【宝塚記念】ハイペースが濃厚な一戦 アスクビクターモアの一発警戒

山崎エリカ

2023年宝塚記念出走馬のPP指数,ⒸSPAIA

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ペースが二極化しやすい

宝塚記念は過去10年でかなりのハイペース3回、ややハイペース2回。一方、かなりのスローペース2回、ややスローペース3回と極端な結果となっている。これは阪神芝2200mの序盤が下り坂であることや、初角までの距離が長く、前半3Fが速くなることが影響している。

前半3Fで勢いに乗せてそのままハイペースになることもあるが、そのぶん道中でペースが落ち、スローペースになることもある。つまり、逃げ馬の数や性質、馬場状態の影響を強く受けるということ。

昨年のようにパンサラッサが同型のタイトルホルダーを意識して、道中もペースを緩めず逃げればかなりのハイペースにもなるし、2014年ヴィルシーナのように同型馬不在を生かし、道中で上手くペースを落とせば、かなりのスローペースにもなるということ。その年はヴィルシーナが8番人気ながら3着に粘った。

また過去2年は3回阪神2週目の開催で、内でも十分に粘れていたが、今年は3回阪神4週目に戻る。すでに外差しが決まりだしているので、レースがハイペースになれば2020年のような外差し決着になることが予想される。

今回はユニコーンライオンが一昨年のように、道中で息を入れて逃げられればいいが、当時は1番枠だったのに対して今年は15番枠と外枠。さらに外にドゥラエレーデが入り、12番枠にアスクビクターモアもいる。同馬はスタート次第のところはあるが、ハイペースが濃厚だろう。それを踏まえて予想を組み立てたい。

能力値1~5位の紹介

2023年宝塚記念出走馬のPP指数一覧,インフォグラフィック,ⒸSPAIA


【能力値1位 イクイノックス】
昨春のクラシック2冠は連続2着に終わったが、秋になって本格化。天皇賞(秋)と有馬記念を連勝した。有馬記念は9番枠から五分のスタートを切って、そこから行きっぷりが良かったが、折り合い重視で中団馬群の外目、エフフォーリアをマークして追走。3~4角で同馬をアオるように馬なりで並びかけ、先頭列で直線を向かえると、すっと抜け出して2馬身半差で完勝した。

有馬記念当日は馬場の良い外をスムーズに走れたのは確かだが、早めに動いて3角後方2番手の2着ボルドグフーシュに次ぐ、メンバー2位の上がり3Fタイムを記録したのは強いの一言。指数も今回のメンバーで1位のものを記録している。

一転して前走のドバイシーマクラシックでは、6番枠からまずまずのスタートだったが、逃げ馬不在で押し出されるようにして先頭。2角過ぎから明確にペースを落とし、「捲りたいなら捲れ」というようなスタンスで乗っていたが、そのままレースは動かず。3~4角で徐々に加速して直線序盤で促されると、すっとここで後続をちぎり、そのまま差を広げて3馬身半差で優勝した。

同レースはかなりのスローペースに持ち込んでの逃げ切りではあるが、最後は鞍上が後ろを振り返って、流していたほどレースぶりに余裕があった。本馬のように逃げて持久力を生かす競馬も、差してトップスピードを生かす競馬も対応できる馬は滅多にいない。

例えばタイトルホルダーやパンサラッサが逃げて消耗戦に持ち込んだ昨年のような展開なら、スタミナの差で敗れてしまう可能性はあるが、今回はそういう馬はいない。逃げ馬3頭が揃って外枠に入り、内に3~4角の外から早めに動くティープボンドもいるとなると、3~4角で上手く外に出せず包まれてしまう危険性もあるが、普通に走って能力を出し切れば勝ち負けになるだろう。さすがに逆らいにくい。

【能力値2位 ジャスティンパレス】
前走の天皇賞(春)で悲願のGI制覇を達成した馬。前走は1番から五分のスタートだったが、最内枠を生かして上手く好位を狙い、最終的には好位直後の最内を追走。スタンド前で中目に誘導、向正面ではディープボンドをマークし、3角から同馬を追い駆けてじわっと進出して2列目の外で直線へ。直線序盤ですっと伸びて早めに抜け出したディープボンドを交わしてどんどんリードを広げ、2馬身半差で完勝した。

逃げたタイトルホルダーの故障の影響で3角手前から大きくペースが緩んでおり、そこを外から上手く押し上げたことが功を奏した面はある。しかし、本馬が前走で記録した指数はイクイノックスの有馬記念に次ぐNO.2のもの。意外と高い指数で決着している。また、昨年の有馬記念ではイクイノックスと1.1秒差の7着に敗れているが、外差し馬場を好位の最内を追走と、馬場が悪化した内から勝ちにいったことが裏目に出た結果である。

ただし、超一戦級が集うGⅠで連続好走するのは難しいもの。天皇賞(春)を目標に仕上げ、そこで好走すれば今回は余力で走ることになるからだ。昨年のタイトルホルダーは天皇賞(春)と宝塚記念を連勝しているが、着差は7馬身差の圧勝から2馬身差まで縮まっているように、指数を6pt(=0.6秒差)ダウンさせている。

またキタサンブラックは生涯2度、馬券圏外に敗れているが、そのうちの一回が2017年の天皇賞(春)1着からの臨戦だったこのレース(9着)だ。また2016年も同じ臨戦で3着に敗れている。2013年天皇賞(春)の覇者フェノーメノはこのレースで4着、2012年天皇賞(春)の覇者ビートブラックは9着と、大半の天皇賞(春)優勝馬がこのレースで敗れている。そこを考えると本馬は狙いにくい。

【能力値3位 カラテ】
今年の新潟大賞典をGⅠ通用レベルの指数で優勝した馬。同レースは2番枠から五分のスタートを切って、そこから楽に先行したが、外のセイウンハーデスが大逃げ体勢だったため、好位の内目に収めて追走。3~4角でも我慢させ、3列目の内で直線へ。序盤で馬場の悪い最内から徐々に中目に誘導しながら2番手に上がり、ラスト2Fで追い出されると粘り込みを図るセイウンハーデスとの一騎打ちとなり、それを3/4差で制した。

当時は極悪馬場で3角5番手以内馬4頭が11着以下に崩れたなか、5番手から優勝したのが本馬であり、3着には8馬身差以上を付けている。つまり、セイウンハーデスと本馬の持久力が優っていたということ。本馬は長らく追走が忙しい芝1600mを使われ、能力の高さで東京新聞杯を制したこともあったが、中距離を使われてスムーズにレースの流れに乗れるようになり、上昇した。

不良馬場で高指数を記録したことで、道悪巧者でパワー型のイメージが強く残るが、マイル重賞でも通用していたようにそれなりにスピードはある。前走は9着に敗れたが、道悪で好走した疲れがあったのだろう。マリアエレーナをマークしてレースを進めていたが、直線で同馬が伸びず、十分な進路が作れずにまごつく不利もあり敗れた。しかし、勝ち馬との着差は0.5秒差と大きく負けておらず、ここでの巻き返しが期待できる。

【能力値4位 ディープボンド】
一昨年と昨年の阪神大賞典勝ち馬で、天皇賞(春)でも3年連続2着のステイヤー。一昨年の阪神大賞典はかなりタフな重馬場で前半5F62秒4-中盤5F63秒2-後半5F61秒7と緩みく流れたが、6番枠から好スタートを切って、前2頭から離れた2列目外を追走。3~4角で先頭列の直後まで上がり、直線序盤で外に誘導して追い出されると、後続を引き離して5馬身差で圧勝した。

一方、芝2000mでかなりのスローペースとなった2021年中山金杯では中団外目を追走し、3~4角でペースが上がっていく中で置かれて後方に後退。直線序盤で包まれ、進路を確保してからも伸びず、ラスト1Fでも前が完全に壁で何も出来ないまま14着に敗れた。このことからトップスピード勝負に持ち込むと分が悪く、早めに動いて持久力を生かしてこその馬だと言える。

本馬は中山金杯の敗戦により、長距離路線を主体に使われているが、昨年の宝塚記念では4着に善戦している。同レースは15番枠からかなり押して「何としても前へ」という競馬で、激流に乗って2列目の外を追走。向正面では先頭のパンサラッサから離れた3列目の外を追走し、3~4角の外からかなり押して前のタイトルホルダーに食らいついていく競馬。4角では同馬の手応えが良く、ここで離されてしまったが、そこからもしぶとく踏ん張って2着ヒシイグアスと0.3秒差の競馬ができている。

天皇賞(春)2着から宝塚記念に直行するローテーションは昨年と同じ。今年も昨年同様、前走が能力を出し切ったとは言えない内容だっただけに、今年も善戦の可能性があると見ている。前3頭がペースを引き上げて行くなか、なるべく前の位置を取り3~4角の外から早め先頭に立つような競馬ができればチャンスはあるだろう。

【能力値5位 スルーセブンシーズ】
一昨年の牝馬クラシックではオークス9着、秋華賞11着とGⅠの壁にぶつかったが、古馬になって地力を付け、今年は3勝クラスの初富士SとGⅢ・中山牝馬Sを連勝。前走はやや出遅れて後方から中団馬群の中に入れ、そこで折り合わせて行く形。向正面では外に誘導してエイシンチラーの後ろを取り、3~4角ではその外から動いて位置を押し上げ、2列目の外で直線へ。序盤で追い出されると先頭列に並びかけ、ラスト1Fで食らいつくストーリアをラスト1Fで離して1馬身1/4差で完勝した。

3~4角でペースが緩んで前有利の展開となったなか、外から早めに仕掛けてラスト2F11秒2-11秒3でまとめ、メンバー最速の上がり3Fタイムで抜け出したあたりに、本馬の本格化を感じた。ただし、今回はそれ以来の休養明けで距離延長。前走のレースぶりを見る限り、もっと距離が延びても良さそうだが、休養明けはスタミナが不足するもの。そこが懸念材料とある。さらに相手強化となると狙いにくい。

穴馬は菊花賞馬アスクビクターモア

昨年の菊花賞馬。同レースは14番枠からまずまずのスタートだったが、押してセイウンハーデスから離れた2番手を追走。同馬の大逃げで前半5F58秒7-中盤62秒7-後半5F61秒0の前半からかなり速い流れになったが、この流れを2番手から4角で並ぶ間もなく同馬を交わして堂々の先頭に立ち、そのまま押し切る強い内容だった。

本馬は超絶高速馬場で緩みないペースで流れたダービーで単独2番手からイクイノックスと2馬身差の3着に善戦したようにスピードもそれなりにある。今年の2戦は大敗したが、前々走の日経賞はスタミナが不足する休養明けで極悪馬場。出遅れて最後方から挽回していく苦しい展開で9着に敗れた。勝ち馬タイトルホルダーに大きく離されており、本調子ではなかったと推測できる。

しかし、前走の天皇賞(春)はスピード面の復活を見せている。6番枠からやや出遅れたが、それを二の脚で挽回してスタンド前では2列目の外を追走。向正面で2列目の内からタイトルホルダーをマークして乗られていたが、3角で同馬が故障し、下がってまさかのブレーキ。ここで3列目まで位置を下げてしまった。

前走は前半で厳しい流れを先行して位置を取りながらも、3~4角の勝負所で位置が下がってしまい惨敗。しかも、本馬は3~4角の外から動いて行くディープボンドのようなタイプだけに、前走の不利は致命的だった。しかし、前走で不完全燃焼だっただけに、疲れが残らず、この中間は強めに追われながらも元気一杯。本馬はディープボンドよりも楽に前の位置が取れる優位性があり、ここは一発を警戒したい。

※パワーポイント指数(PP指数)とは?
●新馬・未勝利の平均勝ちタイムを基準「0」とし、それより価値が高ければマイナスで表示
例)イクイノックスの前々走指数「-29」は、新馬・未勝利の平均勝ちタイムよりも2.1秒速い
●指数欄の下線、茶色はダート
●能力値= (前走指数+前々走指数+近5走の最高指数)÷3
●最高値とはその馬がこれまでに記録した一番高い指数
能力値と最高値ともに1位の馬は鉄板級。能力値上位馬は本命候補、最高値上位馬は穴馬候補

ライタープロフィール
山崎エリカ
類い稀な勝負強さで「負けない女」の異名をとる競馬研究家。独自に開発したPP指数を武器にレース分析し、高配当ゲットを狙う! netkeiba.com等で執筆。好きな馬は、強さと脆さが同居している、メジロパーマーのような逃げ馬。

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