【天皇賞(秋)】芝GⅠ8勝と4、5歳での連覇 アーモンドアイが日本競馬に起こした「革命」

勝木淳

2020年天皇賞(秋)レース展開インフォグラフィックⒸSPAIA

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数を使わないローテがもたらした偉業

グレード制導入後の1984年以降、海外を含む芝GⅠ最高勝利数は7勝。シンボリルドルフ、テイエムオペラオー、ディープインパクト、ウオッカ、ジェンティルドンナ、キタサンブラックの6頭。これら歴史的名馬たちが越えられなかった壁、芝GⅠ8勝をアーモンドアイが達成、芝GⅠ勝利数単独1位となった。

時代が異なる、もっと衝撃的だった、実際に対戦したら……なんて声もあるだろうが、競馬にタラレバはご法度。言ったところで虚しいだけだ。タラレバを語り始めると、もはや競馬をできなくなる。私たちは毎週小さいタラレバを捨て去って次に挑んでいる。記録はただ記録として残るのみなのだ。

さらに驚異的な記録は天皇賞(秋)を4、5歳で連覇したことだ。これもテイエムオペラオー、ウオッカ、ブエナビスタが挑戦、失敗している偉業である。4歳時に無敵を誇ったテイエムオペラオーも5歳秋は少しずつ成績を落としたように、この時期は成長曲線が3、4歳馬と交差する難しいタイミング。まして舞台はスピード、持続力、瞬発力どれも欠かせない総合力が問われる東京芝2000m。4、5歳での連覇は想像以上の偉業だと考える。

その要因のひとつは今回が安田記念以来、中146日ぶりの出走だったことにあるだろう。アーモンドアイは現代競馬の革命戦士だ。シンザン記念から桜花賞、オークスから秋華賞など異例のローテーションで勝利を重ねた。

前哨戦を使わずに最小レース数でGⅠを勝つ、そんなアーモンドアイのローテ革命はコントレイルやデアリングタクトに受け継がれ、今やトレンドとなった。14戦でGⅠ8勝、4戦目の桜花賞から出走はGⅠのみ、5歳秋に訪れるであろう能力の下降を抑え、フレッシュさを維持できた秘訣はここにある。

アーモンドアイが示した“最強の条件”

また、この天皇賞(秋)のレースぶりにも偉業達成の要因が集約されている。ダノンプレミアムが逃げて作ったペースは前半1000m60秒5。ゲートを決め、無駄なく好位3番手を確保。スローでも折り合いひとつ欠かずレースを進めた。好位で流れに乗りながらかつ最後に瞬発力を発揮できる、アーモンドアイの競馬は実に合理的で死角がない。

後半1000mは57秒3、とりわけ最後の600mは10.9-11.1-11.6。ダノンプレミアムが決定的な差を作ろうと、4角手前から400m標識まで10.9と加速した。キセキやダイワキャグニーは突き放せてもアーモンドアイは気合をつける程度で対応した。そこから追い出すと坂下から11秒1。ダノンプレミアムには抵抗する術がなかった。ゴール前100mはさすがに左右にふらつくような場面はあったが、追い上げるフィエールマン、クロノジェネシスとはそれこそ決定的な差がついていた分、しのぐことができた。

前半で脚を溜めて切れるディープインパクト産駒とは異なるスピードを父ロードカナロアから受け継ぎ、母の父サンデーサイレンスが引き出す瞬発力を備えたアーモンドアイは、日本の競馬がこれから進むべき道を示した次代への旗手である。どうか無事に競走生活を終えてほしい。

もったいない競馬だった2、3着馬

上がり600m最速の32秒7を記録した2着フィエールマン、次位32秒8で3着だったクロノジェネシスはどちらも前半のミスが響いた。クロノジェネシスはパドックでもっとゆったり堂々と歩ける馬だったが、この日は落ち着きを欠き、その影響なのかスタートで出遅れた。アーモンドアイ同様に前受けできる馬だけに後手を踏んだのは痛恨だった。後方からでもしっかりとした脚を見せていただけにもったいない。

フィエールマンは2角までに両側から挟まれ上にクロノジェネシスと再三接触するような場面があり、こちらも位置取りがかなり後ろになってしまった。2000m戦への出走は昨年の札幌記念以来だったが、十分対応できたといっていい。ゴール前の脚色は目立っており、新馬以来の出走だった東京コースはベスト条件だろう。戦歴はステイヤーではあるものの中距離でも戦えたことで選択肢はさらに広がる。こちらもアーモンドアイと同様に「使わない」ローテで結果を出してきた馬でキャリアはたった11戦。まだまだ活力は十分に残っている。

4、5着のダノンプレミアムとキセキはスローペースを先行した結果であり、後ろからきた2、3着馬に完敗だったことからも強調すべき点は少ない。この結果から復調気配とみられ、次走で上位人気に支持されるようであれば嫌ってみたい。

天皇賞(秋)レース展開図



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。



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