【札幌記念回顧】香港遠征を経て、さらに逞しくなったプログノーシス 秋のGⅠ戦線が楽しみになる好内容
勝木淳
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プログノーシスの戦歴からみえるもの
夏の札幌クライマックスのひとつ札幌記念は、プログノーシスがジャックドールらGⅠ馬を相手にGⅡ・2勝目をあげた。これで10戦して【6-2-1-1】となった。このプログノーシスの戦歴に陣営の苦心と丁寧さを感じる。
3歳3月デビューから2年5カ月で10戦しかしていない。もっとも短い間隔で出走したのは、デビュー2戦目、中1週だった毎日杯だ。このレースで3着に敗れてから、陣営は極力詰めて使わないようにした。おそらく、競馬に出走したあとの消耗が激しく、大きなトラブルへの発展を避けたかったにちがいない。一戦必勝態勢で慎重に歩むという道は、遠回りにならざるを得ないが、それがプログノーシスの秘める力を花開かせる最短ルートでもあった。
また、毎日杯以降は芝1800か2000mに絞って出走させてきた。もちろん、これがベストの距離だからではあるが、選択肢を広げようといった模索をしなかった。中距離でこそ素質は開花するという確固たる信念を感じる。同時に毎日杯以降は阪神ないし中京に絞り、阪神では外回りに限定。関東への遠征もなかった。小回りに出走しなかったのは、特性を活かした形ではあるが、内回りや小回り出走で馬のリズムを壊したくなかったのではないか。なにせ一戦必勝態勢だけに、寄り道はできない。それだけプログノーシスは難しさを内包していることがわかる。
充実の5歳シーズン
5歳春の金鯱賞はそういった陣営の苦心がひとつの成果となった一戦だった。上がり33.9の決め手は強烈で、即GⅠ通用と評価された。それでも大阪杯は金鯱賞の疲れがあり、出走回避となった。2000mにこだわった陣営は香港のクイーンエリザベス2世Cへの出走を決める。阪神や中京といった近場にしか出走してこなかっただけに、これは大きな決断だった。結果は2着に敗れたが、この遠征でプログノーシスが得た経験は大きい。
というのも、はじめて小回りに出走した今回の札幌記念は、当日こそ雨は朝方わずかに降っただけだが、週中や土曜日の雨の影響もあり、開催が進んだ洋芝特有のタフな馬場状態でもあった。加えてユニコーンライオンが引っ張る流れは緩急が少なく、一定のペースで流れるタフなものになった。今回はプログノーシスが得意とする条件ではなかったはずだ。それでも3コーナーから外を動き、ひとまくりと完勝だった。これは香港で日本の高速馬場とは違う時計を要する馬場を経験したことが大きかった。輸送とタフな経験を経て、プログノーシスは逞しくなった。ゲートなど課題も残り、陣営の苦心はまだまだ終わらないかもしれないが、いよいよGⅠがみえてきたのは間違いない。
菊花賞でも面白いトップナイフ
2着には3歳トップナイフが飛び込んだ。こちらも芝2000mは今回含め重賞2着4回の得意舞台だ。重馬場の皐月賞も大きく出遅れ、競馬の形を崩しながら、0.9差7着と差を詰めていた。おそらく、ある程度時計を要する芝2000mは適性ど真ん中だろう。上記の通り、ユニコーンライオンはラップ的に飛ばしたわけではないが、ラップの落ち込みがない、いわゆる息が入りにくい流れにした。この展開をひと足先に動いて、4コーナー先頭から2着に粘り込んだ内容は濃い。レース後の昆貢調教師のコメントでは菊花賞を目指すようだが、今回見せた粘り強さは得意距離ではないかもしれないが、3000mでも武器になるだろう。京都の4コーナーを早めに動く絵が思い浮かぶ好走だった。
3着ソーヴァリアントは本来、プログノーシスとはちょっと遠い位置に適性がある馬だが、今回はタフな流れになったため、ソーヴァリアント向きの流れになり、そこにプログノーシスが順応してきた形だ。つまり、今回はソーヴァリアントが好走しやすい条件がそろっていた。得意条件でプログノーシスを視野に入れる形で進め、ついていったが、最後は離されてしまった。現状の力の差を感じるレースだった。とはいえ、小回りでタフな流れの重賞なら、タイトルの上積みは見込めそうだ。
11着シャフリヤールはレース後の検査で喉頭蓋エントラップメントが判明した。残念だが、これは手術、療養を待つよりない。1番人気ジャックドールは6着に敗れた。これで札幌記念の1番人気連敗記録は12に伸びた。いかにも得意そうな形のレースだったが、3コーナーで手応えがなく、4コーナーで脱落してしまったのはなぜだろうか。決着時計は昨年より0.3遅いので、ほぼ守備範囲のはず。こちらもなにかトラブルがなければいいが。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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