芦毛馬の名勝負3選! 今も語り継がれる1988年のオグリキャップvsタマモクロス

高橋楓

オグリキャップとタマモクロス、1988年の戦績,ⒸSPAIA

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札幌記念でソダシとハヤヤッコの白毛馬対決

日本競馬に「白馬」という概念を定着させたのはシラユキヒメだろう。祖母のストームアンドサンシャインは重賞勝ちを含む北米の10勝馬。産駒にヘイローサンシャインといった種牡馬を輩出している一族である。その血統にサンデーサイレンスが配合され誕生したのがシラユキヒメだ。その血をひくソダシとハヤヤッコが21日の札幌記念で激突予定。実現すれば史上初の白毛馬対決となる。

そんな白毛馬が当たり前のようになる以前に、「白馬」と形容されたのは主に(高齢の)芦毛馬であった。今回は白毛馬対決に先んじて、芦毛の馬たちが繰り広げてきた名勝負や名レースを振り返ってみたい。

日本中の競馬ファンを興奮させた、オグリキャップvsタマモクロスのライバル対決

1988年、オグリキャップとタマモクロスの対決,ⒸSPAIA


正直に言うと、いつもどちらの馬を先にすべきか悩んでいる。オグリキャップとタマモクロス。私にとってどちらも大スターだ。1988年の秋は、この芦毛馬2頭のライバル対決が日本中の競馬ファンを大興奮させた。

オグリキャップは天皇賞(秋)までに、地方の笠松競馬場で12戦10勝2着2回、JRA転入後は無傷の重賞6連勝中。地方の叩き上げ、クラシック登録が無く裏街道を歩まざるを得なかった物語性など、競馬ファンから注目された存在だった。

一方のタマモクロスは芝の中距離戦で走るようになってから頭角を現し、その年の宝塚記念、天皇賞(春)を含む7連勝中だった。特に現在の京都金杯である、金杯(西)では3コーナーで後方2番手。4コーナーを回っても外に多頭数の壁があり、インに閉じ込められ進路をとれず万事休すの状態。にもかかわらず、直線だけでスルスルと馬群を縫うように追い込み、勝利をおさめた。まさに「白い稲妻」と呼ばれるに相応しい勝ちっぷりだった。

この連勝中の2頭が天皇賞(秋)でぶつかった。どちらも主役で、多くのファンがいる。レース当日。1番人気はオグリキャップで2.1倍。2番人気がタマモクロスで2.6倍。当時は馬連が無かったが単枠指定2頭の枠連オッズは2.4倍。それだけ注目されたレースだった。

一目見ようと集まった観客は12万人を超えていたと言われる。レースは先行策を選択したタマモクロスにオグリキャップが直線で挑む構図となり、ラスト200mでエンジンがかかった2頭の追い比べとなったが、最後まで1.1/4馬身の差は縮まらず。タマモクロスが天皇賞春秋連覇を達成。また、史上初のGⅠ・3連勝を成し遂げた瞬間でもあった。

続くジャパンカップはペイザバトラーが優勝し、タマモクロスが2着、オグリキャップが3着。最後の戦いとなった有馬記念ではオグリキャップが先行し、タマモクロスが追い込む展開。ラスト200mから一進一退の叩き合いの末、オグリキャップが半馬身タマモクロスを退け、有馬記念制覇を達成した。

1988年10月30日の天皇賞(秋)から12月25日の有馬記念までの約2か月間の出来事。されど30年以上経った今も色褪せる事無く、語り継がれる芦毛馬同士の名勝負だ。

1988年、オグリキャップとタマモクロスの対決,ⒸSPAIA


2010年阪神JF GⅠ史上初、芦毛馬の3着内独占

2010年阪神JFの芦毛馬の1~3着独占,ⒸSPAIA


見ていないレースほど、記憶に残っているということもある。2010年の12月。私は新卒で入社した会社を年内で退職する事が決まっており、この日は引っ越しだった。荷物を預け終わり色々な事を思い出しながら車で町田街道を走っていた。おもむろにラジオをつける。この日のメインレースは阪神JFだった。

1番人気は2連勝中で、前走のデイリー杯2歳Sを目の覚めるような末脚で制したレーヴディソール。2番人気もデビュー2連勝中のダンスファンタジア。桜花賞馬ダンスインザムードの初仔である。以下アヴェンチュラ、ホエールキャプチャ、リトルダーリンと続く。

レースはフォーエバーマークが好スタートを切るも、ピュアオパールが主張してハナを奪う形。先行争いは激しくならず、1000m通過は61.2秒というスローペースで落ち着いた。

ダンスファンタジアはやや掛かり気味で外を上がっていく。直線を向くと京王杯2歳Sの4着馬ライステラスがM.デムーロ騎手に導かれ先頭に立つ。父はこの年が産駒デビューとなったソングオブウインド。そして内の方からは池添謙一騎手騎乗のクロフネ産駒、ホエールキャプチャが抜けてきた。大外からはアヴェンチュラが脚を伸ばしてくるが、これは届きそうにない。ホエールキャプチャで決まりかと思った瞬間、父アグネスタキオン譲りの末脚でレーヴディソールがライバルたちをまとめて差し切った。

着差はわずか半馬身。しかし、10回やっても全てこの馬が勝つのではと思わせる程のパフォーマンスだった。この衝撃は次走のチューリップ賞で単勝1.1倍に支持された事からも分かる。

2010年の阪神JFは芦毛馬がワンツー、いや、馬体は黒っぽいが3着ライステラスも芦毛馬。GⅠ史上初となる芦毛馬が1~3着独占のレースとなった。

衝撃の世界レコード セイウンスカイ

1998年のセイウンスカイの戦績,ⒸSPAIA


1998年の牡馬クラシック戦線は熾烈を極めた。悲願の日本ダービー制覇を目指す武豊騎手とスペシャルウィーク。若き天才、福永祐一騎手が騎乗する世界的良血馬キングヘイロー。そして徳吉孝士騎手から横山典弘騎手に乗り替わったセイウンスカイ。この3頭が常に上位3番人気を独占した。

とりわけ筆者はセイウンスカイを贔屓にしていた。可愛らしい芦毛の馬体、強いのだけど1番人気にはならないもどかしさ。何より、周りが良血馬2頭にスポットライトを当てている事に反発心を覚えていた。競馬は血だけでなく、目の前で走っている馬が主役。セイウンスカイの1998年の成績を単勝オッズとともに振り返ってみたい。

4歳新馬 1着(12.0倍)
ジュニアカップ 1着(6.8倍)
弥生賞 2着(4.4倍・1着スペシャルウィーク)
皐月賞 1着(5.4倍)
日本ダービー 4着(4.9倍・1着スペシャルウィーク)
京都大賞典 1着(6.0倍)
菊花賞 1着(4.3倍)
有馬記念 4着(2.7倍・1着グラスワンダー)

特に菊花賞は衝撃的な勝ち方だった。ステップレースとして挑んだ京都大賞典は7頭立てながら、その年の天皇賞(春)を制したメジロブライト、前年の有馬記念覇者シルクジャスティス、春の古馬戦線を盛り上げたステイゴールド、古豪ローゼンカバリーなどを破り1着とますます力をつけていた。

菊花賞本番は3000mの長丁場にもかかわらず、最初の1000mを59.6秒という超ハイペースで逃げると、中間で息を入れた後、ラストの1000mを淀の下り坂を利用しながら一気に突き放す圧勝劇。菊花賞の逃げ切り勝ちは1959年のハククラマ以来。勝ちタイムの3分3秒2は当時の世界レコードだった。

どこまでいっても衰える事の無い強烈な逃げ脚は、今でも私の中で芦毛最強馬の1頭として胸に刻まれている。

《ライタープロフィール》
高橋楓。秋田県出身。
競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にてライターデビュー。競馬、ボートレース、競輪の記事を中心に執筆している。

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