【NHKマイルC】3歳マイル王はダノンスコーピオン! 勝利に導いた陣営の冷静な選択と決断

勝木淳

2022年NHKマイルCのレース結果,ⒸSPAIA

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特筆すべきはアーリントンCを挟んだこと

日曜朝に行われたケンタッキーダービーは実力の抜けた馬が不在。混戦模様のなか、現地オッズで単勝最低人気、繰り上がり出走のリッチストライクがイン強襲。朝っぱらからド肝を抜いた。同日日本のメインNHKマイルCも力関係が難しい一戦だった。

最大のポイントはローテーションにあった。勝ったダノンスコーピオンは2歳時3戦。朝日杯FS3着はゴール前猛追した走りから距離が短かったように見えた。3歳時はクラシックも視野に共同通信杯から始動も7着と大敗。この一戦で陣営はマイル路線へとスイッチ。一戦で目標をマイルへ。ローテーション革命とはここに本質がある。

近年、特に3歳はもう一戦試してみようという粘りがなくなった。ドライな選択と決断が消耗を最低限にし、若駒の才能を開花させる。ダノンスコーピオンは陣営の選択によってマイル王についた。これはアーリントンCを使ったことも大きい。共同通信杯からマイルGⅠ直行ではなく、本番との間隔が詰まってもトライアルで再びマイル戦を経験させたからこそ、マイルGⅠ特有のタイトな流れに無理なく乗れた。

一貫してマイル路線を歩んだマテンロウオリオン

ローテーションの妙とは間隔をあけることだけではない。ゆったりと馬を追い詰めない使い方に、選択と決断が合わさることがローテーション革命の本質だ。

ゆったりローテという意味で、1番人気4着セリフォスは朝日杯FS以来4カ月半ぶりの出走。厳しい流れで一旦先頭の場面を作るも、最後に一杯になった。久しぶりの実戦が影響したか。もっとも、セリフォスは2歳時4戦、1、1、1、2着。成績に波がない全力疾走型だけに、4戦、最後にGⅠをも走った疲労からの立ち上げに時間を要した可能性はある。

ローテでいえば2着マテンロウオリオンも中1週、格上挑戦、シンザン記念と畳みかけるように賞金加算に成功。ニュージーランドTを叩いてここへ。ダノンスコーピオンとは対照的な一貫マイル路線というシンプルな形だった。リズム重視の横山典弘騎手らしい、タイトな流れを避ける追い込み。惜しかった。先行、差し、追い込みなんでもできる自在性は典弘騎手にとって理想ではないか。

4着セリフォスも将来は一流マイラーへ

主導権を握る可能性があったジャングロが出遅れて後方。先行勢がけん制し合う形になった。ジャングロ含めこの世代のマイル路線は飛ばす馬がおらず、平均ぐらいではないかと予想されたものの、どの馬が行くかわからない形になり、かえって活気ある先行争いに。前半800mは12.2-10.5-11.4-11.5で45.6。NHKマイルCは次週古馬牝馬ヴィクトリアマイルより速くなりやすいという傾向通りの展開。

後半は11.8-11.1-11.5-12.3、46.7。落ち着くところがなく、4コーナー手前から坂下で11.1。早めにペースが一段あがったため、先行勢は坂をあがって苦しくなった。そんな中、好位から抜け出し最後の200mまで粘ったセリフォスは、父ダイワメジャーらしいスピードと粘りがある。今後もマイル路線で活躍できる。

ダノンスコーピオンは大外枠からタイトな流れを外目追走。アーリントンCと比べるとスピードがあり、追走は楽だった。この日も朝日杯FSと同じく、瞬時に加速するわけではなく、追うたびにじわじわと加速、ゴール手前でトップスピードに入った。ペースが落ちる中距離戦では瞬発力で遅れをとる可能性はあり、持続力型らしくタイトなマイル戦、それも直線が長いコースがベストだ。

新種牡馬ドレフォンの可能性

驚いたのは3着カワキタレブリー。ケンタッキーダービーと同じく最低人気の激走だった。勝ったダノンスコーピオンと同じく前走アーリントンC組は同レースが4月に移ってから穴パターンのひとつではあったが、2、3着ではなく、11着カワキタレブリーとは。正直、天を仰ぐしかない。セリフォスが勝ったデイリー杯2歳Sで0.3差3着の実績こそあれど、年明けから取り立てて強調できる内容ではなかった。

道中も序盤から鞍上が促しながら後方追走。流れに乗れてはいなかった。それでも最後の直線は外目を伸びてきた。マテンロウオリオンほど後ろで脚を溜めたという状況ではないのに、最後まで走り切った。かなり根性がある。

新種牡馬ドレフォン産駒はダート替わりで一変する馬が多い一方で、皐月賞馬ジオグリフも出るなど懐が深い。ダート、皐月賞、NHKマイルC、共通するのは極端なペースチェンジが求められないこと。緩まないハイレベルな組み合わせ、もしくは先行型がそろうハイペースであれば、芝もダートも問わない。自戒を込めて、今回は取り逃がしてしまった方も今後の参考にしたい。

2022年NHKマイルCのレース展開,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。



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