【札幌記念】連覇は牡馬を蹴散らしたエアグルーヴただ一頭 ソダシが制した2021年など思い出のレースを振り返る
高橋楓
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スーパーGⅡにふさわしい豪華メンバー
今週は札幌競馬場で豪華メンバーが揃った札幌記念が行われる。今年の大阪杯で悲願のGⅠ制覇を飾った昨年の勝ち馬ジャックドールは、引き続き武豊騎手とのタッグで参戦する。
また秋にアメリカ遠征も噂される21年のダービー馬・シャフリヤールは、鞍上に横山武史騎手を迎え、ここからの巻き返しを図る。
他にも昨年末に香港ヴァーズを勝った牝馬ウインマリリン、春に海外GⅠで2着に入ったダノンベルーガやプログノーシスなど、スーパーGⅡにふさわしい豪華メンバーが揃った。
何年たっても色褪せず、心に残り続けるレースがある。私にとっては1998年のサイレンススズカが勝った毎日王冠がそれだ。今回は語り草になるレースも多い本レースで、筆者が特に思い出に残る3レースを振り返ってみたい。
唯一の連覇達成 女傑エアグルーヴ
1990年代の王道路線は牡馬の独壇場だった。年度代表馬の名前を見ても、オグリキャップやトウカイテイオーに始まり、ナリタブライアンやエルコンドルパサーなど、9頭が牡馬となっている。
今でこそ牝馬の活躍が目立つが、90年代は善戦こそあれ、天皇賞やジャパンC、宝塚記念や有馬記念で活躍する牝馬は少なかった。その時代に堂々と牡馬と渡り合ったのが女傑・エアグルーヴである。
牡馬と初めて重賞で戦ったのが1997年の札幌記念。迎え撃つ牡馬の総大将は皐月賞とマイルCSを制していたジェニュイン。レースはエアグルーヴが中団から難なく抜け出し、2分00秒2のタイムで優勝。とはいえ、ジェニュインよりも4kg軽い斤量ということもあり、この段階では古馬のGⅠ戦線で活躍できるかは半信半疑だった。
しかし、ここからエアグルーヴの活躍はすさまじかった。次走の天皇賞(秋)は、2000mの距離になってからは牝馬として初めての制覇。その次走ジャパンCではBCターフ制覇などGⅠを5勝し、2年連続で凱旋門賞2着のピルサドスキーにクビ差の2着。さらにその次走、有馬記念で3着となり、1971年のトウメイ以来となる、牝馬による年度代表馬に輝いた。
エアグルーヴは年が明けた1998年も牡馬と戦い続け、再び札幌記念に参戦。昨年よりも3kg重い58kgの斤量を背負いながらも、タイムを0.7秒も縮める1分59秒5を記録し連覇達成した。グレード制導入後、連覇に挑戦した馬の成績は【1-1-0-7】で、達成したのはエアグルーヴただ一頭。GⅠ馬が複数参戦することが多い本レースでは、連覇は至難の業と言える。
今年はジャックドールが武豊騎手とのコンビで連覇に挑む。両馬の背を知る鞍上に導かれ、エアグルーヴ以来となる偉業達成なるか注目だ。
ソダシが制した2021年 2着ラヴズオンリーユーが秋は世界で大活躍
毎年、好メンバーが揃い「スーパーGⅡ」と呼ばれる本レース。今年も日本ダービーとドバイシーマクラシックの勝ち馬シャフリヤールを筆頭に、3頭のGⅠ馬が参戦予定。そして多くの重賞勝ち馬が集まった。
近年だと2021年が超豪華メンバーとしてすぐに思い出される。4頭のGⅠ馬が顔を揃え、掲示板をしっかり確保した。着順とレース当時の主な勝鞍を振り返ってみたい。
1着 ソダシ 牝3(桜花賞・阪神JF)
2着 ラヴズオンリーユー 牝5(オークス・QE2世C)
3着 ペルシアンナイト 牡7(マイルCS)
4着 マイネルウィルトス 牡5(福島民報杯)
5着 ブラストワンピース 牡6(有馬記念)
この年の主役は何といっても白毛馬で初めてGⅠを制したソダシ。オークスで8着に敗れ、初めて黒星を喫したとはいえ、桜花賞でコースレコードを記録するなど、ルックスだけではないことを証明していた。
そのソダシを抑えて1番人気に支持されたのがラヴズオンリーユー。世界的な良血馬で、誕生した2016年3月26日は全兄リアルスティールがドバイターフで初GⅠ制覇を飾った日という、ドラマチックな星の下に産まれた。ラヴズオンリーユーは2年前にオークスを勝ち、前走でクイーンエリザベス2世Cを制覇していた。
レースは時折小雨が混じる生憎の曇天模様。ゲートが開くと逃げ馬をマークするようにソダシが2番手につけ、ラヴズオンリーユーは中団待機。1000mを過ぎたあたりから一気にブラストワンピースがまくり気味に進出し、レースが一気に動いた。
それに呼応する形でソダシもスピードを上げ先頭に躍り出た。直線でもソダシの脚色は衰えることなく、ラヴズオンリーユーの追撃を振り切りそのままゴール。史上3頭目、3歳牝馬の札幌記念制覇を達成した。
このレース2着だったラヴズオンリーユーはその後、BCフィリー&メアターフと香港Cを連勝し、世界にその名を轟かせた。今年参戦するダービー馬・シャフリヤールも秋はアメリカ遠征が計画されている。同馬もここで好走し、秋の更なる飛躍に繋げて欲しい。
凱旋門賞へ向け視界良好! 天才少女ハープスター
凱旋門賞が斤量の関係で3歳牝馬が有利な事は周知の事実。それだけにハープスターが挑戦を表明したときは、ついに日本競馬の悲願が達成されると心底思ったものだ。世界中のレースに挑戦できるようになり、日本の芝とは全く異質の凱旋門賞を「悲願」というと、今の時代にそぐわないのかも知れないが、エルコンドルパサー、ディープインパクト、オルフェーヴルで涙し続けた人間にとっては、どうしてもこの言葉を選んでしまう。
2014年の札幌記念は、ハープスターが凱旋門賞の前哨戦として参戦した。このレースには同馬と同じく、秋に凱旋門賞挑戦を表明していたゴールドシップも出走。GⅠ・5勝の古豪が立ちふさがるのか、天才少女が乗り越えるのか。ファンはゴールドシップを単勝1番人気1.8倍で支持し、ハープスターは3.7倍の2番人気だった。
ゲートが開くとゴールドシップは行き脚がつかず最後方から。ハープスターもいつものように後方待機。人気馬2頭で後ろに陣取ると、馬券を持っている身としては胃が痛くなる展開が続いた。レースは3番人気のトウケイヘイローがすいすいとマイペースで逃げる展開。3コーナーあたりから一気にハープスターとゴールドシップが進出を開始し、すさまじい勢いで前に迫り、4コーナーでは大外にしか目がいかなかった。
直線では馬体は離れているが一騎打ちという言葉がふさわしい展開になり、ハープスターがゴールドシップを振り切り先頭でゴールした。その後、ハープスターは秋の凱旋門賞に参戦し、初海外ながら日本馬最先着の6着と健闘した。
今年も昨年末に香港ヴァーズを勝った強い牝馬ウインマリリンが参戦予定。脚質こそ違えど、ゴールまで抜かれない勝負根性は目を見張るものがある。日経賞とオールカマーで牡馬を撃破しているだけに、このレースでも上位の1頭に間違いない。
今後に向け、様々な思惑を持つ実力馬たちが今年も集まった。本レースの結果だけでなく、出走馬の秋の活躍にも期待しながら、レースを楽しみに待ちたい。
《ライタープロフィール》
高橋楓。秋田県出身。
競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にてライターデビュー。競馬、ボートレースの記事を中心に執筆している。
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