【小倉記念回顧】エヒトの型にハマったときの強さ炸裂 2着テーオーシリウスは逃げ馬の典型パターン
勝木淳
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固め打ちする騎手が目立った週末
夏の小倉が開幕し、夏の3場開催も再開した。暑熱対策という難しい施策の一環とはいえ、小倉がわずか4週間しかないのは、ちと寂しい。昨年までは中京代替の小倉があったが、通常スケジュールに戻る今年はそこがないため、4週間と大幅に縮小された。たしかに真夏に小倉まで輸送するのはリスクもある。にしても、小倉競馬場は冬と夏しか開催がなく、少々もったいない気もする。阪神競馬場をリニューアルする関西は来年以降も代替開催がありそうで、中京の出番が増えそうだが、ぜひ小倉も仲間に入れてほしい。
さて、3場開催が再開した今週は騎手が散らばったこともあり、固め打ちする騎手が続出した。新潟ではC.ルメール騎手5勝、戸崎圭太騎手4勝、札幌は武豊騎手5勝、そして小倉では川田将雅騎手が6勝をあげた。土日メインを制し、存在感を示した川田騎手は、残り3週は札幌、新潟で騎乗するという。最初で最後の夏の小倉で記憶に残るパフォーマンスをみせた。そのハイライトが小倉記念のエヒトだ。
開幕週、内枠、先行有利な芝で内枠をひいたエヒトだったが、近走はスタートに課題があった。後手を踏み、位置をとれなければ劣勢になる。その状況下で、エヒトはスタートひと息ではあったが、テーオーシリウスが逃げてできたスペースを利用し、巧みにリカバリーして好位のインを奪取した。最初の直線の攻防がエヒト勝利の布石でもあった。
テーオーシリウスとエヒトの親和性
レースは戦前の予想通り、函館記念から転戦してきたテーオーシリウスの単騎逃げになった。同馬は徹底先行型であり、冬の小倉では2勝クラスの芝1800m戦で前半1000m通過58.3のハイペースで大逃げを打っていた。その後も逃げてオープンまで出世してきたが、大逃げイメージが残りつつも、次第にペースを落として逃げる術も身につけていた。ここでも前半600mこそ34.5と突っ込んで入りつつも、1、2コーナーで12.1-12.1と息を入れ、1000m通過58.7は馬場を考えれば、スローに近いマイペースだった。しかしながら、後半1000m11.9-11.9-11.9-11.6-11.8、59.1とテーオーシリウスらしい緩急を問わないスピード競馬に持ち込んだ。
瞬発力を問わない流れと先行有利な馬場。これがエヒトと噛み合った。昨年の七夕賞は前後半1000m58.5-59.3、1:57.8、上がり3ハロン35.3と適度に上がりがかかった。この流れのなか、外をまくって上がり3ハロン34.4で抜け出したエヒトは典型的なルーラーシップ産駒のロングスパート型だ。特定の流れであれば強い。そういった型をもった馬は付き合いやすい。テーオーシリウスのような引っ張る馬がいる小回りの中距離戦がベストであり、今後もそういった設定で買えばいい。
なお、小倉記念で前走七夕賞6着以下の馬が勝ったのは、12年エクスペディション、17年タツゴウゲキ以来3頭目になる。このうち新潟記念を勝ったのはタツゴウゲキ1頭。同馬はサマー2000シリーズ王者に就いた。エヒトはこれに続けるだろうか。タイプ的には新潟芝外回り2000mは合わなさそうだが、タツゴウゲキも新潟外回り向きではなかった。発馬を決め、先行し、自分が得意な流れに持ち込めれば可能性はある。
逃げ馬の典型テーオーシリウスは大敗後こそ買い
2着は逃げたテーオーシリウス。函館記念から小倉記念へという真夏の大縦断を敢行し、馬体重マイナス12キロとギリギリだった可能性はあるものの、こちらも型をもったタイプだ。以前より前半でムキにならないようになっており、単騎で行ければ、後半早めにスパートをかけ、持続力勝負に持ち込める。もっとも、函館記念のようにライバルの逃げ馬がいる場合や、執拗なマークを受ける上位人気のときは注意が必要で、むしろ大敗後こそ買いという逃げ馬の典型パターンでもある。
3着ゴールドエクリプスはマーメイドS4着からの転戦だった。真夏の長距離輸送を挟みながらも馬体重プラス8キロと充実度合いを感じる。今回は差し馬が台頭しにくい馬場に泣いた印象だが、重賞で安定した成績を残しており、今後はハンデ差がなくても走れるか注目したい。4着は連覇を狙ったマリアエレーナ。昨年の小倉記念と似た流れになり、好位にいた同馬にはドンピシャな形だった。伸びを欠いたのは牝馬で56.5キロという斤量が最後に響いたからだろう。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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