【京都新聞杯】ダービー出走を争う大激戦! 制したのはアスクワイルドモア、秋が楽しみなヴェローナシチー

勝木淳

2022年京都新聞杯回顧,ⒸSPAIA

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キャリア2戦が響いたブラックブロッサム

同日東京のプリンシパルSが最後のダービートライアル。京都新聞杯は日本ダービー出走に必要な賞金を稼ぐ最後の機会。ここからアグネスフライト、キズナ、ロジャーバローズがダービー馬に輝いた。決してダービーに出走するためだけのものではない。

3月末以来の中京芝はわずか5週間で絶好の状態に回復した。好時計連発で京都新聞杯の決着時計はレコードの2.09.5。これも翌日、3勝クラスで早くも更新されたように高速馬場だったことを割り引く冷静さを持ちつつも、勝ったアスクワイルドモアのインパクトは大きい。

1番人気ブラックブロッサムは重馬場の大寒桜賞1.3差圧勝。同じ舞台ではあるが、この日の馬場とは真逆の状況。キャリアはまだ2戦。適性を見極める材料が少ない経験値ゆえにモロさを見せての5着。1月デビューであり、まだまだ発展途上。ダービーへの道は閉ざされたが、成長とともに素質が開花するまで待ちたい。

一発勝負を選んだ厩舎力

上位はその経験値がものを言った。1着アスクワイルドモアは函館デビュー、ここが7戦目。札幌2歳Sでジオグリフの2着。ホープフルSでは武豊騎手にJRAGⅠ完全制覇をプレゼントするのではと話題になった。年明け初戦きさらぎ賞は0.2差4着。この結果を受けて皐月賞をあきらめ、日本ダービーを目標にここまで待機した。出走させるには一発勝負で結果を出さねばならない。考えられる最少手で進まないと、本番で勝負にならない。日本ダービーの勝ち方をよく知る厩舎らしい狙ったローテーションだった。

2着ヴェローナシチーは夏の小倉デビュー、今回6戦目。京成杯、すみれS3着、若葉S2着。間隔をとりつつ、ピンポイントでレースを消化、その上で崩れない堅実さがある。キズナで日本ダービーを勝った佐々木晶三厩舎もまた数々の経験を経て、ここにたどりついた。2着だったことで出走に必要な賞金ボーダーラインにはわずかに届かない公算が高い。本当に悔しい結果だった。

スタミナを見せたヴェローナシチー

1、2着の重賞経験は厳しい流れだからこそ、発揮できた。正面スタンド前を目一杯使う芝2200mで最内枠メイショウラナキラが先手を奪い、2番手にブラックブロッサムがつける。隊列はすんなり決まりそうなものだが、ダービーへのラストチャンス、1番人気が先行したとなれば、どの馬も離されまいと先を急ぐ。好位勢がプレッシャーをかけあい、ブラックブロッサムの勢いにメイショウラナキラもペースを落とせない。

前半1000m58.2は高速馬場を差し引いても遅くはない。それなりに速いペースでも道中は縦長にならず一団のまま。中団、後方にかけて、緊迫感ある空気がレースを包む。これこそ、日本ダービー出走を競う競馬だ。消耗戦になる流れだからこそ、中団よりやや後ろの最内にかまえたアスクワイルドモアは無駄な脚を使うことなく、勝負所まで進み、前半は後方にいたヴェローナシチーもプレッシャーから外れた位置にいた。

3、4コーナーでヴェローナシチーが引っ張り切れない手応えで外目を進出。レースが動き出す。それを察知したブラックブロッサムがメイショウラナキラを捕らえに出る。3コーナー手前残り1000mからのラップは11.8-11.8-11.8-11.7-12.1。超がつくロングスパート合戦を好位で受け、早め先頭の場面まであったブラックブロッサムは見所たっぷり。最後、力尽きたのは無理もない。これを押しきれたら怪物レベルだ。

ヴェローナシチーも11秒台連発のなか、馬群の大外を抜群の手応えで進み、ゴール寸前まで食い下がったわけで、心肺機能はかなり高い。悔しい敗戦ではあるが、負けて強しといっていい。これだけスタミナがあれば秋は楽しみだ。

強引だったが、勝てる競馬を選んだ岩田望来騎手

勝ったアスクワイルドモアは4コーナーを回る、ギリギリまで最内から動かず、脚を溜めるだけ溜めた。その分、進路がなくなるところを、4コーナーで思い切って斜めに横切るように外に出る。ここで岩田望来騎手は結果的に制裁を受けたものの、イチかバチか、一発勝負の賭けだった。強引だったのは事実、ヒヤッとする場面はあったが、日本ダービー出走を果たすためには、きれいに馬群をさばいては間に合わなかった。

4コーナーの立ち回りと我慢強さは、アスクワイルドモアが経験によって身につけたものでもあった。レース数をこなさないと、馬も上手に走れない。父キズナとはこれで親子制覇。キズナ産駒の親子制覇は20年ディープボンドに続き、2頭目。キズナ産駒は総じて我慢強く、持久力戦に強い。そのため、京都新聞杯と相性がいい。

上記のように京都新聞杯は高速馬場で行われた1000m勝負の持久力戦。日本ダービーも最近は高速馬場が定番。今年も東京は時計が速い。道中で緩まず、後半早めにレースが動き、お互い削り合うような持久力戦になれば、アスクワイルドモアにも好走できるチャンスはあるだろう。

2022年京都新聞杯回顧展開,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。

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