【地方競馬対談】ジャパンダートダービーを元・大井所属ジョッキーと語る! 中央馬の評価、地方勢の最有力馬は?

山崎エリカ

地方競馬対談、山崎エリカ×上田健人,ⒸSPAIA

(提供:山崎エリカ)

地方競馬対談 第1回:上田健人(元・大井競馬所属騎手)

競馬研究家・山崎エリカが様々なゲストを招いて地方競馬の大レースについて対談を行う新連載。第1回のゲストは元・大井競馬所属ジョッキーの上田健人さん。2022年7月13日に大井競馬場で行われるジャパンダートダービーについて、有力馬の評価などを語ってもらった。

引退の真相、そして今……

山崎エリカ(以下:山) いきなり聞きます! 2019年10月31日(木)付けで突然、大井の騎手をやめられましたが、どんな経緯からですか?

上田健人(以下:上) 男も30歳を目前にすると、いろいろ考えさせられるんです。僕は2009年のデビューで10年間馬に乗りましたし、以前から10年ひと区切りだと考えていたので、乗せてもらえる機会も少なかったこともあってやめました。

 あと少し続けていたら、昨年のジャパンダートダービーのキャッスルトップのようなこと(*1)になっていたかもしれませんよ。仲野光馬騎手は南関東の「S」重賞すら勝ったことがなかったのに、初重賞制覇がJpnⅠでしたから。

 あははは。それだったら心置きなく騎手をやめられました。

 逆に勝つことへの欲が生まれてやめられなくなるんじゃないですか? 今になって後悔していませんか?

 正直に言うと、僕がやめた翌年にコロナの影響で競馬の注目度が高まり、馬券の売り上げも上がり、進上金も上がったので、もう少し騎手を続けていても良かったかもしれないとは思いました。でも、今は「境共同トレーニングセンター」で競走馬の育成厩舎を今年から経営させてもらっており、これはこれでやり甲斐があって充実しています。

 境共同トレセンのある群馬の伊勢崎は、先月末に40度越えの猛暑日がありましたが、夏は暑いですよね。馬も人もバテたりしませんか?

 馬に小まめに水を与えるなど、バテないようにさせるのが大変です。そういった管理はスタッフがやってくれていますが、調教をつけるのは僕ひとり。深夜1時半から馬に乗り出して、終わるのが9時半頃。この時期は2歳馬が多いですから、ゲートやレースの仕方も教えてあげないといけない。馬は群れる生き物ですが、そこを1頭で走らせたり、他の厩舎の馬と併せ馬をしたりと調教内容が濃くなっており、僕自身も体調を崩さないように、気をつけてやっています。

 自分が手がけた馬が走ってくれたらそれこそやり甲斐ですね。境共同トレセンは道営と南関の中継地点ということもあり、2歳馬が多いですよね。経由した2歳馬がけっこう走っている印象を受けます。

 トレセン内の施設が他と比べると広いので色々なことがやれます。まだデビューしていない2歳馬でも(1ハロン)15秒-15秒のところまではやるし、古馬もいつでもレースを使えるところまで乗り込んでいます。おかげさまで現在、厩舎の馬房が全て埋まっていて、もう1棟借りるかどうかを検討中です。

アースシェイカー2020と上田健人さん,ⒸSPAIA


写真はアースシェイカーの2020(父フリオーソ 大井・鈴木厩舎)「馬っ気があるけど、うちに在厩している2歳馬の中で、一番手応えを感じている」という。
(撮影:山崎エリカ)



予想スタイルは、パドックや返し馬?

 ところで私は予想をする時、指数を利用した能力の比較やコース適性、展開などで予想しているのですが、上田さんは何をベースに予想されていますか? 馬に接する機会が多い立場だけあって、パドックや返し馬ですか?

 実は……データ派です(笑)。僕は2016年にNAR年度代表馬になったソルテをずっと調教で乗っていたけど、その年の川崎・JBCスプリントの装鞍所でダノンレジェンドを見た時、腹回りがすごく痩せこけていて実際に馬体重もマイナス11kg。状態面はソルテの方が良かったけど、ダノンレジェンドが勝ったんですよね。

 そのJBCスプリントのダノンレジェンドは前哨戦の東京盃でコーリンベリーと競り合って5着と、久々に馬券圏外に敗れたことが人気に影響したところもあったのだろうけど、前走時まで何戦も連続で単勝1倍台、2倍台でほぼ1番人気に支持されていたのに、珍しく単勝5.3倍の3番人気と、人気がなかったんですよね。馬体減を気にしない人にとってはラッキーでした。

 騎手として馬に乗っていた頃は、実際に馬に跨がってみての背中の感触、やる気があるなどを感じた部分もあったんですけど、見た目でその馬の馬券を買う、買わないの決定的な判断材料にはならない。だから、パドックや返し馬は自分が買いたいと思った馬を最終チェックする程度でいいと思っています。

 馬に身近な方ほど、案外データ派と言うんですよね。芝がベスト、ダートがベストというのはおおよその目安がついたりしますか? 今回のジャパンダートダービーにコマンドラインが初ダートで出走しますが、これについてはどう思われますか?

 ダートは一般的に「重戦車のようなタイプが走る」と言われていますが、コマンドラインはディープインパクト産駒でそういうタイプではないですね。でも芝馬でも平気でダートを走りますから、そこはやってみないと分かりません。

 コマンドラインはPOG(*2)で1番人気の評価を受けるなど、デビュー前の評価が高かったことから、育成する側はそれこそ背中に何かを感じるものがあったのかもしれません。その「何か」がダート馬としての資質である可能性もありますが、個人的には休養明けで初ダート、それもトップオブトップが相手となると、ここを狙ってないのが見え見え。ここは買わず、ここで見せ場があったなら、次走のダート戦で買おうと考えています。

 僕もそんな感じ。他に買いたい馬がいるので、そこまで手を広げられません。

2022年ジャパンダートダービーに出走するコマンドライン,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)



ジャパンダートダービーの有力馬は?

 私は今回のジャパンダートダービーで、ハピブリッツファングノットゥルノが有力だと考えています。兵庫CSを8馬身差で圧勝したブリッツファングが1番人気の様相ですが、個人的にはハピの方が強く買いたいです。鳳雛Sで2着に下したタイセイドレフォンは次走の2勝クラス・弥富特別で8馬身差の圧勝、3着だったセイルオンセイラーも2勝クラス・鶴ヶ城特別を完勝しています。

 そうですね。ハピはこれまで3戦で全て上がり3F最速。終いまでしっかり伸びて内容もいいですから、昇級してもアッサリ勝つんじゃないかなと期待しています。揉まれないという意味で外枠の方が良かった(3枠3番)と思いますが、大井2000mなら最悪1角で揉まれない位置に出せます。勢いもあるのでそこに期待しています。

 ハピは鳳雛Sの時、3~4角で馬群の中目を通した際にひるんでややスムーズさを欠いていました。キックバックを嫌がったところはあると思うのですが、致命的ではなかったし、スタート後に躓く不利があった中での完勝。ブリッツファングよりも強調できるのは、ここで前進してきそうな点がいいです。

 ブリッツファングはこれまでの勝ったレースが圧勝でしたし、3歳馬、特にキャリアの浅い馬は成長力がありますから、中心視するならやっぱりハピかブリッツファングではないでしょうか。

2022年ジャパンダートダービーに出走するブリッツファング,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)



 確かに。ブリッツファングはこれまで負けたのがヒヤシンスSだけ。そのヒヤシンスSはフェブラリーSと同日で圧倒的に内が有利な日。外を回って6着に敗れたクラウンプライドは次走のUAEダービーで1着、11着に敗れたタイセイドレフォンは後の鳳雛Sの2着です。ブリッツファングも外から早めに動いて9着と敗戦理由がしっかりしています。そして、今年はユニコーンS組よりも兵庫CS組の方が上。個人的にはユニコーンSよりもノットゥルノを評価しています。

 ノットゥルノは兵庫CSではブリッツファングに離されましたが、園田1870mはコーナーを6回の小回りコースだから追走が忙しかった面がありました。そういう馬なのでコーナー4回の大井2000mの方が合いますね。今回は大外枠。武豊さんですから自分のリズムで走らせてくるでしょう。大井の外回りは直線が長くて、枠の有利不利もほとんどないですから、兵庫CS時よりも差が詰まりそうです。

 ノットゥルノが伏竜S時よりもパフォーマンスを落とした理由は、そんなところにあるのかもしれませんね。もっともその伏竜Sでも8頭立ての8番枠からのスタートで内に刺さって出負けしてしまい、そこから終始外々を追い上げ、早め先頭の競馬でけっしてスムーズだったとは言えませんでしたが。だからこそもっと能力の天井が上であると推測しているんですけどね。ユニコーンS組はどうですか? 私は消しの予定です。

 僕はペイシャエスは買いたいですね。大井は前開催で砂の入れ替えがあって走りやすくなっています。前開催時に入れ替えたのが宮崎産の砂。僕が騎手をやっていた頃は青森の東通村尻労産、その後が青森の六ケ所村産でしたが、特に東通村尻労産は不純物が多くて、砂の深さがその日によって違ったり、雨が降っても中央みたいに軽くならずに時計が掛かったりしました。ゴーグルにも砂がべったり(笑)。

 他の騎手に聞いても評判悪かったですね。確かに前開催は全体的に時計が速くなっていました。

 今の砂は乗り役に聞いても走りやすいと言います。雨が降った時にどうなるかまだわからない面もありますが、月曜日を見ても前が普通に残れていますから、前に行って粘ってくれるのを期待しています。

 地方馬はどうですか? 今年はJRA勢が手強いので苦戦しそうですが、地方勢で一番買いたいのはリコーヴィクターです。道営所属時はトップクラスと戦っていたし、テンからかなり激しい競馬になったJBC2歳優駿ではアイスジャイアントよりも先に動いて、同馬と小差の競馬ができています。また昨年の帝王賞のノンコノユメみたいに、ペースが速くなると決め打って着狙い騎乗をする真島大輔騎手というのもいいですね。

 プライベートでも仲のいいオーナーさんの馬ですから、真島さんも気合が入ると思いますが、僕はクライオジェニックの方を推したいですね。クライオジェニックは羽田盃まで前に行って揉まれない競馬をしてきましたが、東京ダービーでは初めて揉まれる競馬で結果を出しました。最後の脚色も勝ったカイルより良かったですし、ああいう競馬ができるなら、3着あるかないかのところまで持ってくる可能性がありそうです。


ゲストプロフィール
上田健人
大井競馬所属の騎手として2009年にデビュー。ラクテとのコンビで準重賞の’15ゴールドジュニアーなど7勝を挙げる。通算87勝を収め、2019年に現役引退。

山崎エリカ×上田健人、地方競馬対談,ⒸSPAIA


*1:2021年ジャパンダートダービーは13頭立て12番人気の船橋所属馬キャッスルトップと仲野光馬騎手が低評価をくつがえす大金星を挙げた。
*2:POG(ペーパーオーナーゲーム)。デビュー前の2歳馬を指名し、その獲得賞金やGⅠ勝利などを競うゲーム。



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