【NHKマイルC】シャンパンカラーが道悪の大混戦を断つ! 内田騎手のひと押しとドゥラメンテの底力
勝木淳
ⒸSPAIA
雨に祟られたマイル戦線
大型連休最終日の競馬は3場すべてが雨のなかで開催された。新潟と京都は不良馬場だったが、東京は雨の降りだしも遅く、雨量もそこまでなかったこともあり、9R湘南Sまで良馬場発表だった。10Rからやや重に変更されたものの、やはり東京の馬場は頑健だ。とはいえ10R終了後、メインレースを待っていたかのように雨は強まり、短時間に芝はかなりの雨を含んだ。さらに列島に張りついた前線が引きずり込んだ冷たい空気が一気に場内に寒さを運んできた。薄暗いゴール前といい、とても立夏直後とは思えない雰囲気だった。
人間の力ではどうにもならない天気というやつは、競馬においても運のひとつとされる。NHKマイルCもクラシック同様に生涯一度の晴れ舞台。できれば青空の下でと思わなくもない。だが、それもこれもすべてを内包しなければ競馬は成り立たない。本当に難しい世界だ。
マイル路線のトライアルがはじまる3月半ばから週末に雨が降ることが実に多く、ファルコンSとアーリントンCは重馬場、ニュージーランドTはやや重と前哨戦はことごとく道悪で行われ、結果的にNHKマイルC出走馬のうち、前走が良馬場だったのは桜花賞のシングザットソング、無念の取消だったクルゼイロドスルの2頭しかないという珍しい状況だった。そんな流れを引きずったか、今回もやや重発表。今年の3歳マイル戦線はパワーがないと勝ちあがれなかった。
ドゥラメンテの底力
もともとNHKマイルCは良馬場施行が多く、過去27回で良24回、やや重3回で重、不良ゼロ。もっと早く雨が強まっていれば、レース史上初の重馬場だった可能性もあった。やや重3回は1998年エルコンドルパサー、2007年ピンクカメオ、08年ディープスカイ。15年ぶりのやや重施行の今年、勝利したシャンパンカラーの鞍上・内田博幸騎手のJRA・GⅠ初勝利は07年17番人気ピンクカメオ。道悪のNHKマイルC4回中2勝。ウチパクさんの剛腕が久々に唸った。
内田博幸騎手はこれでJRAのGⅠ・13勝。今回含め4勝が東京芝1600m。1/3近くをこのコースであげている。東京マイルのGⅠはスピードと持久力どちらを欠いても勝てない。最後の最後に試される持久力をひと押しする力が内田騎手にはあるのではないか。シャンパンカラーも最後の200mでオオバンブルマイ、ダノンタッチダウンと横に広がった競り合いをしのぎ、外から強襲したウンブライルを封じたのは内田騎手のひと押しも大きい。マイル戦のラスト200mは究極の無酸素運動である陸上の400m走の最後に近い。
内田騎手のJRA・GⅠ勝利は18年フェブラリーSノンコノユメが最後なので、約5年ぶり。昨年はGⅠ騎乗1回と近年はGⅠ戦線から遠ざかっているが、最後のひと押しが効く内田騎手の活躍の場はまだまだある。
この勝利で父ドゥラメンテは3世代で早くもGⅠ・9勝目。このうち6勝が2、3歳限定戦。POGも一口馬主もクラシックを中心に考えるなら、ドゥラメンテはなくてはならない。しかし、今年の2歳世代がラストクロップ。つくづく早世が悔やまれる。母方にノーザンダンサー系の血が入る馬との相性がよく、シャンパンカラーの母メモリアルライフもダンチヒとストームキャットの組み合わせでノーザンダンサーのクロスを持つ。タイトルホルダーも母系はノーザンダンサークロスがあり、これがドゥラメンテと組み合わさると、豊富な持久力をもたらす。シャンパンカラーも持久力勝負に強いタイプとして今後も大一番で力を発揮するだろう。
一変した4着ダノンタッチダウン
NHKマイルCの決着時計1:33.8はギリギリ良馬場だった3勝クラス湘南S1:33.6と比較すると、決して遅くはない。
湘南S 序盤600m35.4、前後半800m47.0-46.6、終盤600m34.8
NHKマイルC序盤600m34.3、前後半800m46.3-47.5、終盤600m35.4
先行馬が最後に崩れたNHKマイルCは、序盤600mが湘南Sより1秒1も速く、入りが厳しかったからにほかならない。だが、道悪だったことを考慮しても、最後に突っ込んできた2着ウンブライルは決して展開利だけではない。この馬場で上がり最速を記録したウンブライルも軽さが身上のタイプではなく、気性面さえ前向きになり、今回のように最後まで走り切れれば、タイトルは近い。東京のマイル戦はベストな舞台であり、今後もこのコースで狙っていきたい。
3着オオバンブルマイは外目をスムーズに抜けてきたが、最後の最後に一杯になってしまった。道悪のアーリントンCこそ勝っているが、上の舞台で勝負するなら、もう少し短い距離でも面白いかもしれない。ディスクリートキャット産駒はJRA87勝中59勝が1400m以下。ダートも67勝で、オオバンブルマイもまだまだ可能性が広がる。4着ダノンタッチダウンは皐月賞18着から一変した。パドックでも明らかに迫力を増した歩きを披露し、手応え抜群で好位から抜け出しかかった。上位は追い込み勢であり、力は十分示した。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。
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