【新潟2歳S回顧】勝ち時計1:33.8は未来への布石 勝ったアスコリピチェーノはGⅠ戦線でも好勝負可能
勝木淳
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北村宏司騎手、5年ぶりの重賞V
デビューしたばかりの2歳馬たちは、越後名物の新潟外回り直線658.7mをどう感じるのだろうか。あの長い長い直線で全速力を出し切るには闘争心と精神力が欠かせない。同時に約600mもある向正面でどれほど脚を溜められるかも重要になる。今年も序盤で折り合いを欠いてしまい、リズムに乗れなかった馬がいたように、このレースは最後の直線を意識し、ほぼスローペースで展開する。今回も前後半800m47.7-46.1、いい位置で流れに乗り、最後に33秒台の末脚を繰り出せないと勝負にならなかった。
勝ったアスコリピチェーノはまさにそんな理想的な競馬をした。騎乗していた北村宏司騎手は2018年プリモシーンの関屋記念以来、5年ぶりの重賞制覇を達成。同騎手は新潟外回り1600mを得意としており、10年レッツゴーキリシマ、13年レッドスパーダ、18年プリモシーンと、新潟の関屋記念を3勝している。3勝は逃げ、番手、差しと決まり手がバラバラで、その分、このコースの押し引きをよく把握しているといっていい。
北村宏司騎手といえば、2015年菊花賞をはじめ、キタサンブラックの前半期において主戦騎手だった。この頃はJRA年間100勝を達成するなど、関東の次世代トップと目されてもいた。藤沢和雄厩舎からデビューし、岡部幸雄騎手など関東騎手の伝統を受け継ぐ存在として、頭角を現したころ、キタサンブラックに出会い、一気に成績を伸ばしていった。だが、キタサンブラックの最初の有馬記念を前に負傷してしまい、長期離脱を余儀なくされてしまった。その後も、復帰しては負傷するなど、どうにもリズムに乗れない。長期離脱を繰り返すうちに、乗り鞍を減らし、勝ち星も減ってしまった。だが、その腕は決して落ちない。今夏の新潟は今週3勝を含め6勝と反転攻勢の予感がする。
スタートで無理することなく好位置をとり、その後は折り合いをつけて末脚を温存、位置取りの優位性を生かして、スパートのタイミングを計る。好位から上がり最速という理想形は、かつての関東所属騎手の得意とするところ。それを実践できる北村宏司騎手の復調は、長く関東の競馬に親しんだ者としては頼もしくもある。
連対した牝馬のその後
さて、アスコリピチェーノは東京芝1400mの新馬を勝ち、ここに挑戦した。過去10年、同じ前走東京芝1400mの新馬を勝った馬は【0-0-0-8】と好走がなかった。単純に距離延長で重賞挑戦が難しいとも考えられるが、中京芝1400m新馬は昨年まで【2-1-0-3】と好成績だった。6月東京の新馬では、好素材はマイル戦へ行き、1400mは少しレベルが落ちる傾向にある。これが新潟2歳Sでのデータに出ているのではないか。ただ、アスコリピチェーノは新馬戦で、後半600m11.3-11.6-11.6、34.5の流れを4コーナー11番手から上がり33.3で差し切った。2着レッドセニョールは6番手から上がり34.3なので、1秒も速かった。この決め手が今回で発揮された形だ。
新潟2歳Sを勝ったダイワメジャー産駒と言えば、セリフォスがいるが、同馬の勝ち時計1:33.8はアスコリピチェーノと同じ。1分33秒台だったのは、直近10年では14年1:33.4で優勝したミュゼスルタン、15年1:33.8で優勝したロードクエストと合わせて4回だけ。速い時計が出る新潟だが、2歳重賞はスローペースになるので、速い時計は出にくい。ミュゼスルタンは翌年NHKマイルC3着、ロードクエストはスプリングS3着、NHKマイルC2着、セリフォスも2歳時、デイリー杯2歳S勝ち、朝日杯FS2着後、翌年、NHKマイルCこそ4着だったが、その秋、マイルCSを勝った。アスコリピチェーノは牝馬であり、マイル戦となれば、自然と桜花賞を連想する。先輩たちと同じく、たとえ2歳戦で勝てなかったとしても、翌年まで注目しよう。
2着は逃げたショウナンマヌエラが粘った。こちらはスローペースを演出したこともあるが、後半600m11.3-11.2-11.5と残り200mに向けて加速ラップを描き、最後も11.5と失速を抑えた。コースや馬場に助けられた面を頭に入れつつも、粘り腰には見どころがあった。最後はフラつくなど若さも感じられ、まだまだ伸びしろはある。今年は牝馬のワンツー。このレースで連対した牝馬は2013年以降、6頭いるが、このうち4頭がその後、牝馬戦線で活躍した。
13年ハープスター・阪神JF2着、桜花賞1着
15年ウインファビラス・阪神JF2着
17年コーディエライト・ファンタジーS2着
22年キタウイング・フェアリーS1着
ショウナンマヌエラも秋以降、どこかで再度好走する可能性がありそうだ。新潟2歳Sはスローペースで恵まれたからだと軽視されるようなら、狙ってもいい。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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