【函館2歳S】「経験の差」で大逆転! ナムラリコリスとポメランチェの明暗を分けたのは?

SPAIA編集部

2021年函館2歳Sのレース結果,ⒸSPAIA

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ナムラリコリスが大逆転

函館2歳Sは世代最初のJRA重賞。6月の新馬戦に有力馬が集まるようになって数年経つが、このレースの主力は相変わらず函館(今年は札幌)でデビューした馬。クラシックを見据えてレース間隔をとるために早期デビューする勢力とは違って、短距離路線でどんどん賞金を稼ぐ、いわゆる「速攻系」が中心をなす。

この時期までに使えるレースは1回か、せいぜい2回程度。2歳7月時点での能力とレースセンスを競う一戦。生まれ持った気性と並んで、ここまでのレースで積んだ「経験」の質も問われる。

2019年生まれ世代最初のJRA重賞ウィナーに輝いたのは、これが3戦目のナムラリコリスだった。新馬戦では今回1番人気に推されたポメランチェがレコードで逃げ切る中で4馬身離れた2着。2戦目の未勝利戦を勝ちあがっての出走だった。

ナムラリコリスの過去のレース映像を見ると、道中は促していないと下がってしまいそうな渋い手応え。一般論として気性の勝った馬が新馬戦から駆けるといわれるのに対し、こういうタイプは叩いてレースを理解してからよくなることが多い。

これまで2戦とも、前に馬を見ながら追走し、4角~直線にかけては騎手の指示を聞いて自分の脚を使う。そんな「レースの作法」を分かったのか、ナムラリコリスは3番手を追走、少しずつ加速して抜け出す王道の競馬で後続を1.1/4馬身離して見せた。引っかかる面がなく距離の融通は利きそうで、暮れの阪神JFでも上位人気に名を連ねる可能性はある。

対照的に、新馬戦で4馬身後ろに置き去った相手から0.7秒差の7着に敗れたのがポメランチェ。昨年までの過去10年、函館2歳Sで「前走が4角2・3番手」だった馬は連対率17.9%、単/複回収率111%/111%に対し、「前走逃げた馬」は同10.7%、単/複回収率31%/75%。このうちキャリア1戦の馬、すなわち新馬戦を逃げて即ここ、という馬はさらに落ちて連対率8.8%。

もちろん、2着カイカノキセキのように結果を出す馬もいないではないが、少なくともポメランチェに関してはそうではなかった。前後半のラップは33.7-36.2。馬場差を考えれば新馬戦の33.6-34.3とは段違いに厳しい逃げだった。重賞の相手にプレッシャーをかけられての逃げは容易ではない。あくまで、いちデータ派の所見だが、こと重賞を目指す馬に関して新馬戦を逃げることの弊害は大きいように感じられてならない。昨年1番人気13着のモンファボリも同じような臨戦過程だった。

泉谷楓真騎手も重賞初勝利

ナムラリコリスの手綱をとったデビュー2年目、泉谷楓真騎手にとってもこれが重賞初勝利となった。これが6度目の騎乗だった。重賞で人気馬に乗るのは2回目。1回目は先日の函館SSで、2番人気シゲルピンクルビーに騎乗するも内で包まれてほぼ脚を使えず。悔しいレースとなっていた。

今回は新馬戦から3度目のコンビとなったナムラリコリスで、少頭数の外枠で乗りやすい条件とはいえ、道中を促しながら進めて文句なしの勝利。クセもつかんでの騎乗ぶりだった。レース後のコメントでは「(仕掛けるのが)早かった」と反省の弁も出たが、その向上心も含めて応援したくなる若武者である。

2着カイカノキセキは母が南関東のダートで活躍したカイカヨソウという血統背景。父キンシャサノキセキとはいえ、芝の快速馬が出たのは驚きだ。先述のように、新馬戦を逃げた直後かつ今回は距離延長という条件下、控える形であっさりと結果を出すのは容易ではない。レースセンスは非凡で今後が楽しみだ。

3着グランデは新馬戦5着、2.2秒差敗退からの重賞挑戦で驚きの穴を開けた。ちなみに、このレースを勝ったダノンスコーピオンは相当の評判馬、3着コナブラックも続く未勝利戦で勝ち上がり。かなりレベルの高い一戦だったようで、ここの出走馬は馬券的にも注目したい。

出遅れもあって10着に敗れた4番人気メリトクラシー。もともと本州デビュー組には厳しいレース傾向もあったが、それにしてもいいところがなかった。

これでルメール騎手は過去10年、夏競馬期間の2歳重賞【1-2-0-7】、単回収率30%、複回収率47%まで落ち込んだ。「ルメールが乗る」=「素質馬」というイメージで過剰人気になっているのは間違いないが、真のトップクラスは夏にそう出てこないということか。なお、10~12月の2歳重賞はルメール騎乗馬の単回収率122%。ルメールが乗る馬をただ買うだけでプラスになる、という情報も名誉のために付け加えておこう。

2021年函館2歳Sのレース展開図,ⒸSPAIA




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