【エルムS】ダート替わりはクラスが上がるほど凡退率アップ データで導く「過信禁物の注目馬」

藤川祐輔

2023年エルムステークスの過信禁物な馬の前走傾向,ⒸSPAIA

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秋のビッグレースへ繋がる一戦

2023年8月6日、札幌競馬場でエルムS(GⅢ・ダート1700m)が行われる。真夏の北の大地を舞台に、例年ダート界の猛者がしのぎを削る当レース。今年は一線級の登録こそ少ないが、秋以降の飛躍を期すメンバーが多く名を連ねた印象だ。

昨年は9番人気フルデプスリーダーが勝利、一昨年(函館開催)は1~3番人気が全て馬券圏外に沈んだように、近2年では波乱の決着が続いている。加えて今年のメンバーは実力伯仲の様相を呈しているだけに、人気馬の取捨選択は馬券的中の鍵となりそうだ。本記事では近10年のデータを基に、「過信禁物の注目馬」を導いていく。


ダート替わりは要注意

前走馬場別の成績,ⒸSPAIA


まず注目したいのが、前走の馬場別の成績である。函館開催を含む近10年で馬券に絡んだ馬は全て前走でダートのレースを使っており、前走で芝を走った馬の成績は【0-0-0-8】と全く好走できていない。

20年に勝利したタイムフライヤーですら、19年に京都記念(GⅡ)から転戦した際には6着に敗れている。潜在的なダート適性を有していた馬でも、芝からダートへの転戦で実力を発揮することは難しかったようだ。

ダート替わりの馬のクラス別成績,ⒸSPAIA


これを補足するデータとして、ダート替わりの馬のクラス別成績を取り上げる。2020年以降の未勝利戦では【445-384-379-6095】勝率6.1%、連対率11.4%、複勝率16.5%となっているが、クラスが上がるにつれて成績は悪化していき、重賞では【1-2-1-42】勝率2.2%、連対率6.5%、複勝率8.7%にまで落ち込む。

当然ながら芝とダートではレースの質が異なっており、スピードが要求される芝からパワー重視のダートへの転戦で結果を残すことは簡単ではない。下級条件では素質や能力の差で通用しても、重賞のようなハイレベルなレースとなると一筋縄ではいかないことが、データからも伺える。


滞在競馬が優位 前走からの間隔に注目

前走からの間隔別成績,ⒸSPAIA


次に気を付けたいポイントとしては、前走からの間隔が挙げられる。函館開催も含む近10年で最も成績が良いのは、間隔が4~7週(中3~6週)の馬であり、【8-7-5-56】勝率10.5%、連対率19.7%、複勝率26.3%。馬券圏内に入った馬の2/3がこのグループに属しており、特に函館で行われる前哨戦のマリーンS(OP)や大沼S(L)から転戦した馬が大部分を占めていた。夏競馬らしく、輸送が少ない北海道滞在で調整を行なった馬が優位、ということがデータからわかる。

一方で、間隔が3週(中2週)以下の馬は【0-0-0-12】と全く好走できていない。今年の登録メンバーなら、連闘のカラフルキューブのみ該当するが、現状、門別のブリーダーズゴールドカップと両にらみだ。

間隔8週以上・前走クラス別成績,ⒸSPAIA


注目したいのは、間隔が8週以上のグループだ。成績は【2-3-5-37】勝率4.3%、連対率10.6%、複勝率21.3%となっており、間隔4~7週の組には劣るが悪い成績ではない。だが、この組を前走のクラス別に分けると、好走傾向がはっきりと浮かび上がる。

間隔が8週以上で前走が重賞だった馬の成績は【2-3-5-25】勝率5.7%、連対率14.3%、複勝率28.6%と上々だが、対して前走が非重賞だった馬の成績は【0-0-0-12】と苦しい結果になっている。


データから導く「過信禁物の注目馬」

ここまでに紹介したデータを総括すると、当レースを予想する上での「不安要素」は以下の2点となる。

・前走が芝のレース
・間隔が8週以上で前走が非重賞

これを踏まえて、今回「過信禁物の注目馬」として挙げるのはオーソリティ、タイセイサムソンの2頭である。

オーソリティは芝の中長距離路線で重賞を4勝、一昨年のジャパンCではコントレイルに次ぐ2着に好走しており、今回のメンバーの中でも実績は最上位だ。しかし、昨年の宝塚記念で故障を発生して以来の復帰戦であり、初ダートという点でデータ的にも不安が残る。当馬の重賞での良績は左回りや大箱の競馬場に集中しており、右回りの札幌コースへの適性にも疑問が残る。これまでの実績や血統を評価されて支持が集まるようなら、馬券的な妙味は薄いだろう。

タイセイサムソンは、前走のアハルテケS(OP)で後続に4馬身の差をつける完勝。先行勢が軒並み崩れる中で逃げ切った内容も含めて、今回は高い評価を受けそうだ。しかし、レース間隔は9週かつ前走が非重賞であるため、データの面では不安が残る。また、未勝利戦を含めて勝ち鞍はワンターンである東京ダ1400mと東京ダ1600mに集中しており、2ターンで勝利したのは未勝利戦のみ。

3走前には中山ダ1800mが舞台の総武S(OP)で3着に敗れており、同じく2ターンである札幌ダ1700mは、ベストとは言えないだろう。初の重賞挑戦で相手も一気に強化されるだけに、前走の派手な勝ち方に目を奪われず、過去の戦績やコース適性を見極めて取捨選択を考えたい。

《ライタープロフィール》
藤川祐輔
98年生まれの現役大学院生。競馬好きの父の影響を受け、幼いころから某有名血統予想家の本を読んで育った。幸か不幸か、進学先の近くに競馬場があり、勉強そっちのけで競馬に没頭。当然のごとく留年した。現在は心を入れ替え、勉強も競馬も全力投球。いつの日か馬を買うのが夢。

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