【キーンランドC回顧】着実に成長を示すナムラクレア 満を持してスプリント女王へ
勝木淳
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昨年は北九州記念から本番へ
気候の極端化という現象は、自然環境の影響を大きく受けざるを得ない。競馬にとっても、これまで考えられなかった事態への対処を余儀なくされる。この日の札幌競馬場は突如、夏の午後とは思えぬ薄暗さと雷鳴、叩きつけるような雨に見舞われた。天候調査は2019年5月東京でひょうが降って以来のこと。そのときは中止になり、10R以降が取りやめになった。幸い、今回は徐々に天候が回復していき、8Rの発走が15分遅れで再開された。それでも芝は一気に水が浮くほどに悪化してしまい、メインのキーンランドCも重馬場発表のなか行われた。朝のクッション値は今夏最高の8.7と絶好の状態だったが、もはや見る影もなかった。
道悪といえば今年の高松宮記念。そんな連想をした方にとっては、やさしいレースだったかもしれない。不良馬場、勝ち時計1:11.5もかかった一戦で2着に入ったのがナムラクレアだ。3歳桜花賞から一気にスプリント戦に舵を切り、函館SSを勝ち、スプリンターズS5着とスプリンターとしての片鱗をみせた。当時、長谷川浩大調教師に取材する機会を得た。桜花賞から1200mへという路線転向はかなり早い時期から頭にあった。マイルでもう少し頑張ってもいいのではないかという意見もあったが、早くからスプリンターとしての素質を感じていたため、その道を信じた。
昨年は北九州記念からスプリンターズSへ向かった。理由はいくつかある。ハンデ戦なので、3歳牝馬なら重賞を勝っていても、そう背負わされることはないという斤量面のアドバンテージへの見込み、そしてキーンランドCの場合、北海道から中4週でGⅠ出走に向けて仕上げる必要がある。3歳牝馬でまだ繊細な部分を残すナムラクレアにレース後のケア、長距離輸送、再仕上げは忙しいのではないかと踏んだ。リラックスできる時間が少なければ、精神的に追い詰めかねない。
残るは馬場と枠順という運の要素
だが、今年はキーンランドCを前哨戦に選んだ。まず北九州記念は間違いなく重ハンデを背負わされる。それに栗東での調整はこの酷暑のなかでは難しく、真夏の長距離輸送はリスクも大きい。では本番への中4週はどうか。おそらく、古馬になり経験を積んだナムラクレアなら、こなせるという確信があったにちがいない。つまり、このローテはあれから1年経ち、ナムラクレアが成長した証だ。それをぜひ、スプリンターズSで示し、陣営の期待にこたえてほしい。
レースぶりも文句なしだった。外枠から無理に隊列に入ることなく、中団の外目を涼し気に追走し、前半600m34.3と馬場を考えれば、そこそこ流れた展開でも勝負所でポジション上げ、あっさり抜け出した。制御の効いたリズムを感じる走りにも進化を感じた。これまで最高タイムは3着だった北九州記念1:07.1。当時は若干、仕掛けが遅れ、脚を余してしまった。決して速い馬場への対応ができていなかったわけではない。今回のように4コーナーで加速しながら上がっていければ問題ないだろう。近年のスプリンターズSは極端に内側が優位な馬場になるケースが多い。昨年は外を回って5着に敗れた。本番は馬場や枠番など運の要素も味方につけたいところだ。
穴のジョーカプチーノ産駒
2着は逃げたシナモンスティックが入った。父ジョーカプチーノは知る人ぞ知る北海道シリーズの穴種牡馬だ。芝1200m20勝のうち、12勝を北海道であげている。思えばその父マンハッタンカフェも時計がかかる芝1200mを得意とする産駒が多かった。前走は同舞台のオープン特別UHB賞1着だったが、これは2番手から抜け出してのもの。今回はデビュー以来はじめて逃げの手に出て粘った。馬場の悪い内を避け、外目を通るコース取りも含め、松岡正海騎手の好判断が好走を呼び込んだ。
3着トウシンマカオは昨秋オパールSと京阪杯を連勝したあとは、スプリント重賞4、15、3、3着と道悪のGⅠ以外は崩れていない。安定感は裏を返せば、物足りなさ、あと一歩足りない善戦マンにもつながる。今回も勝ち馬と同じような位置にいながら、決め手が足りなかった。今後、この課題をどう克服していくかがカギだろう。昨秋はペースが上がりにくい阪神芝1200mで上がり最速を記録していた。血統のイメージもあるが、決して生粋のスプリンターというわけでもないかもしれない。3歳ファルコンS以来の1400m出走も、善戦止まり克服のためにいいのではないか。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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