【関屋記念回顧】経験を重ね、イメージを一新したアヴェラーレ 木村哲也厩舎ゆかりの血統が夏の新潟で躍動
勝木淳
ⒸSPAIA
今週5勝の木村哲也厩舎
真夏の越後、日本一長い直線コースを目一杯使って繰り広げられる叩き合いは、果たしてどの馬が最後に抜け出すのか、手に汗握る攻防により観るものを熱くする。ディヴィーナ、ラインベックが先に抜け出すところ、内からスルスルとやってきたのが勝ったアヴェラーレだった。
管理するのは、イクイノックスの木村哲也調教師。先週はその半妹ガルサブランカの新馬勝ちを含め、5勝の固め打ちで一気にリーディング上位に入ってきた。世界が注目するイクイノックスという超A級馬を管理する木村調教師にとって、アヴェラーレの関屋記念はまたひとつ、感慨深いものだろう。
2011年7月の初出走からJRA・352勝をあげた木村厩舎に初めて重賞タイトルをプレゼントしたのがアヴェラーレの母アルビアーノだった。開業5年目3月に3連勝でフラワーCを制したアルビアーノは、次走NHKマイルCで2番手から残り400mで敢然と先頭に立つも、クラリティスカイに屈し2着だったが、牝馬ながら見せ場たっぷりのレース内容だった。その後、スワンSを勝ち、重賞2勝目をあげ、4歳の高松宮記念でも3着に健闘した。のちに黄金コンビとなるC.ルメール騎手と木村厩舎の重賞初出走は、アルビアーノのオーシャンSであり、今日の活躍の土台を築いた馬だ。
繁殖牝馬としてノーザンファームに帰ったアルビアーノが最初に産んだのがアヴェラーレだ。木村厩舎に入ったアヴェラーレはルメール騎手を背に初陣を飾り、東京芝1400mで連勝後、ニュージーランドT15着で壁にはね返されるも、4歳冬に東京芝1600mで3勝目を飾り、左回りのマイル戦を中心に経験を積み、5歳春にオープン入り。3度目の重賞挑戦だった関屋記念で重賞タイトルにたどり着いた。
木村厩舎らしいゆったりとしたローテーションと徹底した左回り1400~1600mに絞った戦略が実を結んだといっていい。15着だったニュージーランドT以来、右回りへの出走はない。3勝目が東京の稍重1:34.7、4勝目が重の中京1:37.2だったこともあり、高速決着や瞬発力勝負への対応が気になったが、結果は杞憂に終わった。母アルビアーノはデビュー当初、前へ行ってどこまで粘るかといった形だったが、スワンS1:20.2、上がり3ハロン33.5など次第に瞬発力勝負に対応できるようになり、3着だった高松宮記念もハイペースのなか、上がり3ハロン33.4の末脚を繰り出した。ストームバード系ハーランズホリデイ産駒でスピードは一級品でも、単調な面もあった母は競馬を経験しながら、末脚を磨いていった。
木村厩舎は経験を積んで末脚に磨きをかける
アヴェラーレも母に似た成長曲線を描き、経験を積みながら末脚を鍛えていった。この点は木村厩舎の馬に多く見られる傾向でもある。イクイノックスも3歳春はあと一歩足りなかったが、秋にそんなイメージを振り払った。
母系のそういった特徴に父ドゥラメンテは絶妙で、瞬発力を補う役目を果たしている。とはいえ、ドゥラメンテは8/6までで新潟マイル【4-5-2-32】勝率9.3%、複勝率25.6%とディープインパクト、キズナのサンデー系やエピファネイア、モーリスに後塵を拝している。平坦の瞬発力勝負が得意とはいえないが、アヴェラーレは母系のスピード色と上手くマッチし、高速馬場に対応できた。速い馬場への対応は日本の競馬では欠かせない要素であり、関屋記念制覇はそういった面でも大きい。右回りへの対応など課題は残るが、左回りのマイル戦に絞るのであれば、もう一つタイトルの上積みも見込める。
2着ディヴィーナは父も母も得意な東京マイルで
中京記念を逃げ切ったセルバーグやノルカソルカがいて、関屋記念のわりに速く流れそうな予感もあったが、終わってみれば、前後半800m46.5-45.6のスローペースで展開し、途中からセルバーグが先頭に立つ形でレースは進んだ。願ってもない形になったのは2着ディヴィーナだろう。内枠から好位のインに潜りこみ、残り400mで抜け出した。アルビアーノのNHKマイルCではないが、直線の長いコースの最後400mは思った以上に長い。セルバーグが粘れず、早めに先頭に立たされた面はあった。最後は背後にいたアヴェラーレに0.1だけ交わされたが、この辺は父モーリス、母ヴィルシーナで少し瞬発力に欠いた。
とはいえ、モーリスもヴィルシーナもスピードの持続力は一級品であり、先行して粘る力は十分ある。アヴェラーレに上手に立ち回られてしまったのは運がなかった。とはいえ、夏2戦で重賞タイトルを獲れる力をあるところは証明した。父も母も東京マイルが得意であり、巻き返しの機会は秋の東京あたりではないか。
3着ラインベックは関屋記念で強い8枠を味方につけ、好位の外目をスムーズに回ってきた。スローペースでロスなく内枠で脚を溜めた牝馬2頭には屈したが、4着フィアスプライドには1馬身1/4差つけており、力は十分示した。父ディープインパクト、母アパパネの良血馬が5歳暮れからマイル戦に集中し、2、1、9、2、3着と安定してきた。大きく負けた一戦は重馬場であり、良馬場のマイル戦でスピードを活かす舞台がベスト。この辺は母アパパネに重なる部分がある。もう少し持続力を活かせる競馬なら、前進が見込めるのではないか。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
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