今村聖奈騎手と過去の“大型新人たち”の成績を比較 福永祐一騎手のルーキーイヤーにソックリ!?

SPAIA編集部

デビュー年・1600m以上での騎手別成績

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女性騎手の年間最多勝は通過点か

ルーキー・今村聖奈騎手の快進撃が止まらない。

先週末は小倉で自身最多となる週間21鞍に騎乗して4勝を挙げる活躍。これで4回小倉開催では7勝。トップの西村淳也騎手とは3勝差の2位につけ、劣勢ながら開催リーディング獲得の可能性を十分に残して最終週を迎えることとなる。

3、4月は計4勝にとどまった今村騎手だが、5月からは8、4、7、9勝と勢いに乗り、ここまでの勝利数は32。実働半年で32勝という数字は、3月デビューから年末までの10か月に換算するとおよそ53勝ペース。藤田菜七子騎手が2019年に樹立した、女性騎手によるJRA年間最多勝記録(43勝)を上回って余りある数字だ。このまま大きなケガやスランプなく無事に騎乗を続ければ、記録更新の可能性は高い。

女性騎手というくくりを抜きにしても、新人騎手が50勝以上を挙げるとなれば歴史的な快挙となる。今回はそんな今村騎手の騎乗に見られる特徴を、過去にデビュー年から顕著な成績を収めた“大型新人ジョッキー”たちの成績と比較しながら、データで解剖してみたい。

福永祐一騎手の初年度を超えられるか

JRA賞最多勝利新人騎手を受賞した騎手の中で、勝利数が特に多かったのが下記の4名。

デビュー年の勝ち星が多かった主な騎手,ⒸSPAIA



1987年 武豊 69勝
1996年 福永祐一 53勝
2008年 三浦皇成 91勝
2014年 松若風馬 47勝

武豊、福永両騎手はもはや説明不要だろう。三浦騎手も関東の上位~中堅騎手として地位を築き、2014年にはディアドムスでJpnⅠ・全日本2歳優駿を制覇。松若騎手も1位入線馬の降着による繰り上がりとは言え、モズスーパーフレアで2020年の高松宮記念を制している。

もちろん、当時とは見習騎手の減量特典制度が変わっているし、そもそも女性騎手特典もあるため同列には語れないが、そこは一旦おいておくことにして、今回はこの4名の新人時代と今村騎手の成績を見比べていく。

8月終了時点での勝利数は、武豊40勝、福永38勝、三浦51勝、松若28勝。福永騎手は9月以降ややペースダウンして年間53勝となるのだが、残る3名は8月までのペースを維持、もしくはそれよりやや速いペースで勝利している。前述のように現在32勝の今村騎手はこのままのペースなら53勝で、福永騎手の初年度成績を超えられるかが一つの焦点になる。

重賞での騎乗成績に着目すると、武豊騎手は20戦3勝、福永騎手は21戦未勝利で2着が4回、三浦騎手は22戦1勝。松若騎手は5戦しか騎乗がなく、最高が11着となっていた。新人騎手が重賞を1個勝つのもすごいことだが、それを3勝しているレジェンドの存在感が光る。今村騎手は先日のCBC賞で重賞初騎乗初勝利を挙げ、ここまで5戦1勝。秋にタイトルを積み上げられるか。

騎乗馬の平均人気を比べると、武豊5.2番人気、福永5.2番人気、三浦4.9番人気、松若7.4番人気。また、騎乗数では三浦騎手が783回で2位の松若騎手(599回)よりも圧倒的に多く、初年度は質、量ともにかなりの依頼を集めていたことが分かる。今村騎手は平均6.2番人気で、騎乗数はこのままのペースなら武豊騎手(554回)と福永騎手(518回)の間くらいになる想定。騎手本人の活躍が人気に影響する部分もあるので、人気馬に多く乗っている=馬質がいい、というわけではないが、それでも決して高くはない平均人気のなかで勝ち星を挙げられるのは技術の高さがあるからこそだろう。

「新人らしからぬ」騎乗成績?

今村騎手の大きな特徴として「短距離戦よりも中距離以上での成績がいい」という点が挙げられる。レース数がおおよそ半分程度となるように、1599m以下(「短距離」と表記)1600m以上(「中長距離」と表記)に分けて、各騎手の成績を見てみる。

デビュー年の短距離戦成績,ⒸSPAIA

デビュー年の中長距離戦成績,ⒸSPAIA



《デビュー年・1599m以下での騎手別成績》
三浦皇成【46-34-31-194】勝率15.1%、連対率26.2%、複勝率36.4%
武豊【32-26-21-137】勝率14.8%、連対率26.9%、複勝率36.6%
松若風馬【23-21-23-212】勝率8.2%、連対率15.8%、複勝率24.0%
福永祐一【17-14-18-175】勝率7.6%、連対率13.8%、複勝率21.9%
今村聖奈【10-5-8-126】勝率6.7%、連対率10.1%、複勝率15.4%

《デビュー年・1600m以上での騎手別成績》
今村聖奈【22-17-12-122】勝率12.7%、連対率22.5%、複勝率29.5%
福永祐一【36-35-27-196】勝率12.2%、連対率24.1%、複勝率33.3%
武豊【37-37-36-228】勝率10.9%、連対率21.9%、複勝率32.5%
三浦皇成【45-40-27-366】勝率9.4%、連対率17.8%、複勝率23.4%
松若風馬【24-22-17-257】勝率7.5%、連対率14.4%、複勝率19.7%

※今村騎手の成績は8月31日時点

一般論として、新人騎手は短距離やダート戦で減量を生かして先行し、そのまま押し切りを図るような騎乗で勝ち星を重ねるケースが多い。しかし、今村騎手の場合は短距離で勝率6.7%に対し、中長距離で同12.7%と後者の成績が明らかによい。中長距離での勝率は、比較5騎手の中でトップ。反対に、短距離での勝率6.7%は最下位にあたる。短距離戦を苦手にしているという見方もできるが、減量特典に頼らない騎乗ぶりともいえる。

実際、レースを見ていても無理に先行策をとるというよりは、スタートなりの自然なポジションで折り合い、馬場のいい進路にエスコートしながら直線で脚を伸ばすような騎乗スタイルが主。逃げを打つ割合(7.1%)も上記5騎手のなかで圧倒的に低い。強引さがなく、中長距離のレースで成績がいいのも納得という印象だ。

最後に余談だが、比較対象に挙げた騎手のうち、武豊、三浦、松若3騎手は短距離>中長距離という騎乗成績。ところが、福永騎手は中長距離で勝率12.2%、短距離で同7.6%と、今村騎手によく似た成績になっていた。前述の勝利数といい、今村騎手の成績は福永騎手の新人時代に近いものがある。奇しくも、福永騎手と今村騎手はエージェント(騎乗依頼仲介者)が同じ。大げさな言い方をすれば、「福永イズム」の後継者的な存在になっていくのかもしれない。

デビュー年・1600m以上での騎手別成績


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