【府中牝馬S】良馬場で見直したい上位人気馬 道悪適性くっきりの一戦

勝木淳

2020年府中牝馬Sレース展開インフォグラフィックⒸSPAIA

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トロワゼトワルと横山典弘騎手

ありがたいことに競馬場に入場する権利が抽選で当たった。スタンドの屋根を叩く雨音がやたらと響く静寂の競馬場はなんとも寂しく、不思議な雰囲気だった。まずは第一歩、入場門をくぐることができたことを幸いとしたい。

府中牝馬Sは雨の影響を大きく受けたレースだった。まずはここを押さえておきたい。競馬は記憶と記録が頼りであり、このレースの各馬の評価は明確に覚えるべきだろう。勝ち時計1分48秒5。過去10年、4回東京2週目に行われたが、48秒台を記録したのは今回で3回目。過去2回は良馬場で1000m通過63秒8のスローペースだった13年、やや重で1000m通過61秒9、クロコスミアが逃げ切った17年。

今年は重馬場ながら1000m通過は59秒6。馬のリズムを重視する横山典弘騎手がすでに手の内に入れているトロワゼトワル。前半から突っ込んでラップを刻む形を崩すことはない。2角から向正面に入ったあたりの序盤200m通過後から11.5-11.4-11.5、前半800m47秒4は馬場を考えれば強烈な流れだった。内側を避けつつ逃げ馬を深追いしないように折り合いに専念した番手ダノンファンタジーとの差は向正面で広がる一方。その背後にいたラヴズオンリーユー、フェアリーポルカら上位人気馬は道悪に加えて、動きにくい難しい展開となってしまった。

ダノンファンタジーがトロワゼトワルとの間合いを詰めに行った残り800~600mは12秒7。トロワゼトワルはコーナーを利用して息を入れていた。前半突っ込んで入りながら、勝負所でひと息入れる、まるで競馬を理解しているかのような狡猾さを持った馬だ。ダノンファンタジーは横山典弘騎手の悪魔的な誘いに乗ってしまった形も、人気を考えればやむを得ないところだ。並んだところから11秒8と再加速されては追う側は辛い。

結果4着だったトロワゼトワルは、道悪歓迎とはいえないタイプで距離もやや長かった印象。それでも見せた今回の走りから、充実期に入っていることがわかる。今こそさらなるタイトルが欲しい。

明暗を分けた道悪適性

この前半の攻防から一歩下がっていたのがサラキア。道悪は苦手な印象があった戦績ながら、4角で大外を上がる走りはそれを一切感じさせなかった。先行勢からひと呼吸遅らせた仕掛けは絶妙で、ラヴズオンリーユーが目いっぱい追う横で手応えは抜群、追い出すと一気に内側にいる馬たちを飲み込んだ。

夏の小倉日経OPでなにか吹っ切れた印象があったが、それは本物だった。母サロミナ、弟は先週同舞台の毎日王冠を快勝したサリオス。この血統にとって東京芝1800mはベストといっていい。

2着シャドウディーヴァ、3着サムシングジャストは6、8人気。人気薄の気楽さもあり、前半の流れには一切付き合わず後方待機。展開が見事にハマった。2着シャドウディーヴァは内田博幸騎手に注目。芝の成績をみると、もっとも勝率が高いのは重馬場という道悪ジョッキー。力強い追いっぷりは馬場状態が悪いときにより効力を発揮するということか。

3着サムシングジャストはやや重だった同舞台(初音S)でオープン入りしたときと同じくインを突いてきた。各馬が避けていたように内側の状態は悪く、そこを抜けてくるあたり道悪適性がかなり高そうだ。最後に苦しくなってトロワゼトワルに寄ったところは惜しかったものの、こちらは牝馬同士の重賞で道悪になった際に買いたい。

8頭立てながら7、6、8人気と下位3頭で決まる難解な一戦だったが、負けた上位人気馬も上位に来た人気薄も道悪が左右した結果。良馬場で改めたい上位人気馬、道悪になったら買いたい上位好走馬と、きちんと整理して記憶したい。

府中牝馬Sレース展開


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。

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