年に桜花賞、秋華賞を制するテイエムオーシャン。当時はそのテイエムオーシャンが負けたレースの印象が強かったが、いつの間にか代表的な「登竜門」レースとして認識するようになった。

ちなみにこの年の出走馬の中には朝日杯4着のメイショウドウサンなど、全出走馬13頭中8頭が後にJRAで勝ち星をあげている。勝ち上がるだけでも大変な競馬の世界で、2勝する馬がこれだけ出るレースも珍しいと言えるのではないか。


2020年 史上初の白毛馬による重賞制覇

また、近年となるが2020年も取り上げなければならないだろう。前走で白毛馬としては史上初めて芝の新馬戦を制したソダシが登場。2番人気だったが注目度は間違いなくナンバーワンだった。

2020年 札幌2歳S,ⒸSPAIA


レースは翌年のサウジダービー馬ピンクカメハメハが最内枠から先手を奪うと、ゴドルフィンマイルや1351ターフスプリントなど後に国内外の重賞で活躍するバスラットレオンが2番手にスッとつける。そして外目からはソダシが押し上げる展開となった。向こう正面半ば過ぎあたりから翌年のオークス馬ユーバーレーベンが戸崎圭太騎手の仕掛けに応じてグングン加速していく。

直線を向く前には内からバスラットレオン、ソダシ、ユーバーレーベンが先団を形成する形となった。ラスト200mでソダシが後続を振り切り、白毛馬として史上初の芝重賞制覇を成し遂げた。そして電光掲示板にはレコードの赤い文字が映しだされる。しかし、拍手の音も割れんばかりの大声援も聞こえない。

そう、この時は新型コロナウイルス感染防止のため、無観客で競馬が実施されていた。余談だが、1年後の札幌記念にソダシが出走した際は、若干規制緩和がされており、1362席の指定席開放に対し、17,514人の応募あった。翌年春の牝馬クラシック戦線を賑わした2頭の戦いも、名勝負の一つといえよう。


勝ち馬だけじゃない! 2012年は2着以下から2頭のGⅠ馬が誕生

「登竜門」という言葉はもちろん勝ち馬だけに適用されるものではない。この言葉の由来は、後漢書にでてくる話の中で、中国の黄河の急流である「竜門」を鯉が登り切れば竜になるという言い伝えからきている。トップで登らずとも、登り切ることが重要なのだ。

2012年 札幌2歳S,ⒸSPAIA


それを表すレースとしては2012年が思い出される。この年の勝ち馬コディーノは後に東京スポーツ杯2歳Sも制し、朝日杯FS2着、翌年の皐月賞3着など世代のトップクラスとして活躍した。その0.7秒差の4着がロゴタイプ、1.3秒差の9着がマイネルホウオウだった。ロゴタイプはこのレースが終わった段階で4戦1勝。函館2歳Sでは16頭立ての14番人気など、あくまで伏兵だった。

しかし、このレース後にM.デムーロ騎手との出会いで馬が一変する。次走のベゴニア賞を2歳コースレコードで制すると、朝日杯FSでは札幌2歳Sで敵わなかったコディーノとのマッチレースを制してGⅠ制覇。わずか3か月でこれだけの変わり身を見せた。その後も皐月賞や安田記念制覇をはじめ、重賞戦線で活躍した。

マイネルホウオウは札幌2歳Sでは4番人気に応えられなかったが、年明けのジュニアCを制するなど着実に力をつけ、NHKマイルCを制覇した。3連単100万馬券だったことや、柴田大知騎手の嬉しい平地GⅠ初制覇と感涙の勝利ジョッキーインタビューを覚えているファンも多いだろう。

今年も良血馬、期待馬、新種牡馬産駒、地方馬参戦など楽しみが多い札幌2歳S。何頭の若駒が竜門を登り切るか。長い目で見て答え合わせを楽しむのも競馬の醍醐味の一つ。興味深い一戦になりそうだ。

《ライタープロフィール》
高橋楓。
秋田県出身。競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にてライターデビュー。競馬、ボートレースの記事を中心に執筆している。

《関連記事》
【札幌2歳S】データは前走・函館のマーゴットソラーレを後押し 注目馬ガイアメンテは不安要素あり
【2歳馬ジャッジ】ガイアメンテが余裕を感じさせる美しい走りで好指数勝ち 大きな飛躍が期待できる逸材
【2歳馬ジャッジ】クラシック戦線の主役候補ギャンブルルーム 宝塚記念と同日に古馬を超える上がりを記録

おすすめ記事