【フェブラリーS】昨秋の経験を糧にGⅠ奪取! 完璧だったレモンポップ
勝木淳
ⒸSPAIA
焦点はレモンポップの距離延長
福永祐一騎手の国内ラスト騎乗、カナダからシャールズスパイト、浦和からスピーディキックが参戦と、話題の多いダート頂上決戦だった。しかし、もっとも頭を悩ませたのがレモンポップの距離延長だ。終わってみれば無用な心配だったが、昨秋武蔵野Sでは最後の200m12.5と時計を要し、ギルデッドミラーに差された事実は重かった。
前走根岸Sは良馬場で1:22.5を記録。このレースを良馬場で22秒台だったのはサウスヴィグラスとモズアスコットの2頭しかおらず、前者は距離の壁に阻まれ、後者は連勝でダートGⅠ制覇まで駆け上がった。戦歴や競馬の形を考えると、レモンポップはサウスヴィグラス寄りのイメージもあった。
まして本番は戸崎圭太騎手から初騎乗の坂井瑠星騎手への乗り替わり。昨年GⅠ・2勝の腕達者でもGⅠで1番人気のテン乗り、超えなければならない距離の壁と克服すべき点は多かった。
理想的な競馬を展開
結果はこれぞまさに杞憂に終わる、完勝だった。スタート後、逃げ馬不在で並びが微妙な状況になり、内と外で先行姿勢を見せる馬が多くいるなか、ごちゃつき、馬の闘志に火がつくような場面もなく、冷静にさばいて後ろから追い上げてくる組にも位置を主張し、3列目の前をとった。前半600m34.6、800m通過46.6は直近3年とほぼ同じ。3、4コーナー付近、後半800mの入りが12.5とひと息入った点はレモンポップを含め好位勢に味方した。
距離克服のカギはどこからスパートをかけるか。早めに追い出さなければならない状況だけは避けたかった。この舞台で強気に先に動く先行型はおらず、どの馬も慎重に運び、かつ、このペースで余裕があったのはレモンポップだけ。後ろを引きつけられるだけ引きつける仕掛けは理想的だった。
当然、交わすのに手間取る相手もいない。武蔵野Sで差されたギルデッドミラーがおらず、瞬発力あるライバルもいなかった。残り600mは12.1-12.0-12.4。武蔵野Sは11.4-11.6-12.5なので、レモンポップは残り200mまで消耗を抑えることに成功。速いラップを刻み、最後に落ち込むような落差が生じれば、後続がつけ入るスキもあったが、このラップ構成ではそのスキは見当たらない。完璧な競馬だった。
冷静にレモンポップを勝利に導いた坂井瑠星騎手、そして長期休養明けの3歳暮れから間隔をとり、じっくりと1年以上かけてGⅠの舞台まで持ってきた田中博康調教師という若きホースマンたちの仕事も光った。中2週の距離延長は中1週で挑んだ武蔵野Sの経験も大きかっただろう。経験したことを好結果に結びつける、これこそ一流の仕事だ。
浦和のスピーディキックは惜しかった
レモンポップにとってはいい流れだったが、ほかの好位勢には厳しかったようで、2、3着は追い込み勢が占めた。2着3番人気レッドルゼルはレモンポップと同じように2年前に根岸Sから連勝を狙って4着に敗れた馬で、当時の敗因は距離だった。1600m出走はフェブラリーSのみで4、6着と結果を出せなかったが、今回は思い切って下げ直線に賭ける競馬で2着に好走した。
これも距離延長を克服する方法の一つ。正攻法でない分、展開や相手関係に左右されるが、3年目にしてはじめて馬券圏内に入ってきたので、レッドルゼルにとってはこれが答えだったにちがいない。このあとはドバイ遠征が待っている。いいリズムで迎えられそうだ。
3着4番人気メイショウハリオは発馬直後に躓き、落馬寸前。浜中俊騎手は前に飛びあがるような姿勢からよく堪えた。最後方から直線勝負にならざるを得なかったが、レモンポップ以外の先行勢が伸びあぐねたように、最後にスタミナを問う流れになったことで、自身の強みを発揮できた。ベストは中距離だが、直線勝負の東京も悪くない。
4着ドライスタウトはレモンポップの内に入る形で進み、4コーナー付近で先に手応えが悪くなってしまった。序盤の厳しい流れで揉まれる形になったのが響いただろうか。それなりに粘りを見せており、今回は経験の差が出た印象だ。
浦和のスピーディキックは大健闘の6着。序盤は後方から進めたが、残り400mで進路がなくなり、内に切りかえて抜け出しにかかったところで再度挟まれてしまった。2度のブレーキを考えれば、直線に入ってすぐ進路がクリアになっていれば、もっと際どかった。中央勢相手に東京競馬場でここまで走れれば、交流重賞は勝てる。実り多き挑戦を称えよう。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』『競馬 伝説の名勝負 GⅠベストレース』(星海社新書)に寄稿。
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